【判例解説】不動産は現物分割とし、差額は預貯金で調整すべきと判断した事例(長崎家裁諫早出張所昭和62年9月1日審判)

【判例解説】不動産は現物分割とし、差額は預貯金で調整すべきと判断した事例(長崎家裁諫早出張所昭和62年9月1日審判)

30秒要約

複数の不動産がある相続では、各人に現物分割を行い、価値の差は現金・預貯金で調整するのが相当と判断した審判例。

目次

判例の基本情報

  • 裁判所:長崎家庭裁判所諫早出張所(審判)
  • 審判日:昭和62年9月1日
  • 事件番号:昭和61年(家)103号・233号
  • 結論:申立一部認容・確定

事案の概要

相続人関係

  • 相続人:子3名+代襲相続人(孫)3名=計6名
  • 各法定相続分:子3名各1/4、孫3名各1/12
  • 遺言:なし

遺産の主な内訳

  • 不動産:長崎市の宅地3筆(いずれも賃貸中)、熊本県八代市の家屋1棟
  • 現金・預貯金:貸付信託2,000万円を含む各口座
  • 家財道具:時価約5万円

評価の時点修正

不動産評価は時価鑑定を基礎とし、鑑定時点が古い部分は、市街地価格指数で補正して現在価額にそろえています。
家屋については、「一定額なら収去可能」との事情も評価に反映されています。

【用語解説】

  • 現物分割:売らずに不動産そのものを誰が取得するか決めて分ける方法
  • 換価分割:いったん売却して現金化し、金銭で分ける方法
  • 代償分割:特定の相続人が多めに取得し、他の相続人へ金銭で差額を支払う方法
  • 時点修正:鑑定時点と分割時点の価格差を指数で補正する作業

判決の要旨

不動産3筆は各1筆ずつ取得させ、現金・預貯金を分割するのが相当。

裁判所は、「売って分ける(換価分割)」ではなく、現物分割を基本とし、価値の差は現金・預貯金で均衡化する方法を採用しました。
家屋や家財は現に管理している相続人に帰属させ、実情に合わせて手続コストと紛争の芽を抑えています。

重要論点の解説

現物分割+預貯金での差額調整

  • 宅地3筆は子3名に各1筆、家屋は管理者、家財は管理者に帰属。差額は預貯金で調整。
  • 売却回避で時間・費用・感情面の対立を軽減。金銭調整が「バランサー」として機能。
  • 代償分割の金銭支払を抑えつつ、具体的相続分の均衡を数値で確認しやすい。

現物分割は、預貯金を併用すると公平性を具体的に担保できます。

賃貸中不動産でも現物分割は可能(地代収入の取扱い)

  • 賃貸中の宅地でも、各筆を相続人に割り当てる現物分割が可能。
  • 家賃・地代は入金口座で整理し、預貯金項目に取り込むことで金銭面の重複や漏れを防止。
  • 割当後は賃貸借契約の承継関係・名義変更・管理体制を確認。

賃貸中の土地でも、収益の計上整理ができれば、現物分割の障害にはなりません。

評価の「時点修正」で現在価額に合わせる(鑑定+指数補正)

  • 古い鑑定は、市街地価格指数で補正し、同一時点の価格に統一。
  • 評価時点の整合は、現物+金銭調整の精度と納得感を左右。
  • 家屋等は、解体・収去の可能性など個別事情も価格に反映。

時点修正により、比較可能性の高い「いまの価格」で分割設計ができます。

まとめ

複数不動産の相続では、現物分割を基本にし、差額は預貯金で調整する方法が実務的で公平です。

FAQ(よくあるご質問)

賃貸中の土地でも、現物分割はできますか?

はい、可能です。本件でも、賃貸中の宅地3筆を各相続人へ割当て、地代は預貯金項目で整理されています。賃貸状況が明確なら実務上支障は小さいです。

家屋や家財は、今管理している人にそのまま渡せますか?

本件では、家屋・家財を現に管理する相続人に帰属させたうえで、預貯金で差額調整する設計が採用されました。実情に沿い、手続コストを抑えられます。

売却(換価分割)の方が有利な場合もありますか?

ケースにより、得失が異なります。現物分割で公平に均衡が取れるなら紛争コストを抑えやすい一方、維持困難・共有不適合なら換価を検討します。本件では、前者の合理性が示されました。

鑑定が古いとき、評価はどう合わせますか?

本件では、市街地価格指数で時点修正し、現在価額にそろえる方法が用いられました。同一時点の価格で比較でき、現物+金銭調整の精度が上がります。

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