【判例解説】不動産を現物分割すると価値が激減するため、競売を命じた事例(東京高裁昭和54年10月19日決定)

この記事のポイント
  • 争点:遺産である不動産を「そのままの形(現物)」で物理的に分けられない場合、どう解決すべきか?
  • 結論:裁判所は、無理に分けると価値が激減するため、すべて売却して現金を分ける「競売」を命じた。
  • ポイント:権利関係が複雑な不動産は、共有のままにせず「換価分割(売ってお金で分ける)」で清算するのが有効。
目次

事案の概要

本件は、亡くなった方(被相続人)の遺産である不動産をめぐり、相続人の間で分割方法がまとまらず、最終的に裁判所が「競売(けいばい)」による解決を命じた事例です。

主な登場人物とその関係

  • 抗告人X: 遺産の分割方法について不服を申し立てた相続人
  • 相手方Y1: 遺産となっている土地建物と一体化した「個人の不動産」を所有している相続人
  • 相手方Y2ら: その他の相続人(2名)

トラブルの経緯

遺産分割の対象となった不動産(土地や建物)は、利用状況がパズルのように入り組んでおり、単純に「土地を分筆する」「建物を誰かが取得する」といった「現物分割」が物理的に極めて困難な状態でした。

具体的には、以下のような複雑な事情がありました。

  • 建物が一体化している遺産である建物が、相続人Yが個人的に所有している建物と構造的・利用的につながっており、事実上「一つの大きな建物」として使われていました。
  • 敷地が複雑建物が建っている土地も、遺産である土地とY個人の土地にまたがっており、境界線でスパッと分けることができませんでした。

このように、「遺産」と「特定の相続人Yの財産」が物理的に渾然一体となっており、遺産部分だけをきれいに切り分けることが不可能な状況でした。

主な争点

「現物分割」が著しく困難な場合、裁判所はどのような分割方法を選択すべきか?

遺産分割の原則は、遺産そのものを誰かが引き継ぐ「現物分割」です。しかし、本件のように不動産が複雑に入り組んでいる場合、無理に現物で分けようとすると、土地がいびつな形になったり、建物が使い物にならなくなったりする恐れがあります。

そこで裁判では、「不動産としての価値を維持したまま公平に分けるには、どのような方法(分割手段)を採用すべきか」が最大の争点となりました。具体的には、不動産を強制的に売却して現金を分ける「換価分割(かんかぶんかつ)」が認められるかどうかが問われました。

裁判所の判断

東京高等裁判所は、本件遺産について「現物分割は著しく困難」であると認定し、すべての不動産を競売によって換価(現金化)し、その代金を分割するよう命じました。

裁判所が、原則である「現物分割」を採用せず、不動産を売却する「競売」を選択した理由は、主に以下の3点です。

現物分割は「著しく困難」であり、大損につながる

裁判所は、遺産とYの固有財産が利用上一体化している現状を重視しました。これらを無理に切り離して個別に売却したり分けたりすれば、「取引上極めて困難であるとともに、著しく価額を損することになることが明らか」と判断しました。バラバラにすることで不動産価値が激減し、相続人全員が経済的に損をしてしまうことを防ごうとしたのです。

「一括売却」が全員のために最も良い

本件では、自身の固有財産(遺産とくっついている部分)を持つ相続人Yも、「遺産分割のためなら自分の土地建物も一緒に売ってよい」と同意していました。これを受け、裁判所は「遺産もYの財産もすべてセットにして、価値が高い状態で一括売却(競売)し、その代金をそれぞれの持分に応じて配分するのが、全当事者のために最も良い方法である」と結論づけました。

競売が公平な解決策

誰か一人が不動産を取得して代償金を払う資力がない、あるいは合意ができない場合、公開の市場(競売)で価格を決定し、現金を分ける方法が最も公平であると判断されました。

決定された分配

不動産は一括競売され、経費を引いた代金が各相続人の割合(Yは個人財産分を含むため多くなる)に応じて公平に分配されることになりました。

弁護士の視点

この裁判例は、不動産という「分けにくい財産」を扱う難しさと、解決のための現実的な落としどころを示しています。ここから学べる予防策は以下の通りです。

共有状態・複雑な利用関係の解消を急ぐ

本件のトラブルの根本原因は、「親の建物と子供の建物がつながっている」「土地の境界と建物の配置がズレている」といった複雑な利用状況にありました。こうした状況は、相続発生後に解決しようとすると非常に困難です。親子間で話し合えるうちに、測量を行って境界を確定させたり、建物の登記を整理(分筆・合筆)したりしておくことが重要です。

「換価分割」を恐れない

「先祖代々の土地を売るなんて」と抵抗を感じる方もいますが、無理に共有状態で持ち続けたり、使いにくい形に分けたりすると、結果として不動産が荒廃し、資産価値がゼロになることもあります。公平に分ける手段として「売却して現金を分ける」ことは、全員が納得しやすい合理的な解決策の一つです。

「競売」になる前に「任意売却」を

裁判所による「競売」命令は、当事者間で合意ができない場合の最終手段です。しかし、競売は一般市場での売却に比べて、売却価格が低くなる(市場価格の6〜7割程度になることも)傾向があります。

経済的な損失を防ぐためには、裁判所の命令が出る前に、相続人全員の協力のもとで不動産会社を介して売却する(任意売却)形での「換価分割」を目指すのが賢明です。

よくある質問(FAQ)

「現物分割」と「換価分割」、どちらが優先されますか?

原則は「現物分割」ですが、状況により「換価分割」が選ばれます。

民法上、まずは遺産そのものを分ける「現物分割」が原則とされています。しかし、本件のように現物分割すると価値が著しく下がってしまう場合や、物理的に不可能な場合には、例外的に「換価分割(売ってお金で分ける)」が選択されます。

裁判所から「競売」を命じられたら拒否できますか?

いいえ、確定した決定には従う必要があります。

裁判所が「競売による分割」を決定し、それが確定した場合、相続人が反対しても手続きは進められます。そうなる前に、相続人間で話し合って、より有利な条件で売却できる「任意売却」で合意することが重要です。

現物分割が「著しく困難」とは具体的にどういう状態ですか?

物理的に分けられない、または分けると価値が激減する場合です。

例えば、「一つの建物を半分に切ることはできない」「土地を分けると狭すぎて家が建たなくなる」といったケースが該当します。このような場合、裁判所は無理な現物分割を避け、換価分割を選択する傾向にあります。

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