【判例解説】同族会社が事業で利用している土地であっても、共有にするしかないと判断した事例(大阪高裁平成28年9月27日決定)
- 争点:代償金(他の相続人に支払う現金)を支払う能力がない相続人に、不動産の単独取得を認めるべきか?
- 結論:裁判所は、代償金の支払能力がなく、売却も困難な以上、公平な分割のためには不動産を「共有」にするほかないと判断した。
- ポイント:事業用地を確実に守るためには、代償金の原資となる「現金」を事前に準備しておくことが重要。
事案の概要
本件は、被相続人(亡くなった方)AおよびBの遺産である土地・建物をめぐり、会社経営者である相続人X(抗告人)と、もう一人の相続人Y(相手方)との間で分割方法が争われた事例です。

- 被相続人:A、B
- 相続人X(抗告人):会社Eの代表者。遺産である土地の上に会社の本店や店舗があり、「事業継続のために、すべての土地を単独で相続したい」と主張。ただし、Yに支払うべき代償金(現金)をほとんど持っていない。
- 相続人Y(相手方):公平な遺産分割を求めている。Xに土地を取得させるなら、見合うだけの現金を支払ってほしいと主張。
トラブルの経緯
第一審(家庭裁判所)は、Xの事業事情を考慮し、「Xが土地を取得する代わりに、Yに約2,600万円の代償金を支払う」という決定を出しました。
しかし、Xには手元資金がなく、「用意できるのは最大250万円」という状態でした。Xは「お金はないが、土地は欲しい」として、一審の変更を求めて高等裁判所に不服を申し立てました。
主な争点
代償金を支払う能力がなく、売却もできない場合、どう分割すべきか?
遺産分割において、特定の相続人が不動産を単独取得するには、他の相続人との不公平を埋める「代償金(現金)」の支払いが原則です。
しかし、本件のXのように「不動産は絶対に欲しいが、代償金を支払う能力(資力)がない」場合、裁判所はその希望をどこまで認めるべきかが問題となりました。
通常、代償金が払えないなら、「土地を売って現金を分ける(換価分割)」のがセオリーですが、本件ではXが「事業に使っているから売りたくない」と反対し、Yも売却には難色を示していました。
「金は払えない」かつ「土地は売りたくない」という八方塞がりの状況で、裁判所がどう公平性を保つかが最大の争点でした。
裁判所の判断
大阪高等裁判所は、一審の「Xに取得させ、高額な代償金を支払わせる」という判断を取り消し、「主要な土地(土地3)をXとYの共有(X持分約67%、Y持分約33%)とする」という決定を下しました(大阪高裁平成28年9月27日決定)。
裁判所は、当事者の希望と現実的な制約を整理し、以下のような論理(消去法)で「共有」という結論を導き出しました。
代償分割は認められない(お金がない)
Xは自ら「支払能力がなく、最大250万円しか用意できない」と認めています。一審のように数千万円の支払いを命じても、実際に支払われる保証はありません。裁判所は、「抗告人(X)の希望どおりの分割をした上、その不払の危険を相手方(Y)に負担させることは相当な分割方法とはいえない」と判断しました。
換価分割も適切ではない(売りたくない)
次に考えられる「売却(換価分割)」についても、土地上にはXの会社建物があり、Xは強く反対していました。また、Yも売却には難色を示していたため、無理やり競売にかけることも当事者の意思に反します。
結論:共有にするしかない
「お金がないから代償分割は無理」「売りたくないから換価分割も無理」。
こうなると、公平な遺産分割を実現する残された方法は、「不動産の所有権そのものを分け合う(共有にする)」ことしかありません。
裁判所は、Xが事業で使っている土地であっても、代償金を払えない以上は単独取得を認めず、以下のように述べました。
「抗告人の代償金支払能力や、抗告人が同土地の換価分割に反対し、相手方もこれに難色を示していることなどを考慮すると、双方の希望と公平な分割を実現するには同土地を共有取得させることもやむをえない」
結果として、Xさんは会社の本店敷地について、Yさんと共有(共同で所有)する形で決着することとなりました。
弁護士の視点
この判例は、遺産分割における「資金力の重要性」を厳しく示しています。ここから学べる将来のトラブルを防ぐための対策を解説します。
「事業のため」という事情だけでは守れない
「会社で使っている土地だから、当然後継者がもらえるだろう」という考えは危険です。裁判所にとって最も重要なのは「相続人間の公平」です。他の相続人の納得を得られるだけの代償金(現金)を用意できなければ、本件のように、事業と無関係な親族と不動産を「共有」せざるを得ない状況に追い込まれます。
「共有」は経営者にとって最大のリスク
裁判所が「やむを得ない」として命じた共有状態ですが、経営者にとっては非常に不安定な状態です。
- 建物の建て替えや大規模修繕に共有者(Y)の同意が必要になる。
- 将来、Yに相続が発生すれば、共有者がさらに増え、権利関係が複雑化する。
- Yから「共有物分割訴訟」を起こされ、最悪の場合、競売になるリスクが残る。
このように、経営の自由度が大きく制限されてしまいます。
生前の「現金の準備」が不可欠
このような事態を防ぐには、遺言書で承継者を指定するだけでなく、「代償金の原資となる現金」を確実に準備しておくことが不可欠です。
特に有効なのが「生命保険」の活用です。死亡退職金や生命保険金を後継者が受け取れるようにしておけば、それを代償金の支払いに充てることができ、スムーズに不動産を単独取得することが可能になります。

