【判例解説】2筆の土地を3つに分筆して各相続人に取得させ、私道部分は全員の共有とした事例(東京家裁昭和49年3月25日審判)
- 争点
建築条件が厳しい土地を、売却せずに相続人全員で分けることは可能か? - 結論
裁判所は土地を3つに分筆して取得させ、通路部分を「全員の共有」とした。 - ポイント
不整形地や奥まった土地でも、「共有私道」を作ることで資産価値を維持できる。
事案の概要
本件は、亡くなった方(被相続人)の遺産である不動産(宅地)をめぐり、相続人の間で分割方法が争われた事例です。

主な登場人物とその関係
- 被相続人:亡くなった父親
- 相続人:子供たち(共同相続人3名)
- 対象となる遺産:
- 東京都内にある宅地 2筆
- 合計面積:252.50平方メートル(約76坪)
トラブルの経緯
遺産である土地は2つの筆(登記上の単位)からなっていましたが、相続人たちは「土地を売ってお金にする(換価分割)」ことよりも、それぞれが土地を取得することを望んでいました。
しかし、この約76坪の土地を単純に3等分しようとすると、道路に面さない区画(袋地)ができたり、形が悪くなったりして、「家が建てられない土地」が生じてしまう恐れがありました。
そこで、「どのように線を引けば全員が公平に家を建てられるか」が問題となり、家庭裁判所の審判によって解決を図ることになりました。
※用語解説
- 分筆(ぶんぴつ):1つの土地を登記簿上で複数の土地に切り分けること。
- 現物分割(げんぶつぶんかつ):遺産を売却せず、そのままの形(現物)で分ける方法。
- 袋地(ふくろち):公道に接していない土地のこと。建築基準法上、そのままでは建物を建てられません。
主な争点
この審判で主な争点となったのは、以下の点です。
「現物分割」で公平性を保てるか?
遺産分割には、土地をそのまま分ける「現物分割」、誰かが買い取る「代償分割」、売却する「換価分割」があります。
本件のような約76坪の土地を3人で分ける場合、1人あたり約25坪となります。都内の住宅地としてはそれなりの広さですが、全員が「道路付きの良い土地」を取得するのは物理的に困難です。公平性を保ちつつ、土地そのものを分けることができるかが問われました。
建築基準法(接道義務)をどうクリアするか?
建物を建てるためには、敷地が「幅員4m以上の道路に2m以上接する」必要があります(接道義務)。
奥まった区画を作ると、この条件を満たせなくなります。通路を作って解決するにしても、その通路を「誰の土地」にするのか(誰かの単独所有か、全員の共有か)が大きな問題となりました。
裁判所の判断
東京家庭裁判所(昭和49年3月25日審判)は、土地の利用価値を最大限に活かすため、次のような分割方法を命じました。
結論
①土地を「3つ」に分筆して各自に取得させる
裁判所は、売却や代償金による解決ではなく、相続人の希望に沿って「土地そのものを分ける(現物分割)」を採用しました。
具体的には、2筆の土地全体を整理し、公平な価値となるように3つの区画に分筆(分割)し、各相続人に単独所有権を取得させました。
②私道部分は「相続人全員の共有」とする
ここがこの審判の最大のポイントです。
奥の区画が道路へ出るために不可欠な「通路部分」について、特定の個人の所有とはせず、「相続人全員の共有」としました。
判断の理由
- 公平性の確保
通路を共有にすることで、「通行させない」といった将来のトラブルを防ぎ、全員が安心して土地を使えるようにしました。 - 資産価値の維持
全員が権利を持つ「私道」とすることで、どの区画も建築基準法の要件(接道義務)を満たす「宅地」として評価されるように配慮しました。
裁判所は、単なる面積の平等だけでなく、「将来にわたって全員が家を建て、生活できる権利」を保障することを重視したといえます。
弁護士の視点
この審判は、都市部の遺産分割において、非常に有効な「解決の知恵」を示しています。
「共有」は通常避けるべきだが、私道は例外
相続実務では、不動産を共有にすることは「トラブルの元」として避けるのが鉄則です。
しかし、本件のような「私道」に限っては、共有にすることが正解となるケースがあります。
全員が持分を持つことで、通行権や掘削(水道工事など)の承諾を互いに保証し合う関係(運命共同体)を作ることができるからです。
トラブルを防ぐための対策
これから土地を分けようと考えている方は、以下の準備が重要です。
- 「確定測量」を行う
正確な図面がないと、分筆案は作れません。早めに土地家屋調査士に依頼し、お隣との境界を確定させておくことが第一歩です。 - 遺言書で図面を指定する
「A部分は長男、B部分は次男、斜線部分は共有私道とする」といった図面付きの遺言書を作成しておくと、残された家族が分割ラインで揉めるリスクを減らせます(生前に分筆しておく方が望ましいですが)。

