その遺留分、少なすぎませんか?「過去の贈与」も足して計算する正しい手順とシミュレーション
「遺言書を見たら、自分の取り分がゼロだった」
「銀行預金の残高が思ったより少ない。この金額の半分しか請求できないの?」
もしあなたが「亡くなった時の通帳残高 × 1/2」が自分の遺留分だと思っているなら、数百万円単位で損をしている可能性があります。
遺留分の計算において最も重要なのは、「見かけ上の遺産」に「過去の贈与」を足し戻して計算するというルールです。
この記事では、弁護士に相談する前に、自分で電卓を叩いて「本来の最低保障額」を把握するための正しい計算手順を解説します。
計算する前にチェック!あなたは「権利者」ですか?
計算を始める前に、そもそも自分に「遺留分を請求する権利」があるかを確認しましょう。法律では、すべての相続人にこの権利があるわけではありません。
遺留分があるのは「配偶者・子・親」だけ
法律上、遺留分(最低限の遺産取得分)が保障されているのは、以下の相続人に限られます。
- 配偶者(夫または妻)
- 子(子が亡くなっている場合は、その子=孫)
- 直系尊属(父母、祖父母など。子がいない場合に限る)
残念ながら「兄弟姉妹」は1円も請求できません
ここで最も注意すべきなのは、亡くなった方の「兄弟姉妹(およびその子である甥・姪)」には、遺留分が一切認められていないという点です。
たとえ遺言書に「全財産を愛人に譲る」と書かれていて、兄弟姉妹の取り分がゼロになっても、兄弟姉妹は法的に文句を言うこと(遺留分侵害額請求)はできません。あなたが兄弟姉妹の立場である場合、残念ながらここでの計算は適用対象外となります。
隠れたお金を足し戻せ!「基礎財産」の出し方
あなたが権利者であることが確認できたら、計算のスタート地点となる「基礎財産」を算出します。
ここが最大の落とし穴です。単に「亡くなった時に残っていた財産」だけで計算してはいけません。
スタートは「プラスの財産」-「借金」
まずは基本の計算です。亡くなった時点での財産状況を整理します。
- プラスの財産: 現金、預貯金、不動産(土地・建物)、株式、車など。
- ※不動産は「固定資産税評価額」や「路線価」ではなく、相続開始時の「時価」で評価します。
- マイナスの財産(相続債務): 借金、未払いの医療費、未払いの税金など。
まずは、「プラスの財産-マイナスの財産」を計算してください。
【最重要】過去10年分の「生前贈与(特別受益)」も足してOK!
ここからが本番です。上記の計算結果に、過去に配られたお金(生前贈与)を足し戻します(持ち戻し)。 これにより、計算の元となる「基礎財産」の額が増え、あなたの遺留分も増額します。
- 相続人への贈与(原則10年前まで):特定の相続人(例:長男だけ)に対して、住宅資金や開業資金、生活費の援助など(特別受益といいます)として渡された贈与は、相続開始前の10年間に行われたものであれば、すべて基礎財産に足し戻せます。
- ※2019年7月1日以降に発生した相続の場合、原則10年以内という期間制限がつきました。
- 第三者への贈与(原則1年前まで):相続人以外(愛人や知人など)への贈与は、原則として亡くなる1年前の日より後になされたものが加算対象です。
- 「損害を加えることを知って」なされた贈与(期間制限なし):「これをあげたら、他の家族の遺留分がなくなる」と分かっていて行われた贈与(悪意の贈与)は、1年以上前、あるいは10年以上前のものであっても全額足し戻せます。
基礎財産の計算式
基礎財産=亡くなった時のプラス財産+過去の生前贈与-相続債務
電卓で叩くだけ。「自分の取り分」計算式
基礎財産の金額が出たら、あとはシンプルな掛け算です。
全体の遺留分は原則「1/2」(親だけなら1/3)
まず、基礎財産全体のうち、相続人全員で確保できる「総体的遺留分」を出します。
- 直系尊属(親・祖父母)のみが相続人の場合: 基礎財産の 1/3
- それ以外の場合(配偶者や子がいる場合): 基礎財産の 1/2
ほとんどのケース(配偶者や子がいる場合)は「半分(1/2)」と覚えておけば間違いありません。
最後に自分の「法定相続分」を掛ければ完成
上記の金額に、あなた自身の「法定相続分」を掛けます。これがあなたの「個別的遺留分(請求できる額)」です。
【最終的な計算式】
あなたの遺留分=基礎財産×1/2(または1/3)×あなたの法定相続分
【シミュレーション】実際に計算してみよう
では、具体的な数字で計算してみましょう。
ケース①:遺産6000万円・妻と子2人の場合(基本編)
- 状況: 父が亡くなり、相続人は母、長男、次男(あなた)。
- 財産: 預金と不動産で合計6000万円。借金なし。生前贈与なし。
- 遺言: 「全財産を長男に相続させる」。
- Step1(基礎財産): 6000万円(変動なし)
- Step2(全体の遺留分): 6000万円×1/2=3000万円
- Step3(あなたの取り分):
- 次男であるあなたの法定相続分は 1/4 です(母1/2、子全体で1/2を2人で分けるので1/4)。
- 計算:3000万円×1/4=750万円
長男が全額持って行ったとしても、あなたは750万円を請求する権利があります。
ケース②:遺産4000万円+生前贈与2000万円の場合(応用編)
- 状況: 父が亡くなり、相続人は母、長男(あなた)。
- 財産: 亡くなった時の預金は4000万円。
- 隠れたお金: 父は3年前に、母へ2000万円を贈与していた。
- 遺言: 「全財産を母に相続させる」。
「遺留分は4000万円の1/4(法定相続分1/2×遺留分率1/2)だから、1000万円かな?」と思ったら間違いです。
- Step1(基礎財産):ここが重要です。手元の4000万円に、母への過去の贈与2000万円を足します。4000万円+2000万円=6000万円が本当の基礎財産です。
- Step2(全体の遺留分):6000万円×1/2=3000万円
- Step3(あなたの取り分):
- 長男であるあなたの法定相続分は 1/2です(母1/2、子1/2)。
- 計算:3000万円×1/2=1500万円
贈与を考慮しない計算(1,000万円)と比較して、500万円も受取額が増えました。これが正しい計算方法です。
まとめ:計算結果が「実際の遺産」より多ければ、差額を請求しよう
あなたが受け取れる予定の遺産額が、上記で計算した「遺留分」の金額よりも少ない場合、その差額を取り戻す権利(遺留分侵害額請求権)があります。
重要なポイントの復習です。
- 「亡くなった時の財産」だけで計算しない。
- 「過去10年間の相続人への贈与」を必ず足し戻す。
- 兄弟姉妹には権利がない。
まずはご自身で、過去の通帳履歴や不動産の査定額などを集め、この3ステップで「本当の金額」を計算してみてください。それが、あなたの正当な権利を守る第一歩になります。

