「とりあえず共有」は問題の先送りであるとし、対立する相続での安易な共有を不相当とした事例(東京高裁平成3年10月23日決定)

この記事のポイント
  • 争点:対立が激しく管理人も選任されている状況で、裁判所が「共有」を命じることは相当か?
  • 結論:裁判所は「共有は新たな争いを残すだけで、根本的な解決にならない」として、原審の審判を取り消した。
  • ポイント:個々の事情を考慮し、特定の相続人やグループに物件を割り振る「具体的分割」が重要。
目次

事案の概要

本件は、被相続人(亡くなった方)が遺した多数の不動産(宅地、田畑、貸地など)をめぐり、相続人同士の話し合いが泥沼化し、家庭裁判所の審判に持ち込まれた事例です。

主な登場人物とその関係

  • 被相続人A:亡父
  • 抗告人X:Aの息子(「競売してお金で分ける」か、それが無理なら「相続人をグループ分けして土地を割り振る」ことを提案)
  • 相手方(被抗告人):他のきょうだい・孫(X側のグループと対立グループに分かれている)

トラブルの経緯

Aの遺産分割協議において、相続人同士の仲は極めて悪く、お互いに遺産の管理を任せることができない状態でした。そのため、裁判所によって別途「遺産管理人」が選任されるほど、協調性が欠如していました。

また、遺産である不動産の中には、すでに特定の相続人が居住している土地もあれば、そうでない土地もあり、それぞれの利害関係が複雑に絡み合っていました。

家庭裁判所は、審理が長期化していることから「早期解決」を優先し、以下のような判断を下しました。

  1. 競売が適当でない不動産:とりあえず「相続人全員の法定相続分による共有」とする。
  2. それ以外の不動産:競売にかけて代金を分ける。

これに対し、Xは、「これほど仲の悪い者同士を共有にしても、将来また揉めるだけだ。もっと具体的に『誰が・どの土地をもらうか』を決めるべきだ」と主張し、東京高等裁判所に不服を申し立てました。

主な争点

「協調性がない相続人」同士に、裁判所が共有を命じることは許されるか?

本件の最大の争点は、「遺産管理人が選任されるほど対立があり、協力が期待できない状況にもかかわらず、裁判所が『共有』という解決策をとることが妥当か」という点です。

家庭裁判所は「分けにくいなら共有」という安易な方法を選びましたが、Xらは「現実に住んでいる人と住んでいない人が共有になれば、使用料(不当利得)の精算などで新たな火種になる」と反論しました。

法的に、このような「将来の紛争が目に見えている共有」を裁判所が命じることが許されるかが問われました。

裁判所の判断

東京高等裁判所は、家庭裁判所の決定を取り消し、審理をやり直すよう命じました(東京高裁平成3年10月23日決定)。

裁判所は、以下の理由により、「安易な共有」を否定し、「根本的かつ具体的な分割」を行うべきだと判断しました。

「共有」は解決ではなく、問題の先送りに過ぎない

裁判所は、相続人間で利害や意見の対立が激しく、遺産管理人が選任されるような状況において、「共有」とする分割方法は不適切であると断じました。判決文では、次のように厳しく指摘されています。

「相続分に応じた共有と定めるだけでは何ら根本的な解決にならないばかりか、相続人らの間で改めて共有物分割という課題を残し、しかもその際には共有者間において現実に物件を使用し収益を得た者とそうでない者との間で精算をめぐって新たな問題が生じ、いたずらに問題を複雑にすることにもなりかねない。要するに問題の解決を先送りにするだけとの非難を免れない」

つまり、裁判所の役割は「紛争を終わらせること」であり、将来「共有物分割訴訟」や「金銭トラブル」などの新たな裁判が必要になるような状態を作ることは許されないという判断です。

「グループ分け」などの具体的分割を検討すべきだった

本判決の最も重要なポイントは、裁判所が「もっと知恵を絞って、具体的な分け方を考えるべきだ」と具体案を示した点にあります。裁判所は、次のように述べています。

「具体的事情を更に審理し、前記遺産との利害関係をも比較考慮して判断すれば、個々の遺産を特定の相続人に分与し、或いは数個の物件を数人の共通する利害関係を有する相続人に分与する等の根本的かつ具体的な分割の方法も十分考えられるはずであり、このような配慮を一切していない原審判は相当でない」

これは、単に「共有はダメ」というだけでなく、以下のような柔軟な解決策を検討する義務があることを示しています。

  • 個々の遺産を特定の相続人に分与する
    • 例:「現実に住んでいる長男には、この土地を単独で与える」
  • 数個の物件を、共通する利害関係を有する相続人に分与する
    • 例:「仲の良いA・B・Cの3人はグループとして、この土地を3人の共有にする(仲の悪いDは外す)」

このように、人間関係や利用実態(誰が住んでいるか)を深く考慮し、将来揉めない形での「根本的な解決」を目指すべきだと結論づけました。

弁護士の視点

この判例は、遺産分割において「安易な妥協(共有)」がいかに危険であるか、そして「具体的な提案」がいかに重要かを示しています。ここから学べるトラブルの予防策は、以下のとおりです。

「共有は嫌だ」と言うだけでなく「代案」を出す

この裁判で高等裁判所が動いた大きな要因は、Xらが単に文句を言っただけでなく、「Aグループはこれをもらう、Bグループはこれをもらう」という具体的な代案(分割案)を提示していたことにあります。

裁判所に対し、「分けられないから共有」という消極的な判断をさせないためには、「こうすれば分けられる」という現実的なプラン(誰が何を取得するか)を示すことが、希望する解決を勝ち取る鍵となります。

「グループ分け」による解決の可能性

相続人が多数いて対立している場合、全員がバラバラに主張するのではなく、「利害が一致する人同士」でグループを作るのも有効な戦略です。

本判決でも「共通する利害関係を有する相続人に分与する」方法が肯定されています。例えば「長男チーム」と「次男チーム」に分かれ、不動産もその単位で大きく分けることで、複雑な共有関係を回避し、解決を早めることができます。

遺言書で「誰に・何を」を具体的に指定する

最も確実な予防策は、被相続人(親)が生前に遺言書を作成することです。

「遺産は子供たちで分ける」といった抽象的な内容ではなく、「自宅の土地建物は長男に、アパートは次男に相続させる」と具体的に指定しておけば、今回のように「分け方が決まらず共有になってしまう」という事態を確実に防げます。

よくある質問(FAQ)

話し合いがまとまらないと、裁判所は必ず「共有」にするのですか?

いいえ、裁判所も「共有」は極力避けようとします。

本判決のように、裁判所は、「共有は紛争の先送り」であると認識しています。そのため、基本的には「現物分割(誰かが取得)」「代償分割(代償金を支払って取得)」「換価分割(売ってお金にする)」を目指します。共有分割が命じられるのは、他にどうしても方法がない例外的なケースに限られます。

遺産の中に、私が住んでいる家があります。他の兄弟と共有にされますか?

あなたが取得を希望すれば、単独所有できる可能性が高いです。

裁判所は「現在の利用状況」を重視します。本判決でも、住んでいる人の事情を無視して共有にすることは不当だと判断されています。あなたがその家を取得し、代わりに他の兄弟にお金を払う(代償分割)形など、単独所有のための解決策を模索してくれます。

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