相続から10年経つと遺産分割はどうなりますか?特別受益・寄与分が主張できなくなるって本当ですか?

回答

令和3年(2021年)の民法改正により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割では、特別受益(民法903条・904条)及び寄与分(民法904条の2)の規定が適用されません(民法904条の3)。その結果、原則として法定相続分(または指定相続分)に従って遺産が分割されることになります。この改正は、遺産分割を長期間放置することを防ぎ、遺産共有の早期解消を促す趣旨です。

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期間経過後の遺産分割の意味と趣旨

遺産分割(被相続人が死亡時に有していた財産について、個々の相続財産の権利者を確定させる手続)には、改正前の民法上、期限の定めがありませんでした。そのため、相続が開始しても遺産分割がされないまま長期間が経過し、不動産が被相続人名義のまま放置されるケースが多く生じていました。

こうした状況は、所有者不明土地(不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、または所有者が判明しても連絡がつかない土地)の発生原因の一つとされていました。そこで、令和3年の民法改正では、相続登記の申請を義務づけるとともに、遺産分割を促進するための仕組みとして、相続開始の時から10年を経過した後の遺産分割について、特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)と寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)の主張を制限する規定が設けられました(民法904条の3)。

つまり、10年を経過する前であれば、生前贈与を受けた相続人の取り分を調整したり(特別受益の持ち戻し)、介護等の貢献をした相続人に上乗せ分を認めたり(寄与分)することで具体的相続分を算出できますが、10年を経過した後にはこれらの主張ができなくなり、法定相続分(または遺言による指定相続分)のみに基づいて遺産を分割することになります。

たとえば、被相続人Aの相続人が子B・Cの2名で、遺産が預貯金3,000万円、BがAから生前に1,000万円の贈与を受けていた場合を考えます。10年以内に遺産分割をすれば、特別受益の持ち戻しにより、Bの具体的相続分は1,000万円、Cの具体的相続分は2,000万円と計算されます。しかし、10年を経過した後に遺産分割をする場合には、特別受益の規定が適用されないため、B・Cがそれぞれ法定相続分の2分の1ずつ、すなわち各1,500万円を取得することになります。

期間経過後の遺産分割の要件

10年の期間の起算点

民法904条の3の適用により特別受益・寄与分の主張が制限されるのは、「相続開始の時から10年を経過した後」にする遺産分割です。ここでいう「相続開始の時」とは、被相続人が死亡した時点を指します。

例外(10年経過後でも主張が認められる場合)

ただし、次のいずれかに該当するときは、10年を経過した後であっても特別受益・寄与分の主張が認められます(民法904条の3各号)。

  • 相続開始の時から10年を経過する時または改正法の施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時までに、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき(同条1号)
  • 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき(同条2号)

1号は、期限内に家庭裁判所への申立てを行っていれば、分割の審理が10年を超えても特別受益・寄与分の主張が可能であることを意味します。2号は、災害や長期の病気など、やむを得ない事情で申立てができなかった場合の救済規定です。

施行日前に開始した相続への適用

この規定は、改正法の施行日前に相続が開始した遺産の分割についても適用されます(附則3条)。ただし、経過措置として、相続開始の時から10年の期間の満了後に改正法施行の時から5年を経過する時が到来する場合には、施行の時から5年を経過する時まで猶予期間が設けられています。

期間経過後の遺産分割の効果

法定相続分による分割

10年を経過した後の遺産分割では、特別受益及び寄与分の規定が適用されないため、遺言による指定がない限り、法定相続分に従って遺産が分割されます。各相続人の具体的相続分は算出されず、法定相続分がそのまま基準となります。

調停・審判の取下げの制限

令和3年の改正により、遺産分割調停の申立ての取下げは、相続開始後10年を経過した後においては、相手方の同意を得なければその効力は生じないとされました(家事事件手続法273条2項〔新設〕)。遺産分割審判の申立ての取下げについても同様の制限が設けられています(同法199条2項〔新設〕)。これは、他の相続人が取下げのあったことを知らないまま取下げの効力が生じ、法定相続分による遺産分割を求める期間を失うことを防ぐ趣旨です。

遺産の分割禁止の期間制限

共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について分割をしない旨の契約をすることができます(民法908条2項)。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を経過する時(または改正法施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時)を超えることができません(同条同項ただし書)。家庭裁判所による分割禁止の審判についても、同様の上限が定められています(同条4項・5項)。

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