遺産分割協議書に納得できない!公平にする方法は?
いきなり送られてきた遺産分割協議書に安易にサインするのはNG
他の兄弟に相続の手続を任せていたら、数か月後、いきなり税理士や司法書士から遺産分割協議書が届くことがあります。
もめないことが一番大事なのであれば、深く考える必要はありません。
そのまま遺産分割協議書にサインをし、送り返せばいいだけです。
しかし、遺産分割は、一度サインしてしまうと、基本、撤回できません。
今後悔するだけでなく、将来後悔する可能性があるのであれば、安易にサインするのはNGです。
そもそも、いきなり送られてくるような遺産分割協議書が本当に平等なものだと思いますか?
送ってきた相続人側に有利なものである可能性の方が遥かに高いです。
一旦落ち着いて検討してみる。
まずはそれが大事です。
遺産分割協議書に反論する3つのポイント
とはいえ、遺産分割協議書をただ眺めてみても、どこがおかしいかよく分からないと思います。
実際、検討すべき点は多数あり、弁護士であれば、多くの点に目配りして遺産分割協議書をチェックします。
しかし、ここだけは注意!という重要ポイントはあります。
それは、
- 不動産の評価額を時価で計算する
- 生前贈与(特別受益)で相続分を修正する
- 寄与分の主張に反論する
の3つです。
たった3つです。
たとえ素人であっても、この3つさえ押さえておけば、納得できる分け方に近づけることができます。
ポイント1:不動産の評価額を時価で計算する
遺産に不動産がある場合、最も重要なのは、
【遺産分割と相続税申告では不動産の評価方法が違う】
ということです。
もう一度言います。
遺産分割と相続税申告では不動産の評価方法が違います。
これが、税理士から送られてきた遺産分割協議書に安易にサインしない方がいい理由です。
そもそもの基準が違うわけですから。
基準が違うのは分かった、じゃあ具体的にどうやって反論するんだ、素人でもできるのか、と言いたくなるのではないかと思います。実は、素人でも意外とカンタンにできる方法があります。
以下、簡単に手順を解説します。
①遺産の分け方を確認する
まずは、遺産分割協議書に書いてある遺産の分け方を確認します。
最も注意しなければならないのは、遺産分割協議書を送ってきた相続人側が不動産をもらい、こちらには代わりにお金を支払う場合です。
これを「代償分割」といいます。
なぜ注意が必要かというと、不動産の評価額が低ければ低いほど、不動産をもらう相続人が有利になるからです。不動産を安く買うようなものですから。
②不動産の評価方法を確認する
つぎに、不動産の評価方法を確認します。
不動産の評価方法は、主に、公示価格、固定資産税評価、相続税評価(路線価)、不動産業者の簡易査定、不動産鑑定の5つがあります。
税理士から送られてきた遺産分割協議書であれば、相続税評価(路線価)の可能性が高いです。
なお、司法書士や行政書士から送られてきた遺産分割協議書であれば、固定資産税評価の可能性が高いです。
いずれも税金を計算するための評価方法であり、遺産分割における不動産の評価方法とは違います。
③不動産の時価を計算する
遺産分割における不動産の評価額は、時価です。
路線価でも固定資産税評価額でもありません。
つまり、税理士、司法書士、行政書士から送られてくる遺産分割協議書は、遺産分割本来の評価額ではない可能性が極めて高いということです。
では、時価をどうやって計算するか?
素人でもできるのか?
そこが問題になります。
しかし、意外とカンタンな方法があります。
たとえば、固定資産税評価額は公示価格の7割、路線価は公示価格の8割を目途に設定されています(市区町村や国税庁のホームページにも記載されています)。
公示価格が時価に近いものと考え、これを逆算すれば、以下のように時価を計算することができます。
- 固定資産税評価額×10/7
- 路線価×10/8
ただし、戸建て住宅を前提にしており、マンションの評価方法として使うことはできません。
マンションの場合、一つの土地の上に多数の住人が細かい敷地権を有していますし、築年数や設備内容等の個別の特性・利用状況などによっても影響を受けます。周辺土地の一般的な利用状況を踏まえて設定される路線価から引き直せるとは限りません。
かつて、タワーマンションによる節税対策がはやりました。タワーマンションの相続税評価額と取引価格との差を利用した節税対策(タワマン節税)です。
このタワマン節税のように、マンションの時価と固定資産税評価額・路線価は、評価額にかなりの差が出る場合もあります。10/7や10/8の算定式では、必ずしも説得力のある説明とはいえません。
マンションの場合、不動産業者の簡易査定書を2~3社から取得し、その平均を時価として考えます。通常、無料で取得できますので、ハードルは低いです。
これらの方法は、小学校レベルの算数で計算できます。
しかも、根拠がありますので、反論としても成り立ちます。
実際はそこまで単純ではなく、絶対のものと考えると危険ですが、素人相手の説得材料としては通用すると思います。

