その金額、鵜呑みにしないで!遺留分を「正当に増額」させるための4つのポイント
遺留分侵害額請求を行うと、相手方(受遺者や受贈者、あるいはその代理人弁護士)から「財産目録」や「遺留分計算書」が送られてくることがあります。
しかし、その書類を見て「思ったより金額が少ない」「何かがおかしい」と感じたなら、その直感は正しい可能性が高いです。なぜなら、相手方が提示してくる計算書は、あくまで「相手にとって最も都合の良い数字(最低ライン)」で計算されたものに過ぎないからです。
本記事では、相手方の提示額を鵜呑みにせず、正当な権利として請求額を増額(適正化)させるためのチェックポイントを解説します。ハンコを押して合意する前に、必ずこれらを確認してください。
ポイント1:送られてきた「財産目録」を疑え
遺言執行者や相手方から送られてくる「財産目録」は、あくまで「死亡した瞬間に残っていた財産」のスナップショットに過ぎません。遺留分の計算において、この目録の数字をそのまま使うことは、自ら減額を受け入れているようなものです。
「路線価」で計算されていませんか?本来は「時価」で請求できる
不動産の評価額を確認してください。「固定資産税評価額」や「相続税評価額(路線価)」が記載されていませんか?
相続税の申告においてはこれらの評価額を使用しますが、遺留分の算定における不動産の評価は、原則として「時価(実勢価格)」で行います。
- 固定資産税評価額:時価の約7割
- 相続税評価額(路線価):時価の約8割
相手方は、少しでも支払う現金を減らすために、低い「相続税評価額」や「固定資産税評価額」で計算してくるケースが非常に多いのです。特に、都市部の不動産や収益物件では、路線価と実際の売買価格(時価)に大きな乖離が生じることがあります。
不動産評価を見直すだけで、数百万変わることもある
裁判所の調停や訴訟では、当事者間で評価額の合意ができない場合、不動産鑑定士による鑑定が行われることがあります。しかし、そこに至る前の交渉段階であっても、近隣の取引事例や不動産業者の査定書を根拠に「時価」を主張することは可能です。
実際に、相手方が提示した「路線価評価 5000万円」の土地を、「時価 7000万円」として再計算した結果、遺留分請求額が数百万円アップすることは珍しくありません。相手方の提示額が「相続税申告書」の数字をそのまま流用している場合は、特に注意が必要です。
ポイント2:通帳の「謎の出金」を見逃すな
財産目録に記載されている預貯金残高だけを見てはいけません。重要なのは「過去にどう動いたか」です。
死亡直前の多額の引き出しは「使途不明金」として要確認
被相続人が亡くなる直前や、認知症で判断能力が低下していた時期に、口座から多額の現金が引き出されていませんか?
もし、そのお金が被相続人のために使われた証拠(医療費や施設費の領収書など)がない場合、それは以下のいずれかとして遺留分の計算に組み込める可能性があります。
- 相手方への生前贈与:実質的に相手方が受け取ったものとして、遺留分算定の基礎財産に持ち戻す。
- 不当利得または不法行為:勝手に引き出したものとして、遺産に返還させる(遺産額が増えるため、結果として遺留分額も増える)。
解約済みの定期預金や株も、生前贈与として足し戻せる可能性あり
現在は残高がゼロであっても、過去に解約された定期預金や売却された株式が、相続人の誰かに渡っていた場合、それは「特別受益」として計算に含めることができます。
平成30年の法改正により、相続人に対する生前贈与(特別受益)は、原則として「相続開始前の10年間」にさかのぼって遺留分の計算に含めることになりました。
相手方が作成した財産目録には、これら「過去の贈与」は記載されていないことがほとんどです。10年分の取引履歴を確認し、漏れている贈与を指摘することで、請求額は大幅に変わります。
ポイント3:「お金がない」は言い訳にならない
相手方が「遺産は不動産だけで現金がないから払えない」「もう使ってしまった」と言ってくることがありますが、これは法的な拒絶理由にはなりません。
遺留分は「借金」と同じ。払えないなら資産を売却させるべき
法改正により、遺留分侵害額請求権は、遺留分に相当する「金銭の支払いを請求する権利」となりました。つまり、相手方にとっては単なる「借金(金銭債務)」です。
相手方に現金がないとしても、それは相手の都合です。不動産を売却して現金化する、あるいは銀行から融資を受けてでも支払う義務があります。また、支払いが遅れれば、請求した日の翌日(または期限の許与が切れた翌日)から遅延損害金が発生します。この「遅延損害金が増えていくリスク」を交渉材料にすることも可能です。
改正法で「財産開示」が容易に。隠し財産は逃がさない
遺留分は金銭債権ですので、判決等で確定すれば、相手方の固有財産(相手自身の給与や預金、自宅など)に対しても強制執行(差押え)が可能です。
「お金がない」という言い訳を真に受けず、毅然とした態度で「金銭での支払い」を求め、必要であれば仮差押え等の保全処分も検討すべきです。
ポイント4:自己流の計算は「過小請求」の元
インターネット上の簡易計算シミュレーターや、自己流の計算で納得してしまうのは危険です。
ネットの簡易計算では「過去の贈与」が漏れやすい
多くの簡易シミュレーターは、「遺産総額 × 1/2 × 法定相続分」という単純な計算しかしていません。しかし、実際の法律実務では以下の要素が絡み合います。
- 特別受益の持ち戻し:相続人への過去10年間の贈与を加算する。
- 悪意の第三者への贈与:遺留分権利者に損害を加えることを知って行われた贈与は、1年以上前でも加算される。
- 不相当な対価での有償行為:著しく安い価格で財産を譲り受けた場合なども考慮される。
これらを見落として計算すると、本来請求できるはずの数百万、数千万円をドブに捨てることになりかねません。
まとめ:妥協してハンコを押す前に、もう一度「再計算」を
相手方から提示された金額は、あくまで「交渉のスタートライン」に過ぎません。特に、不動産の評価額や過去の使途不明金については、専門家の視点でチェックを入れるだけで、請求額が大きく増額するケースが多々あります。
「早く終わらせたい」という気持ちから安易に合意書にサインをする前に、一度立ち止まってください。相手の計算が「時価」に基づいているか、過去の「贈与」が隠されていないか。これらを再計算し、正当な権利を主張することをお勧めします。

