共同相続人が相続した土地に建物を建てて独占的に使用しても取得時効は認められないとした事例|大阪高判平成29年12月21日
相続した土地が共同相続人の共有になっている場合、そのうちの一人が土地に建物を建てて長年独占的に使用し、賃料収入を取得し、固定資産税を払い続けてきたとしても、そのことだけで当然に取得時効(民法162条)が成立するわけではありません。本判例は、共有土地に共有者の一人が建物を建てて独占的に占有したという事実があっても、それだけでは他主占有が自主占有に変わったとはいえず、所有者として占有しているとみられる事情(自主占有事情)も直ちには基礎づけられないと判断し、第一審が認めた取得時効を否定した事例です。共同相続人の一人が相続不動産を事実上独占している争族の場面で、取得時効の成否を考えるうえで参考になります。
判例情報
- 裁判所:大阪高等裁判所
- 判決日:平成29年12月21日
- 事件番号:平成29年(ネ)第1486号、平成29年(ネ)第2341号
- 関連条文:民法162条、180条、185条
事案の概要
本件は、共同相続した土地を相続開始の直後から単独で使用してきた長男が、その土地に賃貸マンションを建てて20年以上独占的に占有したとして、他の共同相続人である弟妹を相手に、取得時効を理由とする所有権移転登記手続を求めた事案です。
登場人物
- A(被相続人):本件土地(もとは農地)の所有者。昭和37年に死亡。
- X(Aの長男):本件土地を相続開始の直後から耕作し、後に賃貸マンションを建てた人物。取得時効を主張した側(第一審原告・控訴審被控訴人)。宅地建物取引主任者の資格を持ち、不動産業を営んでいた。
- Y1(Aの長女):Xから「嫁に行った者は土地について口出しするな」という趣旨のことを言われ、遺産相続から事実上排除されていた人物。取得時効を争った側(第一審被告・控訴審控訴人)。
- Y2(Aの二男):Y1らと同じ立場。
- Y3(Aの三男):成年被後見人。Y1らと同じ立場。
- Y4(Aの四男):Y1らと同じ立場。
なお、Aの妻(Xらの母)も本件土地の共有者の一人でしたが、Aより後の平成18年に死亡しています。
時系列
- 昭和37年:A(被相続人)死亡。本件土地は、Aの妻と子5名(X・Y1〜Y4)の共有となる
- 昭和37年以降:Xが本件土地を農地として耕作し、占有を続ける
- 昭和46年:土地区画整理の換地処分により、本件土地が農地から宅地となる
- 昭和48年7月:Xが本件建物(賃貸マンション)の建築請負契約を締結
- 昭和48年11月30日:Xが請負代金を全額支払う
- 昭和48年12月24日:本件建物が完成(控訴審の認定。第一審は完成時期を昭和54年8月30日と認定した)
- 昭和54年8月30日頃:本件建物の西側に自転車置場が新築される
- 昭和59年以降:Xが本件土地の固定資産税等を全額納付
- 平成18年:Aの妻が死亡
- 平成26年8月:XがY1らに対し、本件土地をXが取得する内容の遺産分割協議書の作成を求めるが、Y1らは拒否
- 平成27年5月28日:Xが第一審第一回口頭弁論期日で取得時効を援用
- 平成29年4月26日:第一審(京都地方裁判所)判決。Xの取得時効を一部認容
- 平成29年12月21日:控訴審(大阪高等裁判所)判決。第一審を取り消し、Xの請求をいずれも棄却
経緯
Aは、生前、農業と瓦葺職人をしていました。本件土地はもともとAが所有する農地で、昭和37年にAが死亡したことにより、Aの妻と子5名の共有となりました。Aの遺産には本件土地以外にも複数の土地がありましたが、それらについては、Aの死亡後、いったん相続人が法定相続分に従って共同相続した旨の登記がされた後、錯誤を原因とする更正登記、持分の放棄、共有物分割などを原因とする登記が繰り返され、最終的に多くの土地がX名義になっています。
長男のXは、Aの死亡直後から本件土地を農地として耕作し、占有を続けていました。昭和46年に区画整理によって本件土地が宅地になると、Xはそこに賃貸マンション(本件建物)を建てて第三者に貸し出し、賃料等を全額自分のものとしてきました。固定資産税等も、遅くとも昭和59年以降はXが全額納付しています。一方で、他の共同相続人であるY1らは、本件土地をまったく使用していませんでした。
Xは、本件土地はもともと自分が単独で相続したものだと主張しました。その根拠としてXが挙げたのが、昭和40年1月25日付けの遺産分割協議書です。しかし、この協議書には、共同相続人であるAの妻とY1が加わっていませんでした。Y1については、Aの遺産相続手続について問い合わせたところ、Xから「嫁入りした女は家の人間ではない。土地について一切口出しするな」という趣旨のことを言われ、Xに対する恐怖心もあって遺産について口出しできないと考えていた、という事情がありました。
