【判例解説】不動産の競売代金は「評価額」ではなく「相続分の割合」で分けるのが公平と判断した事例(東京高裁平成28年8月12日決定)

この記事のポイント
  • 争点:不動産を競売にかける際、事前の「評価額」に基づいて特定の相続人の取り分を決めることは有効か?
  • 結論:裁判所は、実際の競売価格は評価額と異なることが避けられないため、「相続分の割合」に応じて分配するのが相当と判断した。
  • ポイント:不動産を換価(売却)して分ける場合は、金額を固定せずに「売却代金の〇分の1」という「割合」で合意することが重要。
目次

事案の概要

今回の事案は、亡くなった父親(被相続人)の遺産を巡り、残された家族である母親と、子供2人(長男X・二男Y)の間で争われたケースです。

主な登場人物とその関係

  • 被相続人:亡くなった父親
  • 申立人:母親(※裁判の途中で亡くなりました)
  • 抗告人:長男X(第一審の決定に不服を申し立てた人)
  • 相手方:二男Y

トラブルの経緯

経緯

遺産分割の不成立

父親が亡くなり、遺産である「不動産(土地・建物)」や「預貯金」の分け方について話し合いがまとまらず、家庭裁判所の審判(裁判官による決定)となりました。

経緯

第一審(家庭裁判所)の判断

第一審は、母親に多くの不動産や預貯金を取得させる一方で、誰も欲しがらない「ある一つの土地」については競売(オークション)に出して現金化することを命じました。その際、裁判所は「土地の鑑定評価額」を基準に計算し、遺産全体のバランスを取るため、「競売代金の9割を長男Xに、1割を母親に配分する」と具体的な取り分を決めました。

経緯

長男Xの不満(抗告)

これに対し、長男Xは納得しませんでした。「競売になれば、評価額よりも安く買い叩かれる可能性が高い。母親は価値の確定した不動産をもらうのに、自分だけが『安くなるかもしれない競売代金』を計算上の金額で押し付けられるのは不公平だ」と主張し、高等裁判所に不服を申し立てました。

経緯

母親の死亡と状況の変化

裁判が続いている間に母親が亡くなり、長男Xと二男Yが母親の権利も相続することになりました。母親が住むはずだった不動産も不要になったため、最終的に「すべての不動産」を競売にかけることになりました。

主な争点

「評価額」を前提に、競売代金の配分を決めることは公平か?

遺産分割において不動産を売ってお金で分けることを「換価分割」といいます。

この裁判で最大の問題となったのは、「計算上の『評価額』と、実際の『売却額』のズレを誰が負担するか」という点です。

第一審のように、「この土地は評価額〇〇万円だから、その売却代金をもらう長男Xは〇〇万円もらったことにする」と決めてしまうと、もし競売で二束三文でしか売れなかった場合、長男Xだけが大損をすることになります。

「水物(みずもの)」である競売代金を、確実な資産と同じように扱ってよいのかが問われました。

裁判所の判断

東京高等裁判所は、第一審の判断を変更し、「競売代金は特定の金額ではなく、相続分の『割合』で分けるべき」という判断を下しました。

価格変動のリスクは全員で公平に負担すべき

裁判所は、判決文(決定文)の中で次のように述べています。

“競売による換価分割の場合は、売却代金から競売費用を控除した競売取得額が評価額とは異なることが避けられないから、当事者間の公平を図るためには、できる限り競売取得額を各当事者の具体的相続分の割合に応じて分配するのが相当である”

これを分かりやすく翻訳すると、以下のようになります。

  • 評価額はあくまで予測:実際にいくらで売れるかは、売ってみないと分かりません。
  • リスクの分担:特定の相続人に「あなたはこの土地の代金をもらいなさい」と割り当てると、安く売れた時にその人だけが損をします。
  • 結論:したがって、売れた金額がいくらであっても公平になるように、「売却代金そのものを、全員で相続分の割合(%)に応じて山分けにする」のが正解です。

亡き母の取り分は「共有」として保管

裁判中に母親が亡くなったため、本来母親が受け取るはずだった「競売代金の約8.8割(※金融資産を子供たちが先に取得したため、不動産の取り分は母が多くなっていました)」については、母親の相続人である長男Xと二男Yが「各2分の1の割合」で権利を持つことになります。

裁判所は、この部分について「長男Xと二男Yが半分ずつ預かり、母の遺産として共有状態で保管しなさい」と命じました。

父の遺産分割の中で無理に分け切るのではなく、「これはお母さんの分だから、お母さんの相続として別途解決するまで、とりあえず半分ずつ管理する」という現実的な判断を示したのです。

弁護士の視点

この判例から学べる、将来の相続トラブルを防ぐための対策は以下のとおりです。

不動産売却は「割合」で合意する

遺産分割協議で不動産を売却して現金を分ける場合、「長男は1,000万円もらう」などと金額で固定するのはリスクがあります。もし想定より安い金額でしか売れなかった場合、他の相続人との間で不公平が生じ、新たなトラブルになります。

遺産分割協議書に「売却にかかる経費を引いた残金を法定相続分の割合(例:2分の1ずつ)で取得する」などと記載することをお勧めします。

「競売」になる前に「任意売却」を目指す

本件のように裁判所の命令で「競売」になると、市場価格の7割程度まで安くなってしまうことが一般的です。

相続人同士の仲が悪くても、経済的な損失を避けるために、お互いに協力して一般の不動産市場で売却(任意売却)する方が、結果として手元に残るお金は多くなります。「損をしてまで喧嘩をしない」という冷静な判断が大切です。

早めの解決が「数次相続」を防ぐ

本件のように、遺産分割協議が長引いている間に相続人の一人が亡くなると(数次相続)、権利関係が複雑になり、解決がさらに遠のきます。特に高齢の親族がいる場合は、完璧な条件を求めて争うよりも、早期の合意形成を優先することが、結果的に家族全員の負担軽減につながります。

よくある質問(FAQ)

「換価分割(かんかぶんかつ)とは何ですか?

不動産などの遺産を売却して、その「現金」を分ける方法です。

不動産を現物のまま誰か一人がもらうと不公平になる場合や、相続人の誰もその不動産を欲しがらない場合に利用されます。1円単位で公平に分けられるメリットがありますが、売却の手間や譲渡所得税がかかる点に注意が必要です。

裁判所が命じる「競売」とは、普通の不動産売却とは違うのですか?

はい、手続きも価格も異なります。

通常の売却(任意売却)は不動産会社を通じて市場価格で売りますが、裁判所による「競売」は強制的な入札手続きです。内覧ができない等の制約があるため、市場価格の7割程度に安くなってしまうことも珍しくありません。可能な限り、話し合いによる通常の売却(任意売却)を目指すべきです。

遺産分割の話し合い中に相続人の一人が亡くなったらどうなりますか?

その相続人の権利を、さらにその相続人(子など)が引き継ぎます。

本件のように、父の遺産分割中に母が亡くなると、子どもたちは「父の相続人」としての立場と、「母の相続人」としての立場の両方を持つことになります。計算や手続きが非常に複雑になり、長期化の原因となりますので、早めの遺産分割や遺言書の作成が推奨されます。

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