【判例解説】当事者の意向が二転三転し、裁判所が「競売」を命じた事例(岡山家裁昭和55年8月30日審判)
- 争点:唯一の遺産である土地を、意見が対立し定まらない相続人間でどう分けるか?
- 結論:裁判所は、当事者の意向が変転しており資力も不明なため、公平な「競売」を命じた。
- ポイント:話し合いが迷走すると、大切な不動産を強制的に売却・換金されるリスクがある。
事案の概要
本件は、昭和27年に亡くなった被相続人(亡くなった方)の遺産分割について、残された大家族の間で長期間にわたり解決しなかったトラブルの事例です。

相続人は、被相続人の妻と、長男から四男、長女から三女までの子供7名、合計8名の大家族です。
遺産として残されたのは「土地が一筆のみ」でした。
本来であれば、誰か一人が土地を引き継いだり、売却して分けたりする話し合いが行われます。しかし、本件では以下の要因により話し合いが泥沼化しました。
- 意向の定まらなさ
相続人たちの意見がコロコロと変わり、一貫性がありませんでした。「土地が欲しい」と言ったかと思えば、「お金でいい」となるなど、各人各様でまとまりませんでした。 - 資力の問題
土地を取得する場合、他の兄弟に代償金を払う必要がありますが、そのための十分な資金(資力)があるかも不明確でした。 - 激しい対立
過去の資金援助(特別受益)や離作料の扱いを巡る争いもあり、感情的な対立が深く、協力的な解決が期待できない状態でした。
主な争点
裁判(審判)において、最終的に最も重要となった問題点は以下の通りです。
遺産分割の方針が決まらない場合、裁判所は「売却」を強制できるか?
通常、不動産の分け方には以下の3つの方法があります。
- 現物分割:土地を物理的に切り分ける。
- 代償分割:誰か一人が土地を取得し、他の相続人に代償金を払う。
- 換価分割:土地を売却し、その代金を分ける。
本件では、土地の形状から現物分割は難しく、また誰が代償金を出せるかも怪しい状況でした。さらに、当事者の意見が二転三転して定まらない中で、「裁判所が公平性を保つために、強制的に競売(換価分割)を選択することは認められるか?」が焦点となりました。
裁判所の判断
岡山家庭裁判所は、最終的な解決策として、遺産である土地を「競売(けいばい)」にかけて現金化し、その代金を分けるよう命じました(岡山家裁昭和55年8月30日審判)。
当事者の意向が「変転」しており、信用できない
裁判所は、当事者たちの態度について次のように厳しく指摘し、特定の相続人の希望を優先することを避けました。
“本件遺産分割の方法に関する各当事者の意向が変転としており、また、その内容も各人各様である”
つまり、相続人たちが一貫した主張をせず、意見をコロコロ変えているため、誰か一人の意見を採用したり、合意に基づく解決を図ったりすることは不可能であると判断しました。
諸般の事情(資力・対立関係)の考慮
さらに裁判所は、以下の事情を総合的に考慮しました。
- 土地の形状:物理的に分ける(現物分割)のは難しい。
- 当事者の資力:土地をもらった人が、他の兄弟にお金を払えるだけの十分な資金があるか疑わしい(代償分割も困難)。
- 対立関係:感情的な対立が激しく、共有状態にするのも不適切。
- 評価額の問題:土地の価格についても意見が合わない。
結論:競売が最も公平である
以上のことから、裁判所は次のように結論づけました。
“その遺産を競売に付し、その売却代金から競売手続費用を控除した残額を……分配するのが最も公平、適切であるものと認め”
誰もが納得する方法が見つからない以上、「公の手続き(競売)で土地をお金に換え、その現金を1円単位できっちり分ける(換価分割)」ことこそが、この混乱した事案における唯一の公平な解決策であると断じたのです。
弁護士の視点
この判例は、遺産分割協議において態度をはっきりさせないことのリスクと、準備不足の代償を教えてくれます。
意見をコロコロ変えるのは「競売」への近道
裁判所は、当事者の主張の「一貫性」を重視しました。本件のように「土地が欲しい」「いや売却だ」と感情任せに意見を変転させると、「当事者間での解決能力がない」と判断され、機械的な解決方法(競売)を選ばれる原因になります。自分の希望を明確にし、一度決めたらブレずに主張することが重要です。
「競売」は安く買いたたかれるリスクがある
裁判所が命じる「競売」は、市場価格よりも低い価格(一般的に市場価格の6~7割程度)で落札される傾向があります。話し合いが決裂して審判までいき、競売命令が出ると、結果的に全員が損をする形での現金化になりかねません。経済的合理性を考えるなら、意地を張らずに、任意の売却などで合意する方が賢明です。
「代償金」の準備がないと土地は守れない
実家などの不動産を「自分が守りたい」と思うなら、他の相続人の取り分に相当する現金を準備できるかが鍵になります。本件でも、各当事者の「資力」が問題視されました。「預貯金通帳の残高を示す」などして支払い能力を証明できなければ、「どうせ払えないでしょう」と判断され、土地を取得する主張は通りません。