Aの死後長く本件土地を使い続けてきたXは、平成26年8月、Y1らに対し、本件土地をXが取得する内容の遺産分割協議書の作成を求めましたが、Y1らはこれを拒否しました。そこでXは、Y1らを相手取って、所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記手続を求めて訴えを提起しました。Xの請求の組み立ては、(主位的に)昭和37年に成立した遺産分割協議によって本件土地を単独相続し、その時点から20年間自主占有したので時効取得した、(予備的に)昭和48年または昭和54年に本件土地上に賃貸マンションを建てたことで自主占有を開始し、その時点から20年間自主占有したので時効取得した、というものでした。
第一審(京都地方裁判所)は、主位的請求(遺産分割協議を根拠とするもの)は退けたものの、予備的請求の一部、すなわち昭和54年8月30日を起算日とする取得時効を認め、Xの所有権移転登記手続請求を認容しました。これを不服とするY1らが控訴し(必要的共同訴訟であるためY2・Y3も控訴人となりました)、Xも、第一審が退けた予備的請求のうち昭和48年12月24日を起算日とする部分を控訴審の審理範囲に加えるため、附帯控訴をしました。これにより、控訴審では予備的請求(昭和48年起算・昭和54年起算の双方)が審理の対象となり、第一審で既に棄却され不服申立てのなかった主位的請求(遺産分割協議を根拠とするもの)は、控訴審の審理の対象には含まれていません。
争点
争点:共同相続人の一人が相続土地に建物を建てて独占的に占有したことで、その占有が自主占有に変わったといえるか
本件の本質的な問いは、もともと他主占有(所有の意思のない占有)にとどまっていた共同相続人の占有が、建物の建築と独占的な使用によって、自主占有(所有の意思のある占有)に変わったといえるかという点にあります。
取得時効が成立するには、所有の意思をもってする占有(自主占有)が一定期間続いたことが必要です。ところが、相続によって共有となった土地を共同相続人の一人が占有している場合、その占有は、自分の持分を超える部分については、占有を始めた権原(持分しか持たない共同相続人の地位)の性質上、所有の意思のない占有(他主占有)と評価されます。そこで、他主占有が自主占有に変わったといえるか、すなわち民法185条にいう「新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始め」たといえるか、または他の共同相続人に対して「所有の意思があることを表示」したといえるかが問題になります。
X(被控訴人)の主張:共同相続人の一人が、遺産である土地を単独相続したものと信じて疑わず、現実にこれを占有し、その管理・使用を専行して収益を独占し、公租公課を負担したのに、他の共同相続人がこれに関心を持たず異議を述べなかった場合には、その新たな事実的支配は、所有者として占有しているとみられる事情(自主占有事情)があるものとして、自主占有を開始したと評価される。本件では、昭和40年の協議でXが本件土地を単独相続することになり、Xは本件土地を単独相続したと信じて疑わなかった。そのうえでXは昭和48年に賃貸マンションを建てて以後賃料を全額取得し、固定資産税等も全額納付してきたのに対し、他の共同相続人は本件土地を使用せず、Xの使用収益に異議を述べることもなかった。したがって、建物の建築による独占的な占有には自主占有事情があり、Xは自主占有を開始した。
Y(控訴人ら)の主張:Xは共同相続人の一人にすぎず、本件土地の占有は、その性質上所有の意思を欠くものである。XはY1を遺産相続から排除し、他の共同相続人にも専横な態度を取っていた。Y3は成年被後見人でもあり、控訴人らはAの遺産分割に口出しすることができないまま、Xが本件土地上に建物を建てたことも知らず、長年にわたって異議を述べることができなかった。そのような事情のもとでは、Xが建物を建てたからといって自主占有事情があったとはいえず、自主占有は否定されるべきである。
なお、第一審・控訴審では、「Xによる取得時効の援用が権利の濫用に当たるか」という点も争点(争点二)とされていましたが、控訴審は上記の争点だけで結論を出したため、この権利濫用の点については判断していません。
裁判所の判断
判旨の要約
- 結論:共有となった相続土地を共同相続人の一人が相続開始の直後から単独で占有し、その後に建物を建てて独占的に使用してきたとしても、その占有は他主占有にとどまり、自主占有に変わったとはいえないから、取得時効は成立しない。
