【判例解説】相続人全員が遠方に住んでおり、誰も利用予定がない不動産の競売を命じた事例(福島家裁喜多方出張所昭和52年7月11日審判)

この記事のポイント
  • 争点:相続人全員が遠方に住んでおり、誰も利用予定がない不動産をどう分けるか?
  • 結論:裁判所は、現物所有への「特別の経済的・感情的な利害関係」がないため、競売で現金化して分けるのが相当と判断した。
  • ポイント:誰も住まない実家は、放置せず「売却して現金を分ける」解決策を検討しておくことが重要。
目次

事案の概要

今回の事案は、亡くなった方(被相続人)が遺した「不動産」をめぐり、遠方に住む相続人同士で遺産分割の話し合いがまとまらず、家庭裁判所に判断を求めたケースです。

主な登場人物とその関係

  • 被相続人(亡くなった方):A
  • 申立人(遺産分割を求めた養女):X
  • 相手方(Aの長女):Y
  • その他の親族(亡くなった次女の息子):Z

なお、Zは相続分を放棄をしたため、実質的な争いはXとYの2名で行われました。

トラブルの経緯

被相続人Aが亡くなり、遺産として「不動産」が残されました。

相続人であるXとYは、法律上、2分の1ずつの相続分を持っています。
しかし、XもYも、この不動産がある場所から離れて生活しており、二人ともこの家に住む予定がありませんでした。

「誰も住まない、利用もしない不動産」を誰が引き継ぐか、あるいはどう処分するかについて話し合い(協議)を行いましたが、合意には至りませんでした。

そこで、Xが家庭裁判所に対し、遺産分割を求める申し立てを行いました。

主な争点

相続人が遠方にいて利用予定がない場合、不動産の「競売」は認められるか?

遺産分割において、不動産を特定の誰かが引き継ぐ(現物分割)ためには、その人が「住み続けたい」「家業に使いたい」といった必要性があることが一般的です。

しかし、本件の裁判例では、「相続人の誰もがその不動産の近くにおらず、所有することに特段の事情がない」状況でした。

このような状況下で、裁判所が「現物を分ける」のではなく、強制的に「売って現金にする(競売)」という方法を選択するかどうかが、最大の争点となりました。

裁判所の判断

裁判所は、最終的に「不動産を競売にかけ、その代金をXとYで半分ずつ分けること」を命じました。

判断の理由

裁判所は、判決(審判)の中で、以下の2つの事情を重視し、「現物を誰かが引き継ぐのは不適切」と判断しました(福島家裁喜多方出張所昭和52年7月11日審判)。

  1. 居住実態の欠如
    XもYも、すでに本件不動産の所在地を離れて別の場所で生活基盤を築いていること。
  2. 特別な利害関係の欠如
    両名とも、現物の所有について「特別の経済的ないしは感情的な利害関係」を有しているとは認められないこと。

裁判所は、「二人とも遠くで暮らしており、この家がどうしても必要という経済的な理由(店をやっている等)もなければ、どうしても守りたいという強い感情的な理由(先祖代々の土地への執着等)も見当たらない」と考えました。

このように、誰も使う予定がなく、強いこだわりもない不動産を無理に共有したり、どちらかに押し付けたりするよりは、「売却して現金に変えて、きっちり半分ずつ分けるのが一番公平である」というロジックです。

審判では、以下のように述べられています。

「現物の所有について特別の経済的ないしは感情的な利害関係を有することが認められない本件にあつては、現物の分割その他の方法によるよりは、これが競売を命じ、その売得金を申立人及び相手方に各二分の一を分配するのが相当である」

これは、「換価分割」と呼ばれる分け方ですが、当事者が任意に売却できない場合、裁判所が強制力のある「競売」を命じることになります。

弁護士の視点

この裁判例から学べる「将来のトラブルを防ぐための対策」について解説します。

「特別な利害関係」がないと判断されるリスク

この裁判例で重要なのは、裁判所が「感情的な利害関係(思い入れ)」の有無まで考慮している点です。

逆に言えば、もし「実家を残したい」という希望があるなら、単に主張するだけでなく、「自分が住む」「管理に通う」といった具体的な行動や事実が必要になるということです。遠方に住んだまま放置していると、客観的に「利害関係がない」とみなされ、競売による売却処分が選択される可能性が高まります。

競売を避けるための事前対策

裁判所による「競売」は、市場価格よりも安く売却されてしまう(安く買い叩かれる)傾向があります。これを避けるためには、以下の対策が重要です。

  1. 当事者間で「任意売却」に合意する
    裁判になる前に、相続人全員で協力して不動産業者を通じて売却し、経費を引いた手取り現金を分ける合意をすることです。これにより、市場価格での売却が期待できます。
  2. 遺言書で「換価分割」を指定する
    親の世代が、「不動産を売却して現金を分けるように(清算型遺言)」と遺言書を残しておくことで、相続発生後の「誰が引き継ぐか」という争いを未然に防ぐことができます。

よくある質問(FAQ)

裁判所が言う「特別の経済的、感情的な利害関係」とは具体的にどのようなことですか?

「その家に住まないと生活できない」「家業に不可欠である」といった切実な事情のことです。

感情的な面では、例えば「先祖代々の位牌を守り祭祀を行っている」といった事情が考慮されます。単に「生まれ育った家だからなんとなく残したい」という程度では認められにくく、実際に居住しているか、頻繁に管理に通っているかといった客観的な事実が重視されます。

競売ではなく、もっと高く売りたいのですが?

相続人全員が協力すれば、通常の不動産売却(任意売却)が可能です。

裁判所が「競売」を命じるのは、あくまで当事者間の話し合いが決裂した場合の最終手段です。全員が「高く売りたい」という目的で一致し、協力して不動産会社に依頼すれば、市場価格で売却し、現金を分けることができます。

遠方に住んでいますが、実家を相続したい場合はどうすればいいですか?

他の相続人に金銭を支払う「代償分割」を提案しましょう。

遠方に住んでいても、不動産を相続すること自体は可能です。ただし、公平性を保つために、他の相続人の持分に相当する金銭(代償金)を支払う必要があります。裁判所に対し、「自分が代償金を支払える能力があること」と「取得したい明確な理由」を主張することが重要です。

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