【判例解説】資金のない相続人に建物のみを取得させ、裁判所が土地の賃貸借条件を決定した事例(富山家裁昭和42年1月27日審判)

この記事のポイント
  • 争点
    家に住む相続人に代償金を払うお金がない場合、土地と建物を別々に分けることは有効か?
  • 結論
    裁判所は土地を申立人、建物を相手方の取得とし、月額7,800円の地代支払いを命じた。
  • ポイント
    親族間で「地主と借主」の関係になるとトラブルが続くため、遺言書で権利を一本化しておくことが重要。
目次

事案の概要

今回の事案は、亡くなった方(被相続人)の遺産をめぐり、相続人同士で話し合いがつかなかったケースです。

主な登場人物とその関係

  • 被相続人:亡くなった方。遺産として「宅地(土地)」と「居宅(建物)」などを残しました。
  • 相手方:遺産である建物に住んでいる相続人。過去に非行や浪費があり、経済的な余裕(資力)がありませんでした。
  • 申立人:遺産分割を求めた他の相続人。

トラブルの経緯

遺産である自宅には「相手方」が住んでいましたが、相手方には他の相続人の取り分を買い取るだけの現金(代償金)がありませんでした。

一方で、申立人は、適正な遺産の取得を求めていました。

「相手方は家を出て行きたくない(住む場所が必要)」
「しかし、土地と建物の両方を貰うだけのお金は払えない」

このような膠着状態の中、「誰が土地をもらい、誰が建物をもらうのか」「住み続けるなら対価はどうするのか」が争いとなり、家庭裁判所の審判(裁判官の判断)に委ねられました。

主な争点

土地と建物を別々の人間が相続することは有効か?

通常、不動産は「土地と建物」をセットで一人が相続するのが望ましいとされます。権利者が別々になると、建物の所有者は「他人の土地」の上に建物を置くことになり、権利関係が複雑になるからです。

本件では、資金力のない相手方に建物(住居)を確保させつつ、申立人にも遺産(土地)を分配するために、あえて土地と建物を切り離す「分離取得」が認められるかが問題となりました。

裁判所が当事者の合意なしに「賃貸借契約」を作れるか?

もし土地と建物を別々の人が所有する場合、建物の持ち主は土地の持ち主に利用料(地代)を払う必要があります。

しかし、対立している当事者同士で「家賃はいくらにするか」「期間は何年にするか」といった契約を結ぶことは困難です。そこで、裁判所が職権で(当事者の合意の代わりに)賃貸借条件を決定できるかが争点となりました。

裁判所の判断

富山家庭裁判所は、相手方の生活を保護しつつ、申立人の権利も守るため、以下のような非常に具体的な分割方法を命じました(富山家裁昭和42年1月27日審判)。

建物は相手方、土地は申立人が取得する

裁判所は、相手方が現に居住している事実を重視し、建物を相手方に取得させました。一方で、その敷地である宅地については申立人に取得させるという判断を下しました。

裁判所が「賃貸借条件(地代と期間)」を決定

土地と建物の所有者が別々になったことで、裁判所は両者の間に賃貸借契約(借地権)を成立させました。

裁判所は、以下のとおり、細かい条件まで指定しています。

  • 契約期間
    昭和42年1月1日から22年間とする。
    本来25年とする計算から、既に経過した約3年分を差し引いて設定されました。
  • 地代(家賃)
    鑑定結果に基づき、月額7,800円(※昭和42年当時の金額)とする。
    相手方は申立人に対し、毎月末限りこれを支払わなければならないと命じました。

清算金の支払い命令

さらに裁判所は、これまでの土地使用料や、相手方が負担していた住宅ローン(公庫)の残債などを細かく計算し、差し引き10万401円を相手方から申立人に支払うよう命じました。

判断の理由

裁判所は、相手方が過去に非行や浪費をしており、もし住む家を失えば「再び社会の落伍者となる運命に転落する」恐れがあり、「相手方の更生のために住む場所は守るべき」と考えました。

しかし、お金も払わずに土地を使い続けるのは、申立人に対して不公平です。
そのため、「家はあげるが、裁判所が決めた適正な家賃を払い続けなさい」という、双方のバランスをギリギリで調整した結論を出しました。

弁護士の視点

この判例から学べる「将来のトラブルを防ぐための対策」について解説します。

遺言書で「土地と建物」をセットにしておく

今回のように土地と建物の所有者がバラバラになると、親族間で「大家と店子(借主)」の関係が生じます。「家賃を払わない」「更新料で揉める」など、将来にわたってトラブルの火種が残り続けます。

遺言書を作成し、特定の相続人に土地と建物をセットで承継させる指定をしておくことが、最も有効な予防策です。

「代償金」の準備をしておく

相手方が揉めた最大の原因は「家を継ぎたいが、代わりの金を払う能力がない」ことでした。

不動産を継がせたい子がいる場合は、生命保険を活用して現金を残すなど、代償金の手当てをしておくことが重要です。

財産目録を作り、生前の精算を明確にしておく

本件では、過去の土地使用料や住宅ローンの支払いが複雑に絡み合い、計算が難航しました。

親族間の貸し借りや、誰がどの支払いを負担しているか等の情報を財産目録やメモとして残しておくと、遺された家族の負担を減らすことができます。

よくある質問(FAQ)

建物に住んでいる人がお金を持っていない場合、必ずこの判例のようになりますか?

いいえ、家を売却することもあります。

本件は裁判所が「住まわせる(更生させる)」必要性を強く感じたため、例外的な判断をしました。しかし、土地も建物も売却して現金を分ける「換価分割」が命じられ、住んでいる人が退去せざるを得なくなることもあります。

裁判所が決めた地代(家賃)は、その後ずっと変わらないのですか?

事情が変われば変更可能です。

裁判所が決めた地代であっても、その後の物価上昇や近隣相場の変動により不相当となった場合は、借地借家法に基づき、将来に向かって地代の増減額を請求することができます。

親族間なので、地代を無料にすることはできますか?

全員が合意すれば可能ですが、リスクがあります。

当事者同士が納得していれば、無償で貸す「使用貸借」も可能です。ただし、無償で貸すと将来「立ち退いてほしい」と言い出しにくくなったり、貸主が亡くなった後の「次の相続」で不利になることもあるため、慎重な判断が必要です。

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