【判例解説】相続目的の養子縁組は無効か(東京高決令和元年7月9日)
30秒で要点
結論:相続(財産承継)の目的が中心でも、養親子としての関係を作る意思(法定血族関係を形成する意思)があれば、養子縁組は直ちに無効とはならず、死後離縁は許可され得る。
理由:扶養義務逃れ等の道義に反する事情が見当たらず、利害関係人への実質的不利益も想定し難いと判断。
注意点:死後離縁をしても、養親の子等との法定血族関係が直ちに全て終了するわけではなく、審判により扶養義務を負う可能性は残る。
まず結論
本決定は、相続目的があっても養子縁組は直ちに無効ではないとし、死後離縁を許可しました。
事案の概要
祖父(養親)と孫(養子)の養子縁組後、養親死亡を受けて孫が「死後離縁」の許可を求めた事件で、争点は養子縁組の有効性と許可の相当性(妥当かどうか)。
抗告人は平成21年4月28日に祖父と養子縁組。養親死亡後、家庭裁判所に死後離縁を申立てたが、原審は「縁組意思がなく無効」として却下。即時抗告を受けた高裁は、縁組は無効といえず、死後離縁を許可した。相続の場面では、養親は孫3名と縁組し、遺産は養親の子らと孫らで分割・登記済みであった。
争点の整理
「相続目的の養子縁組は無効か」「死後離縁は道義に反しないか」「扶養義務の回避目的ではないか」が中心。
- 争点1:養子縁組の実質(縁組意思(家族になる意思))の有無
- 争点2:死後離縁申立てが法定血族間の道義に反する恣意的・違法なものか
- 争点3:扶養義務(家族として支える義務:民法877条)を免れるための申立てかどうか
裁判所の判断
養子縁組は無効ではなく、死後離縁を許可。扶養義務逃れ等の事情がなく、関係者の不利益も想定し難いから。
高裁は「相続させる目的があっても、養親と抗告人の間に法定血族関係を形成する意思がある限り、直ちに縁組を無効とすることはできない」と指摘し(原審の無効判断を否定)、「申立てが道義に反する恣意的で違法なものと認めるに足りる事情もない」として死後離縁を許可した。判断の背景には、①縁組により生じた扶養関係(特に養親の子Eへの扶養)を免れる目的とは認められないこと、②Eに相応の資産等があり不利益は想定し難いこと、③祭祀(先祖供養)回避のみを目的とする事情も見当たらないことが挙げられている。
実務への影響・チェックリスト
「相続目的=即無効」ではない。縁組意思と道義違反の有無、扶養関係への影響を丁寧に立証・整理することが重要。
- チェック1:養子縁組時の意思(家族関係を形成する意思)の裏付け(会話記録・書面・周囲の証言)
- チェック2:扶養義務を免れる目的ではないことの説明(実際の扶養状況・資力)
- チェック3:利害関係人(養親の実子ら)への不利益の有無と相続手続の経緯(遺産分割・登記の状況)
- チェック4:祭祀や家名維持のみを目的とする等の事情の有無(単独の目的化は要注意)
似た場面での分岐点
縁組意思が具体的に認められるなら許可に近づき、扶養逃れ等が強く疑われるなら不許可・却下に傾く。
- 「縁組の実態があり、扶養・交流も一定に存在」なら → 縁組の有効性が肯定されやすく、死後離縁も相当と判断され得る。
- 「扶養義務逃れや祭祀回避などの恣意的目的が中心」なら → 道義に反するとみられ、不許可・却下の可能性
判例比較表
本件(抗告審)は縁組意思を肯定し許可、原審(家裁)は縁組無効とみて却下。
項目 | 本件(東京高裁・令和1年7月9日) | 比較判例(原審・家庭裁判所の却下審判) | 実務メモ |
---|---|---|---|
要件 | 相続目的があっても縁組意思があれば有効性を否定せず | 相続目的中心で縁組意思なしと評価し無効視 | 「縁組意思」の立証が分岐点 |
帰結 | 死後離縁を許可 | 申立て却下(対象欠缺と判断) | 道義違反や不利益有無の整理が鍵 |
補足 | 扶養逃れ目的は否定、Eへの不利益も想定困難 | — | 利害調整と証拠化を徹底 |
よくある質問(FAQ)
関連判例・参考情報
- 東京高等裁判所 第24民事部 決定(平成30年(ラ)1977号、令和1年7月9日)判例タイムズ1474号26頁/家庭の法と裁判33号67頁/
- 羽生香織「判批」民商法雑誌158巻3号248-253頁(2022年8月)