アパート管理の「タダ働き」は取り戻せる。寄与分として相続分に上乗せする方法
「長年、親のアパートの掃除や集金、クレーム対応を一人でやってきた。それなのに、遺産分割協議になった途端、何もしてこなかったきょうだいから『法定相続分どおりに等分だ』と言われた」
このような理不尽な状況に直面し、納得できない思いを抱えている方は少なくありません。しかし、諦める必要はありません。あなたが費やした時間と労力は、「寄与分」という制度を使うことで、遺産分割の場で取り戻すことが可能です。
今回は、アパート管理の「タダ働き(貢献)」を寄与分として相続分に上乗せする方法を解説します。
「親孝行」と「労働」の境界線。何が取り戻せるのか?
まず知っておくべきは、法的に認められる「寄与分」の基準です。残念ながら、親子やきょうだい間には法的に「扶養義務」や「協力義務」が存在するため、「通常期待される程度の親孝行」は金銭換算されません。
取り戻せるのは、あなたの行為が「特別の寄与」に当たる場合だけです。
「プロの代わり」をした分だけが請求の対象
不動産管理において寄与分が認められる基準は、「あなたがその業務を行わなければ、親は管理会社(第三者)に報酬を払って委託せざるを得なかったかどうか」です。
あなたが無償で働くことで、親は本来支払うべき「管理委託費」を節約でき、その分だけ手元の遺産が減らずに済みました。この「浮いた経費」こそが、あなたが取り戻すべき正当な対価です。
「掃除・草むしり」vs「契約・トラブル対応」
具体的にどの作業が評価されるのか、境界線を見てみましょう。
- 取り戻せない行為(通常の協力範囲)
- 実家に帰ったついでにアパート周辺の雑草をむしった。
- 共用部分の簡単な掃き掃除をした。
- すでに管理会社がいる状態で、単なる連絡係をしていた。
- 取り戻せる可能性が高い行為(財産管理型寄与)
- 賃貸管理の代行:管理会社を使わず、入居者募集、契約更新、家賃集金、滞納督促を自分で行っていた。
- トラブル対応:水漏れや近隣トラブルの際、業者の手配や立ち会い、折衝を自ら完結させていた。
- 立ち退き交渉:建替えや売却に伴う、借家人との困難な立ち退き交渉をまとめ上げた。
- 経費の負担:本来親が払うべき修繕費や固定資産税を、自分の財布から立て替えていた(これは立替金としても請求可能です)。
2. いくら取り戻せる?寄与分計算のシミュレーション
寄与分を主張する際は、「苦労したから〇〇万円」という感情論ではなく、客観的な計算式が必要です。裁判所の実務で使われる計算式で計算してみましょう。
計算式:「管理会社への委託料相場」×「裁量割合」
あなたが取り戻せる金額は、以下の式で算出します。
寄与分額=第三者(管理会社)に委託した場合の報酬額 × 裁量割合
「裁量割合」とは、あなたがプロ(有資格者)ではなく親族であることを考慮して減額するための調整係数です。一般的に0.5〜0.8程度(平均的には0.7前後)が適用されます。プロ並みの完璧な業務体制ではない分、満額請求は難しいのが現実です。
【事例】月収50万のアパートを10年管理した場合
例えば、親が所有するアパート(家賃収入:月額50万円)の管理を、あなたが10年間、無償ですべて行っていたケースです。
(※管理会社への委託料相場を家賃の5%と仮定)
- 本来かかるはずだった委託料:50万円 × 5%=2万5000円/月
- 期間を乗じる:2万5000円 × 12か月 × 10年=300万円
- 裁量割合(例:0.7)を掛ける:300万円 × 0.7=210万円
このケースでは、約210万円を「タダ働き」の対価として、自分の法定相続分に上乗せして請求できる可能性があります。
請求前に確認!「取り戻せない」2つの落とし穴
「タダ働き」を取り戻そうとした結果、かえって不利になるケースがあります。以下の2点に当てはまっていないか確認してください。
①親から「管理費」や「小遣い」を貰っていた
寄与分の大前提は「無償」であることです。
もし親から「管理の手間賃」として毎月数万円を受け取っていた場合、それが市場価格(上記の例なら2.5万円)に近ければ、「対価は支払い済み」とみなされ、それ以上取り戻すことはできません。
著しく低い金額(例:月5000円)だった場合は、差額分を主張できる余地がありますが、ハードルは高くなります。
②管理物件に「タダ」で住んでいた
これが最も注意すべきパターンです。
あなたが管理しているアパートの一室に家賃を払わずに住んでいた(使用貸借)場合、その「家賃が浮いた利益」と「管理の労務」が相殺されると考えられます。
- 管理の貢献額:月2万円相当
- タダで住んでいる家賃相場:月6万円相当
この場合、逆に親から「月4万円の贈与(特別受益)」を受けていたとみなされ、受け取る遺産を減らされるリスクすらあります。
証拠がすべて!「やったこと」を可視化する
「管理をしていた」という事実は、口頭ではなく書面で証明しなければ取り戻せません。以下の資料をかき集めてください。
契約書、修繕履歴、入出金帳簿…
- 賃貸借契約書:あなたが窓口となって作成・更新した契約書(仲介業者とのやり取りのメール等も有効)
- 修繕・工事の記録:業者への発注書、領収書、見積書。あなたが立ち会った日時や内容のメモ
- 入出金管理の記録:家賃の入金確認や督促を行っていたことがわかる通帳の記録や自作の帳簿
- 確定申告書の控え:親の代わりに不動産所得の申告手続きを代行していた場合の資料
まとめ:感情ではなく「数字」で権利を主張しよう
長年の管理業務は、立派な労働です。兄弟に「ズルい」と言わせないためには、「大変だった」という感情論ではなく、「私が管理したことで、外部に払うはずだった〇〇万円の経費が浮いた」という数字で交渉することが重要です。
もし、他の相続人があなたの主張に聞く耳を持たない場合は、今回ご紹介した計算式と証拠資料を揃えて、一度専門家に相談することをお勧めします。あなたの長年の「タダ働き」を、正当な「寄与分」として取り戻せるかもしれません。