ポイント2:生前贈与(特別受益)で相続分を修正する
相続は法定相続分で分けるとよく言います。
しかし、これは、半分合っていて、半分間違っています。
生前贈与をもらっている相続人と同じく法定相続分で分ければ、逆に不公平になります。
そのため、「特別受益」に当たる生前贈与については、もらった人の相続分を減らすという修正をします。
これを「特別受益の持ち戻し」といいます。
最大の問題は、生前贈与をどうやって見つけるかです。
しかし、痕跡を見つけるだけであれば、意外とカンタンな方法があります。
それは、
【亡くなった人の銀行口座の取引明細書を確認する】
ことです。
取引明細書とは、銀行口座の出入金の履歴のことです。
これを見れば、送金や出金がいついくらなされたのかが分かります。
なお、保管している相続人が渡してくれるのであれば、通帳でも構いません。
相続人の一人に送金があれば、生前贈与の可能性があります。
また、大きなお金の引出しがあれば、これも生前贈与の可能性があります。
取引明細書で判明した送金や出金を「てこ」にして、生前贈与かどうかの調査・確認をするわけです。
税理士から送られてきた遺産分割協議書にも、「残高証明書」は添付されているかもしれません。しかし、残高証明書では、相続時の預金残高がいくらかだったかしか分かりません。生前の送金や出金を確認するためには、取引明細書(または通帳)が必須です。
何も調査しなければ、生前贈与を見つけることができず、法定相続分で分けるしかなくなります。
しかし、取引明細書で生前贈与を見つければ、法定相続分で単純に分けようとする遺産分割協議書に反論ができるようになります。

ポイント3:寄与分の主張に反論する
こちらが法定相続分での分け方を主張した場合、亡くなった人に対する介護などを理由に、多くの遺産を取得しようとする相続人がいます。これを「寄与分」といいます。
もちろん、寄与分の主張自体は、別におかしなことではありません。
問題は、ほとんどの遺産をもらおうとするなど、不合理なレベルになりがちであることです。
寄与分の主張に対する反論のポイントは、
あらゆる貢献が寄与分になるのではなく、「特別な」貢献が必要であること
- 寄与分の計算方法はある程度決まっているため、計算で寄与分の金額を出すこと
の2つです。
一言で言えば、
【なんでもかんでもざっくりと寄与分にするな!】
ということです。
なんとなくで考えると、基準のない世界になりますので、貢献をした人が強い立場になります。
反論するには、法律上の基準が必要です。
ただし、寄与分への反論で、注意点が一つあります。
【たとえ法律上は寄与分にならなかったとしても、法律を振りかざしてやり込めようとすべきではない】
ということです。
たとえば、何らかの貢献をした人と全くしていない人がいて、両方の相続分が同じになるのであれば、感情的に納得できないでしょう。法律で説明しても、そうそう受け入れられないのも無理はありません。
相続では、法律だけでなく、人の感情や良識も頭に置いておくべき時があります。
ですので、自分に有利だからと言って法律を振りかざすのではなく、不合理な主張には冷静に対処するというスタンスの方がいいと思います。
法律を前面に出すのは、裁判になってからでも遅くはありません(状況に応じてではありますが)。

相続の正しい理解が大事
この3つのポイントを知っておくだけでも、納得できない遺産分割協議書に反論できないまま、結局サインしてしまうということを避けられます。しかも、高度な専門知識までは必要ないため、素人でもある程度までは対応できます。
とはいえ、もし遺産分割協議の進め方で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。
一緒に解決策を考えましょう。
あなたが形だけの円満相続で後悔せず、「法の下の相続」を実現することを祈っています。