家業従事型の寄与分において、遺産総額ではなく「農地のみ」を算定の対象とした事例(大阪高裁平成27年10月6日決定)

この記事のポイント
  • 争点:会社員として働きながら、赤字経営の家業(農業)を手伝った場合に「寄与分」は認められるか?
  • 結論:裁判所は「農地の荒廃を防ぎ価値を維持した」として寄与分を認めたが、その算定の対象は「農地のみ」に限定した。
  • ポイント:家業を手伝えば遺産全体から多くもらえるとは限らず、「貢献した財産」が厳密に区別された点に注意が必要。
目次

事案の概要

本件は、和歌山県のみかん農家であった被相続人の遺産分割において、長年にわたり家業を手伝ってきた長男が「寄与分」を求めたのに対し、実家を離れていた二男が争った事例です。

主な登場人物とその関係

  • 被相続人A(父):みかん農家。晩年は高齢のため、農作業の多くを長男の援助に頼っていましたが、確定申告上の農業所得は赤字の時期がありました。
  • 申立人X(長男):会社員(交替制勤務)として働きながら実家に同居。シフト制(日勤・夜勤・休日)を利用し、約35年間にわたり休日や休暇を農作業に充てていました。退職後は農業に専従。
  • 相手方Y(二男):会社員。就職と同時に実家を離れて独立しており、農業の手伝いは行っていませんでした。
  • 相手方B(母):被相続人Aの妻。

トラブルの経緯

長男Xは、19歳で就職してから父Aが亡くなるまで、会社勤めの合間を縫って農作業に従事してきました。特に父が高齢になってからは、実質的にXが農地を維持管理していました。

父Aが亡くなった後、Xは、「家業を維持したのは自分だ」として、寄与分を主張しました。

家庭裁判所(第一審)はXの主張を全面的に認め、「遺産総額(預貯金や宅地含む全て)の30%」という高い割合の寄与分を認めました。

これに対し、二男Yは「兄は会社員であり、農業はあくまで余暇の手伝いだ」「農業は赤字だったのだから、財産は増えておらず、寄与分は発生しない」と反論し、高等裁判所に不服を申し立てました。

主な争点

裁判では、現代的な働き方や経営状況を背景に、以下の3点が大きな争点となりました。

会社員との「兼業」で「特別の寄与」は認められるか?

寄与分が認められるには、親族間の通常の手伝いを超える「特別の寄与」が必要です。フルタイムの会社員である長男Xの「休日の手伝い」が、これに該当するかが問われました。

「赤字経営」でも財産維持への貢献といえるか?

寄与分は、通常、相続財産の「維持」または「増加」への貢献が必要です。農業経営が赤字(=利益が出ていない)である以上、財産的な貢献はないのではないかが問題となりました。

寄与分の計算対象は「遺産全体」か「農地のみ」か?

第一審は、預貯金や宅地を含む「遺産全体」の30%を寄与分としました。しかし、Xの努力が及んでいない財産(預貯金など)からも寄与分を差し引くことが、法的に公平かどうかが争われました。

裁判所の判断

大阪高等裁判所は、、長男Xの「寄与(貢献)」自体は認めたものの、その計算方法を「遺産全体」から「農地のみ」に限定するという判断を下しました(大阪高裁平成27年10月6日決定)。

「シフト勤務」を活かした貢献を認定

裁判所は、長男Xの勤務実態(日勤・夜勤・明け・休みを繰り返すサイクル)を詳細に検証しました。その結果、Xが休日だけでなく、夜勤明けや有給休暇も農作業に充てていた事実を認定。「単なる休日の手伝い」を超え、「Xの労働力がなければ農地の維持は不可能だった」として、兼業であっても特別の寄与に当たると判断しました。

「赤字」でも「価値の減少」を防げば貢献になる

二男Yの「赤字だから貢献なし」という主張に対し、裁判所は、以下の理屈でをXの寄与分を認めました。

耕作放棄によりみかん畑が荒れた場合にはその取引価格も事実上低下するおそれがある

つまり、「もし長男が手伝わずに放置していれば、畑は荒れ果てて不動産としての価値(取引価格)が下がっていたはずだ。長男の労働によって、その『値下がり』を防いだ」という点を、法的な「維持への寄与」として評価しました。

