【判例解説】宅地転用が見込める農地は「非農家の相続人」も取得できると判断した事例(東京家裁昭和42年5月1日審判)
- 争点:農業をしていない「サラリーマンなどの相続人」は、農地を相続できないのか?
- 結論:裁判所は、将来宅地になる可能性が高い農地であれば、非農家の相続人が取得(共有)しても問題ないと判断した。
- ポイント:登記が「畑」や「田」でも、実態が「宅地見込地」であれば、資産価値重視で分割される。
事案の概要
本件は、被相続人(亡くなった親)が所有していた「農地(小作地を含む)」の遺産分割をめぐり、農業を継いでいる相続人と、すでに実家を出ている相続人との間で争いになった事例です。

主な登場人物とその関係
- 被相続人:農地を所有していた親。
- 相続人(農業承継者):農地のある場所に住み、実家で農業を営んでいる相続人。
- 相続人(非農業者):農地のある場所とは別の地域に住んでいる(サラリーマン等の)相続人たち。
- 対象財産:農地。その多くは小作人(他の農家)に貸している土地でしたが、都市化の波が押し寄せている地域にありました。
トラブルの経緯
農業を継ぐ相続人は、「農地は細分化すると農業経営に支障が出るため、農業従事者である自分が単独で相続すべきだ」と主張しました。
一方で、実家を出た相続人たちは、「この土地はもうすぐ宅地として使えるようになる価値の高い土地だ。農業をしないからといって、相続できないのは不公平だ」と主張し、対立しました。
主な争点
農業をしていない相続人に、農地を取得させることは有効か?
通常、純粋な農業地域であれば、農地の細分化を防ぐために農業従事者に相続させることが合理的とされます
しかし、本件のような「都会に近い農地」のように、現在は農地であっても、将来的に「宅地」への転用が確実視される場合、農業をしない相続人に分割取得(共有など)させることはできるか?が問題になりました。
裁判所の判断
裁判所は、農業をしていない相続人たちが農地の一部(共有持分)を取得することを「差し支えない(問題ない)」と判断しました。
判断の理由
裁判所は、対象となる土地の「現在の姿」だけでなく、「将来の経済的価値」と「最有効使用(最も価値の高い使い方)」を重視しました。
裁判所のロジックは、以下のとおりです。
- 現状の認識
本件遺産である農地の多くは「小作地(人に貸している農地)」である。 - 将来の予測
しかし、この地域は「早晩、住宅地に転用される可能性が大きい」エリアである。 - 最有効使用
この土地は、農業を続けるよりも、「住宅地・店舗営業所もしくは工場として利用するのが最有効の用途」である。 - 結論
そうであれば、無理に農業経営の保護に固執する必要はない。「農地の所在地外に住所を有する相続人らに本件小作地を取得させることは差支えない」。
つまり、**「書類上は農地でも、実質は『未来の宅地・店舗用地』なのだから、農家かどうかにこだわらず、資産として公平に分け、共有にしてもよい」**という判断が下されました。
弁護士の視点
この判例は、高度経済成長期に下されたものですが、現代の「都市近郊の農地相続」においても非常に重要な意味を持ちます。
「農地=農家のもの」という思い込みは危険
登記簿の地目が「田」や「畑」であっても、市街化区域にあるなど宅地転用が容易な土地は、実務上「宅地」に近い扱いを受けます。「兄貴は農家を継がないんだから、田んぼは全部俺のものだ」という主張は、都市近郊では通りにくくなっています。非農家の相続人も、正当な「資産」として権利を主張できる可能性があります。
「共有」のリスクと「代償分割」の検討
本件では、公平性を重視して「共有」が認められましたが、実務的な視点では、不動産の共有は将来の売却や活用の妨げになるリスクがあります(全員の同意が必要になるため)。
トラブルを防ぐための予防策としては、土地を共有にするのではなく、「跡継ぎが土地を単独相続する代わりに、他のきょうだいには見合うだけの『代償金』を支払う」という分け方(代償分割)にすることが重要です。

