【判例解説】節税目的の養子縁組は無効か(最判平成29年1月31日)
30秒で要点
結論:節税だけを動機とする養子縁組でも、直ちに「縁組意思なし」(無効)とはならない。
理由:節税の動機と、親子関係をつくる意思(縁組意思)は併存し得るため。
注意点:税法上は養子のカウント制限(相続税法15条2項)や否認規定(同63条)がある。
まず結論
本判例(最判平成29年1月31日)は、節税のみを動機とする養子縁組でも直ちに無効としないと示しました。
事案の概要
祖父と孫の養子縁組をめぐり、「節税目的=縁組意思(本当に親子関係を作る気持ち)欠如か」が争われました。
A(祖父)は平成24年4月、税理士から「孫Yを養子にすると基礎控除が増える」と説明を受け、同年5月に届出を提出。のちにAの長女・二女が「縁組意思がないから無効」と主張して提訴——1審は有効、控訴審は無効、最高裁は原判決を破棄し自判で控訴棄却(=養子縁組の無効確認請求を退け)ました。
争点の整理
節税動機のある養子縁組で「縁組意思」が認められるか、誰が何を立証するか、税法上の効果はどうか。
- 争点1:節税目的の養子縁組は「当事者間に縁組をする意思がないとき」(民法802条1号)に当たるのか(=無効事由か)。
- 争点2:縁組意思の有無の立証責任(だれが証明するか)。
- 争点3:相続税の基礎控除の人数計算(基礎控除(税金がかからない枠)の算定)や否認規定の適用(相続税法15条2項・63条)。
裁判所の判断
「節税動機と縁組意思は併存しうる」→本件では縁組意思がない事情は見当たらず、無効には当たらない。
最高裁は「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに…『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」と判示(結論)。養子縁組は嫡出親子関係を創設し、節税効果は相続税法の仕組みにより生じ得るため、動機としての節税と縁組意思は両立すると述べました(理由)。個別事情としても、届書の作成・提出経緯等から「意思がないことをうかがわせる事情はない」とされ、無効確認請求は退けられました(破棄自判)。
実務への影響・チェックリスト
節税動機があっても直ちに無効ではないが、「仮装(中身がない見せかけ)」はアウト。税法の人数制限・否認規定にも注意が必要です。
- チェック1:同居・扶養・監護などの実態(親子としての生活設計)を記録化。動機メモだけでなく、日常の関わりを残す。
- チェック2:届書作成の経緯・本人の意思確認(面談記録等)を保存。「書類だけ」にならないように。
- チェック3:税法の人数制限(実子ありは養子1人、実子なしは2人までカウント)と、否認規定(相続税法63条)を事前確認。
- チェック4:親族間調整(遺留分・遺産分割の見通し)と、税務シミュレーションを同時進行で。
似た場面での分岐点
A(家庭としての実態がある)なら有効方向、B(目的達成のための便法としての仮装)なら無効方向です。
- もしA(扶養・監護の実態や親子としての精神的つながりがある)なら → 有効と評価されやすい。
- もしB(兵役免除・家格維持など別目的の仮装=借養子など)なら → 無効と判断され得る(旧判例系)。
判例比較表
項目 | 本件 | 比較判例 | 実務メモ |
---|---|---|---|
要件 | 節税目的があっても「縁組意思」(ほんとうに親子関係を作る意思)が否定されない限り有効方向。 | 昭和23年12月23日最一小判(借養子:仮装の便法は無効)/昭和38年12月20日最二小判(孫養子:精神的つながりあり有効)/昭和46年10月22日最二小判(姪の養子:有効)。 | 「仮装(便法)」か「実体(生活実態・扶養)」かで明暗。 |
帰結 | 原審(無効)を破棄自判。無効確認請求を退けた。 | 借養子→無効/実体ある養子→有効。 | 意思の有無の立証責任は、無効を主張する側が負うと整理される傾向。 |
補足 | 税務上の節税効果は相続税法の仕組み次第で制限・否認され得る。 | 高裁でも「節税目的=直ちに無効ではない」とする傾向(平成3・11・12の各決定)。 | 民法の有効・無効と、税務上のカウント・否認は別次元で検討。 |
よくある質問(FAQ)
関連判例・参考情報
- 最高裁第三小法廷 平成29年1月31日判決(平成28年(受)1255号)「養子縁組無効確認請求事件」/最高裁民集71巻1号48頁・判例タイムズ1435号95頁。
- 民法802条(縁組無効事由)
- 相続税法15条2項・63条(基礎控除の人数・否認)
- (参考)東京高決 平成3・11・12年の各決定(節税目的=直ちに無効でないとする傾向)。