【判例解説】遺族給付の配偶者該当性:事実上の離婚状態は除外(最判令和3年3月25日)
30秒で要点
結論:民法上は婚姻中でも、実体を失い固定化した「事実上の離婚状態」なら、遺族給付の「配偶者」に当たらない。
理由:制度目的は「被用者の収入に依拠していた遺族の生活保障」。家族の実態に即して配偶者を解すべきだから。
注意点:単なる別居では足りない。実体喪失+固定化+近い将来解消見込なしという事情の総合評価が要。
まず結論
本判例は、事実上の離婚状態の配偶者を「遺族給付の配偶者」から外し、次順位の子の受給権を認めた。中退共・企業年金・厚年基金規約の解釈を、生活保障目的に沿って実態本位で示した重要判例。
事案の概要
死亡退職金・遺族給付金・遺族一時金の最先順位「配偶者」該当性が争われ、実態重視で配偶者性を否定し、子の受給を認めた。
被上告人の母Aは平成26年に死亡。当時、中小企業退職金共済の被共済者、企業年金基金(JPP基金)の加入者、出版厚生年金基金の加入員であった。Aの民法上の配偶者Cは平成4年頃から別居し、以後同居・扶養実績に乏しく、婚姻は実体を失っていた。Aは死亡前日に危急時遺言でCの廃除を意思表示し、その後家庭裁判所でも推定相続人の廃除が認められた。子である被上告人は、各制度の規約に基づき遺族給付の支払いを求めた。
争点の整理
「配偶者」の解釈基準と、別居・不扶養等の事実がその該当性に与える影響
- 争点1:中退法14条1項1号等にいう「配偶者」を、民法上の形式ではなく生活実態で捉えられるか。
- 争点2:事実上の離婚状態の判断要素(実体喪失、固定化、近い将来の解消見込なし)
- 争点3:各制度(中退共/企業年金基金/厚生年金基金)の規約構造の違いが結論に影響するか。
裁判所の判断
生活保障という目的から実態本位で解し、事実上離婚状態の配偶者は「配偶者」に当たらない。
最高裁は、中退法14条1項が遺族の範囲を定めた趣旨は「被共済者の収入に依拠していた遺族の生活保障」にあり、民法の相続とは別の観点で受給権者を定めるものと指摘。これに照らし、互いに協力して共同生活を営む実態がある者を配偶者と解すべきで、婚姻関係が形骸化し固定化した場合(事実上の離婚状態)は配偶者に当たらないとした。確定給付企業年金法47・48条、厚生年金基金令26条2項に基づく遺族給付についても同旨とし、Cの受給資格を否定。子の請求を認容した原審を是認し、上告を棄却した。
実務への影響・チェックリスト
別居=当然除外ではない。総合事情の資料化が鍵。
- 別居の経緯・期間・動機(転勤等の合理事由か、関係破綻か)。
- 相互の扶助・連絡状況(生活費負担、看護・葬祭、交流の有無)。
- 第三者供述・文書(住民票、送金記録、保険受取人の指定状況等)。
- 固定化の程度(長期、修復努力の不在、近い将来の解消見込)。
- 規約文言の確認(事実婚含む旨の明記有無、順位規定、指定制度)。
- 相続との整理(多くは相続財産ではなく受給者固有の権利。制度差に注意)。
似た場面での分岐点
「別居の理由・実態」で結論が変わる。
- 仕事等の合理的別居で交流・扶助が継続 → 配偶者性肯定に傾く。
- 長期別居・不扶養・交流断絶・再同居見込なし → 配偶者性否定に傾く。
- 事実婚のパートナー(規約が含むと定める場合あり) → 配偶者性肯定の余地。
判例比較表
項目 | 本件(最判令和3年3月25日) | 比較(一般的な別居事案) | 実務メモ |
---|---|---|---|
配偶者該当性 | 事実上離婚=否定 | 仕事都合の別居=肯定の余地 | 目的適合的解釈:生活保障に資するか |
判断要素 | 実体喪失・固定化・解消見込なし | 交流・扶助の継続 | 証拠で「固定化」を示す |
相続との関係 | 受給は相続と別枠(規約ベース) | 同左 | 相続財産性は制度で異なる |
よくある質問(FAQ)
関連判例・参考情報
- 最判令和3年3月25日・第一小法廷(令和2年(受)753号・754号)主文:各上告棄却
- 中小企業退職金共済法14条1項1号(遺族の順位)
- 確定給付企業年金法47条・48条(遺族給付金の支給・遺族の範囲)
- 厚生年金基金令26条2項(遺族の範囲・順位)
- 第一法規『D1-Law.com 判例体系』判例ID:28290974