- 理由:共有土地に共有者の一人が建物を建てても、他の共有者との間で建物所有を目的とする土地の利用権が合意されていなければ、それは他の共有者の持分を無断で使用しているにすぎず、建物の建築と独占的な占有という事実だけでは、当然に自主占有になったとも、自主占有事情が直ちに基礎づけられるともいえない。加えて、本件では相続人全員による遺産分割協議が成立しておらず、占有者が単独相続したと信じて疑わなかったとはいえず、他の共同相続人に所有の意思を表示した事実もないことから、自主占有への性質変更は認められない。
判決文の引用
控訴審は、まず、Xの占有がもともと他主占有であることについて、次のように判示しました。
被控訴人は、太郎の共同相続人の一人として本件土地の持分一〇分の一を有するにすぎないのであるから、本件土地の持分一〇分の九についての被控訴人の占有は、権原の性質上客観的にみて所有の意思がないのであって、被控訴人の本件土地に対する占有は、単独所有者としての所有の意思を伴うものということはできず、これを自主占有ということはできない。
そのうえで、建物の建築によって占有の性質が自主占有に変わったかどうかについて、次のように述べています。
建物を建築してその敷地に対する独占的な占有を開始したという事実があっても、そのことから当然に、当該占有開始時に土地の占有権原が当然に自主占有になったということはできないし、単独所有の土地となったものと信じて当該不動産の占有を始めたなどの自主占有事情が直ちに基礎づけるものでもない。
判例の考え方
控訴審の判断は、Xの占有の出発点を確認するところから始まります。本件土地は、Aの死亡によって、Aの妻とXら子5名の共有になりました。Xは相続開始の直後から本件土地を単独で耕作してこれを占有してきましたが、Xはあくまで共同相続人の一人として持分を有するにすぎません。自分の持分を超える部分の占有は、占有を始めた地位の性質上、客観的にみて所有の意思を伴わないものです。つまり、Xの占有は出発点において他主占有であり、このままでは何年続けても取得時効は成立しません。
そこで控訴審は、この他主占有が自主占有に変わったといえるか、民法185条にいう「新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める」に至ったかどうかを順に検討していきます。
第一に、遺産分割協議です。Xは昭和40年1月25日付けの遺産分割協議書を根拠に、本件土地を単独相続したと主張しました。しかし、控訴審は、その協議書には法定相続人であるAの妻とY1が加わっていないことが書面自体から明らかであり、仮にこの協議書が真正な文書であったとしても、その日に相続人全員の間で遺産分割協議が成立したとはいえないとしました。さらに、Xが当時すでに不動産取引の資格を持ち不動産業をしていたことも踏まえると、XはY1が共同相続人の一人であることを知りながら、あえてY1を排除してこの協議書を作成したと推認されるとして、Xが本件土地を単独相続したと誤信した、あるいはそう信じて疑わなかったということはできないと判断しました。遺産分割協議という新たな権原は認められず、Xが「単独相続したと信じて疑わなかった」という前提も成り立たない、ということです。
第二に、建物の建築です。控訴審は、共有土地に共有者の一人が建物を建てた場合について、一般論として、他の共有者との間で建物所有を目的とする土地の賃貸借や使用貸借が合意されていなければ、それは他の共有者の持分を無断で使用しているものと考えられる、と整理しました。そのうえで、建物を建てて敷地を独占的に占有し始めたという事実があっても、そのことから当然に占有権原が自主占有になるわけではないし、単独所有の土地になったと信じて占有を始めたなどの自主占有事情が直ちに基礎づけられるわけでもない、としています。本件でも、相続人全員の間で遺産分割協議がされていない以上、Xは、本件土地を共同相続人の一人として占有していることを認識したうえで、建物を所有して本件土地を占有しているにすぎないと評価すべきだ、というのが控訴審の見方です。
第三に、他の共同相続人が異議を述べてこなかったという事情の評価です。控訴審は、Xが昭和48年以降本件土地を独占的に使用し、Y1らがそれに異議を述べた事実が見当たらないことは認めました。しかし、異議を述べていないからといって、Y1らが相続分を主張して遺産分割を求めたり、賃料相当額の精算を求めたりする権利行使が妨げられる事情があるわけではないとしています。さらに、少なくともY1については、Xから遺産相続について口出しするなと言われ、遺産分割協議の機会すら与えられずに明確に排除されていたのだから、Xの独占的な使用を容認していたとはみられない、と判断しました。
