土地の無償使用を「特別受益」と認め、更地価格の15%を評価額とした事例(東京地裁平成15年11月17日判決)

この記事のポイント
  • 争点:親の土地でアパート経営などをした場合、土地の無償使用は「遺産の前渡し」になるか?
  • 結論:裁判所は「特別受益(遺産の前渡し)」にあたるとし、評価額は更地価格の15%と判断した。
  • ポイント:過去の「得した家賃合計」の加算は認められない。評価額の相場は「更地価格の1割〜3割」。
目次

事案の概要

本件は、亡くなった資産家の父親の遺産相続をめぐり、遺留分を請求した二男と、遺言で多くの財産を譲り受けた三男の間で争われた事例です。

主な登場人物とその関係

  • 被相続人:A(父)
    • 会社や商店を経営していた資産家。
    • 遺言により、主要な不動産を三男Yに相続させて平成5年に死亡した。
  • 原告:X(二男)
    • 父Aの所有地(本件土地)を借りて、自分名義のアパート(収益物件)や自宅を建てて利用していた。
    • 父に対し、給料名目で月額10万円を渡していた。
  • 被告:Y(三男)
    • 遺言により多くの遺産を取得したが、Xから遺留分減殺請求(現在の遺留分侵害額請求)を受けた。

トラブルの経緯

遺言により取り分が少なかったXが「遺留分を払え」と訴えたところ、Yは、次のように反論しました。

「兄さん(X)は長年、お父さんの土地をタダ同然で借りてアパート経営をし、利益を得ていた。これは実質的に『土地使用権の贈与(特別受益)』であり、遺産の前渡しだ。これを計算に入れれば、兄さんの取り分はもう十分あるはずだ」

つまり、「親の土地の無償使用(使用貸借)」を金額に換算して、Xの遺留分から差し引けるかが最大の争点となりました。

主な争点

月額10万円払っていても「特別受益」になるか?

Xは「毎月10万円(合計1360万円)を父に渡し、固定資産税も負担していたので、タダ(使用貸借)ではなく賃貸借だ」と主張しました。

もし「賃貸借(正当な対価を払っている)」と認められれば、特別受益には当たりません。一方で、当時のその土地の相場賃料は月額30万円を超えていました。「相場より著しく安い金額」が対価として認められるかが問われました。

特別受益の「評価額」はどう計算すべきか?

もし「土地を使える権利」が遺産の前渡しになるとしたら、いくらと評価すべきでしょうか。

  • Y(被告)の主張: 「①土地の権利価格(使用借権)」に加えて、「②過去10年分の得した家賃相当額(約1200万円)」も合計して差し引くべきである。
  • 争点のポイント: 権利の価値とは別に、過去の家賃分まで上乗せ(二重評価)してよいのか?

裁判所の判断

東京地方裁判所は、Yの主張を一部認め、Xの請求を棄却しました(東京地裁平成15年11月17日判決)。

Xには「すでに十分な生前贈与(特別受益)があった」と認定されたためです。

「月10万円」では賃料と認められず、特別受益にあたる

裁判所は、不動産鑑定の結果に基づき、当時の適正賃料(新規賃料)が月額約33万8000円であったと認定しました。

Xが支払っていた月額10万円は、適正賃料に比べて著しく低廉であるため「地代」とは認められず、父の帳簿上も「給料」等とされていたことから、あくまで「生活費の補助」等の性質であると判断。

その上で、アパート経営のために土地を使わせていたことは「まさにXの生計の資本の贈与である」として、特別受益に当たると結論づけました。

「過去の家賃」の上乗せは認めない

評価額の算定について、裁判所は、以下の理由から、Yが主張した「過去の家賃相当額の上乗せ」を否定しました。

使用期間中の使用による利益は、使用貸借権から派生するものといえ、使用貸借権の価格の中に織り込まれていると見るのが相当であり、使用貸借権のほかに更に使用料まで加算することには疑問があり

つまり、「土地を使用できる権利(使用借権)」の評価額の中に、「将来にわたり家賃を払わなくてよい利益」はすでに含まれているという理屈です。権利の価値とは別に家賃分まで足してしまうと、利益を二重取りすることになってしまうため認められませんでした。

具体的な評価額は「更地価格の15%」

最終的に裁判所は、不動産鑑定士の鑑定結果を採用し、本件土地の使用借権価格を「更地価格の15%」と認定しました。

  • 土地の更地価格(相続開始時):約1億2901万円
  • 特別受益の額(15%):約1935万円(その他、自宅敷地分なども合わせて合計約3008万円の特別受益があったと認定)

この結果、Xはすでに3000万円以上の生前贈与を受けていた計算になり、遺留分は侵害されていないとして、Xの敗訴が確定しました。

弁護士の視点

この判例から導き出される、将来のトラブルを防ぐためのポイントを解説します。

「使用借権」の評価相場は1割〜3割

本判決では「15%」とされましたが、建物所有を目的とする使用借権の価額は、実務上、更地価格の1割〜3割の範囲で評価されることが多いとされています。

有料で借りる「借地権(60〜70%)」ほど高くはありませんが、東京都内などの地価が高いエリアでは、1割であっても数千万円に達し、遺産分割の結果を大きく左右します。「タダで借りているから価値ゼロ」ではないことを強く意識してください。

「持戻し免除」の意思表示を活用する

親が「長男には土地をタダで使わせてあげたい」と願うなら、遺言書などに「この土地の使用利益は、相続分の計算には持ち戻さない(特別受益として扱わない)」という意思表示(持戻しの免除)を明記しておくことが有効です。

これにより、原則としてこの「15%分」を計算に入れずに遺産分割を行うことができます(ただし、遺留分を侵害する範囲では無効となる場合があります)。

あいまいな金銭授受を避ける

本件のように「月10万円払っているから大丈夫」という自己判断は危険です。相場(本件では約33万円)より安ければ、法的には「無償(使用貸借)」と扱われます。

後々の争いを避けるなら、正式な賃貸借契約書を作成し、近隣相場を意識した適正賃料を設定して支払う必要があります。

よくある質問(FAQ)

親と同居しているだけでも特別受益になりますか?

いいえ。単なる同居であれば、原則として、特別受益になりません。

一般的な同居は、親子間の「扶養義務や相互協力」に基づくものと考えられるためです。本件で特別受益とされたのは、「アパート経営など、独立した生計の資本として土地を使わせていた」という事情があったためです。

土地を借り始めたのが数十年前でも、現在の価格で計算されますか?

原則として「相続開始時(親が亡くなった時)」の価格です。

土地を借り始めた当初の安い価格ではなく、相続が発生した時点の評価額(更地価格)をベースに計算されます。本件のように、バブル期などを経て地価が上昇している場合、想定以上に高額な特別受益が認定されるリスクがあります。

固定資産税を子が負担していれば、贈与扱いされませんか?

固定資産税程度では、贈与(特別受益)認定を覆すのは困難です。

法律上、無償で借りる「使用貸借」であっても、通常の必要費(固定資産税など)は借り主が負担するものとされています(民法595条1項)。したがって、固定資産税を払っていても、「使用貸借である(=特別受益である)」という判断は変わりません。対価として認められるには、相場に近い賃料の支払いが必要です。

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