【判例解説】境界合意と通路の設定が可能なため、現物分割が相当と判断した事例(大阪高裁平成15年4月15日決定)

30秒要約
・境界が相続人間で一致し、2m幅の通路設定で袋地(無道路地)を解消できるなら、現物分割が相当。
・長期居住(約40年以上)・高齢(72歳)の生活利益は強く保護され、家族間の確執のみでは退去の正当化事由とならない。
・都市計画・区画整理が未確定の段階では、現況維持志向の現物分割を直ちに否定できない。
・土地と建物は一体処理、跨り建物は共有、過不足は代償金で調整するのが合理的。
目次
判例の基本情報
- 裁判所:大阪高等裁判所
- 決定日:平成15年4月15日
- 事件番号:平成14年(ラ)第897号
- 事件名:遺産分割審判に対する即時抗告事件
事案の概要
対象は南北に細長い3筆(甲・乙・丙)の土地とA〜Jの建物群。北側のみ市道に接し、丙は袋地。
相続人らは「緑色線(K15〜K16)」を境界とする点で合意し、物理的分割の前提が整った。原審はY1の単独取得+代償金+Xの4年後明渡しを命じたが、即時抗告審はこれを一部取り消し、現物分割+代償金精算で自判した。
判決の要旨
共同相続人間の確執を理由に全不動産を一人に取得させ、退去を命じた原審判を取り消し、72歳で40年以上居住の抗告人の生活利益等を踏まえ、現物分割などを命じた事例。
家族間の確執があっても、それだけで長期居住者を直ちに退去させる理由にはなりません。境界が明確で、2m通路などの対策で袋地の不便を解消できるなら、物理的に「分けられる」ため、現物分割を第一候補として検討しました。さらに、高齢・長期居住という生活上の利益が重なれば、現状を保つ方向が強まります。
重要論点の解説
物理的分割の可否:境界合意×2m通路で袋地を解消
- 境界合意の成立と、甲・乙から丙への2m通路負担を前提に評価を組み替え可能。
- 境界確定と通路設定の実現可能性が「現物分割の土台」。
居住利益の保護:高齢・長期居住の重み
- 抗告人は72歳・40年以上居住。従前どおりの生活の維持が明確な保護利益として評価。
- 高齢者の長期居住は、現物分割選択を後押しする実務上の強力な事情となります。
相続人間の確執=退去の正当化とは限らない
- 暴力等の客観的危険がない限り、相続人間の確執だけをもって退去命令は相当といえない。
- 「不仲の存在」だけでは退去命令の根拠にならない。
都市計画・区画整理の「未確定性」
- 都市計画の時期・方法・減歩率が不明な段階では、直ちに現況変更を迫る根拠にならない。
- 一人の単独取得にしても立退回避にはならない点も指摘。
- 再開発の「見込み」だけでは現物分割採用の障害になりにくい。
土地と建物の一体処理+跨り建物は共有
- 貸借関係の新生を回避するため、各土地上の建物は土地取得者に帰属。跨り建物F・Gは各1/2共有で整合。
- 分割後に「借地関係」を作らない設計が紛争予防の肝。
相続分の調整は代償金で
- 取得額と法定相続分の差は代償金で精算。
- 現物分割×代償金の併用が実務の王道。
読者へのアドバイス
- 測量図+境界合意の書面化(図面に緑線等で明示)。
- 2m通路の具体案(経路・幅員・面積減価・評価影響の数値化)。
- 建物利用の実態(誰がどこを住居・作業で使うか)。
- 生活維持の必要性の立証(年齢・居住年数・通院等の客観資料)。
- 区画整理の具体性チェック(仮換地時期・方法・減歩率の資料収集)。
まとめ
現物分割は
①袋地でも境界が明確で通路の設定が可能
②高齢・長期居住の生活維持に資する
③差額は代償金で調整できる
場合に採用されやすい。相続人間の確執や将来の区画整理の“見込み”だけでは、現物分割を否定する理由になりません。