第四に、所有の意思の表示です。民法185条は、新たな権原による占有開始のほかに、自分に占有をさせた者に対して「所有の意思があることを表示」することによっても占有の性質が変わるとしています。しかし控訴審は、Xが建物の建築を機にY1らに対して自分が本件土地の所有者であると伝えるなど、所有の意思があることを表示した事実を認めるに足りる証拠もないとしました。
以上を総合して、控訴審は、建物の建築による独占的な使用状態をもって自主占有事情があったとするXの主張は採用できず、Xが本件土地の自主占有を開始したとは認められないと結論づけました。
結論に至る処理
控訴審は、Xが自主占有を開始したと主張する二つの時点のいずれについても、取得時効の成立を否定しました。昭和48年12月24日については、その日に建物が完成したことは認めつつ、上記のとおり自主占有事情がないとして、これを起算日とする時効取得の主張を退けています。昭和54年8月30日については、その頃に新築されたのは建物西側の自転車置場にすぎず、Xの本件土地の占有状況に変化はなかったとして、新たに自主占有事情を問題とする余地はないとしました。
その結果、控訴審は、原判決のうち控訴人ら(Y1ら)が敗訴した部分を取り消し、その部分についてのXの請求をいずれも棄却し、あわせてXの附帯控訴も棄却しました。なお、この控訴審判決に対するXの上告は棄却され、上告受理申立ても受理されず、判決は確定しています。
ここで注目しておきたいのは、第一審(京都地方裁判所)が逆の結論を出していたという点です。第一審も、Xの占有が出発点では他主占有であること自体は同じ前提に立っていました。しかし第一審は、Xが本件土地の主要な部分を敷地とする建物を建て、現在に至るまで賃料収入を独占的に取得し、固定資産税等を長年納付してきたことを重視しました。そして、土地の上に建物を建てる行為は共有物の変更または管理に当たる行為であって、わずかな持分しか持たないXが単独で決めて実行できる行為ではないから、これは共有者としての振る舞いを超えた行為であると評価し、自主占有事情が認められるとして、取得時効を認容していたのです。
同じ「建物を建てて独占使用してきた」という事実を、第一審は「共有者の振る舞いを超えた行為」として自主占有事情を基礎づけるものと評価し、控訴審は「他の共有者の持分を無断使用しているにすぎない」として自主占有事情を基礎づけないものと評価しました。自主占有事情の有無が、評価しだいで結論を分け得る微妙な判断であることを、この事案ははっきりと示しています。
判例の射程
「建物所有を目的とする土地の利用権の合意がない」場合を前提とした判断であること
控訴審は、共有土地に共有者の一人が建物を建てた場合の一般論を述べるにあたり、「他の共有者との間で建物所有を目的とした土地の賃貸借又は使用貸借が合意されていないという場合」という前提を明示しています。本判例は、この前提のもとで、建物の建築が他の共有者の持分の無断使用に当たると評価したものです。したがって、他の共有者との間で建物所有を目的とする利用権が合意されているような場面は、本判例が直接扱った場面ではありません。
「当然に」「直ちに」という限定の意味
控訴審は、建物を建てて独占的に占有し始めた事実があっても、そのことから「当然に」自主占有になるわけではなく、自主占有事情が「直ちに」基礎づけられるわけでもない、という言い方をしています。これは、建物の建築という事実がおよそ自主占有事情と無関係だと述べたものではありません。建物の建築という事実「だけ」を取り出して、それを根拠に当然に自主占有への性質変更を認めることはできない、という趣旨にとどまります。現に控訴審は、遺産分割協議が成立していないこと、Xが単独相続したと信じて疑わなかったとはいえないこと、所有の意思の表示がないことといった本件固有の事情を一つひとつ検討したうえで、自主占有事情を否定する結論に至っています。
自主占有事情の否定は本件固有の事情を踏まえた判断であること
控訴審が自主占有事情を否定した判断の土台には、本件に特有の事実関係があります。すなわち、相続人全員の間で遺産分割協議が成立していないこと、Xが共同相続人の一人であるY1を意図的に排除して協議書を作成したと推認され、本件土地を単独相続したと信じて疑わなかったとはいえないこと、Xが他の共同相続人に対して所有の意思を表示した事実がないことです。本判例の自主占有事情に関する判断は、これらの本件の事実関係を前提とした事例判断という性質を持ちます。