計算対象を「農地」に限定したロジック

ここが本判決の最大の特徴です。

一般的に、家業従事型の寄与分は「給与相当額(賃金センサス)」をベースに計算されることが多いですが、農業の場合は、給与額の算定が難しく、実態にそぐわないことがあります。

そこで裁判所は、「一切の事情を考慮」する裁量を用い、次のように結論づけました。

  • 長男Xが守ったのはあくまで「みかん畑」である。
  • 経営が赤字であった以上、Xの労働が「預貯金」の形成に寄与したとは言えない。
  • したがって、関係のない「預貯金」や「自宅敷地」を含めた遺産全体から寄与分を計算するのは適切ではない。
  • 結論として、「恩恵を受けたみかん畑(農地)の評価額(約1913万円)」に対する30%(約574万円)を寄与分とする。

結果、家庭裁判所では「遺産総額の30%(約1237万円)」とされていた寄与分が、高裁では「農地評価額の30%(約574万円)」へと大幅に減額・修正されました。

弁護士の視点

この判例は、家業(特に農業)を手伝う相続人にとって重要な教訓を含んでいます。

「家業手伝い=遺産全体の取り分増」とは限らない

多くの相談者様が「家業を継いだ・手伝ったから、遺産(全体)を多くもらえる」と考えがちですが、本判決はその常識を覆しました。

「あなたの努力が具体的に『どの財産』を守ったのか?」を厳密に区分しますので、貢献と無関係な預貯金などについては、寄与分の計算から外されるリスクがあることを知っておく必要があります。

「赤字」でもあきらめる必要はない

「うちは儲かっていないから寄与分なんて無理だ」と考える必要はありません。本件のように、「自分が手入れをしなければ、不動産の価値が下がっていた」という事実は、立派な法的貢献として認められます。

これを証明するためには、以下の証拠が重要になります。

  • 農作業の内容や時間を記録した業務日誌・手帳(勤務シフトとの整合性が重要)
  • 農地のビフォーアフター写真(手入れされている状況)
  • 自費で購入した農機具や肥料の領収書

最善の策は「遺言書」での指定

裁判による「寄与分」の認定は、裁判官の裁量に左右される部分が大きく、本件のように計算方法が変わるだけで受け取れる金額が半減することもあります。

親御さんが「家業を支えてくれた子に報いたい」と考えているなら、不確実な寄与分制度に頼るのではなく、「〇〇の農地と、農業資金として預貯金〇〇万円を長男に相続させる」など、分割方法を具体的に指定した遺言書を作成しておくことが最も確実です。

よくある質問(FAQ)

週末だけの家業手伝いでも、寄与分は認められますか?

認められる可能性があります。

単なる親族としての交流を超え、長期間かつ継続的に労働力を提供し、それによって親が従業員を雇わずに済んだ(人件費が浮いた)といった事情があれば、「特別の寄与」として認められる余地があります。本件でも、会社員の休日に継続して手伝ったことが評価されました。

家業がずっと赤字なのですが、それでも寄与分を請求できますか?

不動産などの価値の維持に貢献していれば、請求できる可能性はあります。

事業利益が出ていなくても、本判決のように「手入れをしなければ土地が荒廃して価値が下がっていた」といえる状況であれば、その「価値の減少を防いだ分」が寄与分として評価されることがあります。

寄与分の計算における「賃金センサス」とは何ですか?

統計上の「平均賃金」のことです。

家業従事型の寄与分を計算する際、通常は「もし他人を雇ったら払うべき給料(平均賃金)」を基準に計算します(賃金センサス方式)。しかし本件のように、農業などで給与換算が難しい場合は、裁判所が貢献度合いを見て「対象財産の〇%」というふうに、裁量で割合を決めることがあります。

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