他の共同相続人が異議を述べていないことの評価
控訴審は、他の共同相続人が独占的な使用に異議を述べていないという事情について、それだけでは独占的使用を容認したことにも、自主占有事情を基礎づけることにもならないとしました。特に、遺産分割から明確に排除され、協議の機会すら与えられていなかった共同相続人については、独占的な使用を容認していたとはみられない、と判断しています。「異議がない」ことを直ちに「容認」と結びつける評価を、本判例は否定しています。
実務での使い方
本判例は、共同相続人の一人が相続不動産を事実上独占して長年使ってきた争族の場面で、その共同相続人が「もう20年以上自分のものとして使ってきたのだから時効取得した」と主張する/されるケースで参照される判例です。
使える場面
典型的なのは、親が亡くなった後、実家の土地や建物を、同居していた子や近くに住んでいた子の一人がそのまま使い続け、建物を建て替えたり賃貸に出したりして収益を得てきたところ、他のきょうだいが遺産分割を求めて争いになるケースです。長く独占的に使ってきた側は、しばしば取得時効を持ち出します。本判例は、この場面で取得時効の成否を見立てる際の手がかりになります。
取得時効を主張する側(独占的に占有してきた共同相続人)
本判例によれば、建物を建てて独占的に使用し、賃料収入を取得し、固定資産税を払ってきたという事実を並べるだけでは、取得時効を基礎づけるには足りません。共同相続人の占有はもともと他主占有ですから、取得時効を主張するには、占有の性質が自主占有に変わったこと、すなわち「新たな権原により所有の意思をもって占有を始めた」か、または他の共同相続人に「所有の意思があることを表示した」ことを示す必要があります。
実務上は、単独相続したと信じる合理的な根拠(相続人全員が関与した有効な遺産分割協議の存在など)や、他の共同相続人に対して自分の単独所有であることを明確に伝えた事実を、客観的な証拠で示せるかどうかが鍵になります。本件のように、一部の相続人を外して作成した協議書では、「単独相続したと信じて疑わなかった」とは評価されにくいことに注意が必要です。
取得時効に対抗する側(他の共同相続人)
逆に、相手方の取得時効に対抗する立場では、相手方が建物の建築・収益の独占・固定資産税の負担といった事実を並べてきても、それだけでは取得時効は成立しないと反論できます。建物所有を目的とする利用権の合意がないことを指摘し、相手方の占有はあくまで共同相続人の一人としての占有(他主占有)にとどまる、という構成をとることになります。
また、自分がこれまで相手方の独占的な使用に異議を述べてこなかったとしても、それが直ちに「容認」や自主占有事情に結びつくわけではありません。特に、遺産分割から排除されていた、専横な態度のために口出しできなかった、といった事情があれば、なおさら容認とは評価されにくくなります。本判例は、この点を正面から述べています。
立証上のポイント
占有の性質が他主占有から自主占有に変わったかどうかは、占有を開始した経緯、遺産分割協議の有無と内容、所有の意思の表示の有無を、占有開始当時の客観的な証拠によって立証することが基本になります。性質変更を基礎づける自主占有事情の主張・立証は、取得時効を主張する側が行うことになります。
本件では、本件土地以外の遺産について繰り返された登記(錯誤・持分放棄・共有物分割などを原因とするもの)の経緯や、遺産分割協議書に一部の相続人が加わっていないことが、遺産分割協議の不成立や、Xが本件土地を単独相続したと信じていたとはいえないことを判断する決め手になりました。固定資産税の納付や賃料の取得は、それ自体としては独占的に「使用」してきた事実を示すにとどまり、所有の意思を基礎づける決定打にはなりにくいことを押さえておく必要があります。
併せて検討すべき周辺論点
取得時効が否定されたとしても、それで紛争が終わるわけではありません。本件土地は依然として共同相続人の共有のまま残されますので、最終的には遺産分割によって解決することになります。控訴審も、他の共同相続人は、相続分を主張して遺産分割を求めたり、賃料などの法定果実の精算を求めたりすることができると述べています。
長年一人が独占的に使用してきた不動産については、取得時効という枠組みよりも、遺産分割の手続のなかで代償分割によって精算したり、過去の賃料相当額について不当利得や不法行為に基づく清算を求めたりする枠組みで処理するのが本筋といえます。第一審と控訴審で結論が分かれたことが示すように、自主占有事情の有無は、評価が分かれ得る微妙な論点ですので、特に慎重な検討が必要です。

