共有物分割の裁判で命じられる競売は「形式的競売」と呼ばれます(民法258条3項)。借金を回収するための通常の競売(担保権の実行・強制執行)とは違い、共有不動産をお金に換えて共有者で分けることだけを目的とする競売です。手続の進め方は担保権実行としての競売に準じますが(民事執行法195条)、目的が違うために取扱いが異なる場面があります。
形式的競売・通常の競売・任意売却の意味
形式的競売(けいしきてききょうばい)とは、共有物分割のために行われる競売です。共有物分割の訴訟で、現物分割(不動産を物理的に分ける方法)も賠償分割(共有者の1人がお金を払って全体を取得する方法)もできないとき、またはこれらの方法では不動産の価格を著しく減少させるおそれがあるとき、裁判所は競売による分割を命じることができます(民法258条3項)。この判決に基づいて行われるのが形式的競売で、売却代金は持分の割合に応じて共有者に分配されます。
これに対して、一般に「競売」としてイメージされるのは、債権者が貸したお金を回収するための競売です。抵当権などの担保権を実行する競売と、判決などの債務名義に基づく強制執行としての競売があり、いずれも債権回収を目的とします。以下では、この2つをまとめて「通常の競売」と呼びます。
任意売却(共同売却)は、裁判所の競売によらず、共有者全員が協力して、不動産仲介業者をとおして市場の買主に売却する方法です。共有者全員が同時に持分を売却することから、共同売却とも呼ばれます。
形式的競売と通常の競売の違い
形式的競売の手続は、「担保権の実行としての競売の例による」とされています(民事執行法195条)。裁判所への申立て、差押え、入札、売却という手続の流れ自体は、通常の競売とほぼ共通です。違いは、競売の目的が異なることから生じます。
| 比較項目 | 形式的競売 | 通常の競売(担保権実行・強制執行) |
|---|---|---|
| 目的 | 共有不動産をお金に換えて分配する | 債権(借金)の回収 |
| 根拠 | 民法258条3項の判決等+民事執行法195条 | 担保権(民事執行法180条以下)または債務名義(同法22条) |
| 申立てをする人 | 各共有者 | 債権者 |
| 売却代金の行き先 | 持分割合に応じて共有者に交付 | 債権者への配当 |
| 当事者本人の入札 | 共有者の入札は禁止されない | 債務者の入札は禁止(民事執行法68条) |
いちばん大きな違いは、売却代金の行き先です。通常の競売では代金は債権者への配当に充てられますが、形式的競売では、持分の割合に応じて共有者に交付されます。
入札の場面でも取扱いが分かれます。通常の競売では、債務者は本来弁済すべき立場にあるため、自ら物件を買い受けられません(民事執行法68条)。形式的競売は債権回収を目的としないため、このような制限はなく、共有者自身が入札して不動産全体を取得することもできます。共有者による入札の可否や、落札した場合の代金納付については、「共有不動産が競売にかけられたとき、共有者自身が入札して買い取ることはできますか?」で詳しく解説しています。
また、形式的競売で土地と建物の所有者が別々になった場合に、建物のための法定地上権(建物を存続させるために法律上成立する土地利用権)が成立するかどうかは、見解が分かれています。この論点は、「競売で土地と建物の持ち主が別々になった場合、建物はそのまま使えますか?」で詳しく解説しています。
形式的競売と任意売却(共同売却)の違い
同じ「換価分割の実行」でも、形式的競売と任意売却では、売却の条件と手続の確実性が大きく違います。
| 比較項目 | 形式的競売 | 任意売却(共同売却) |
|---|---|---|
| 手続を進める主体 | 裁判所 | 共有者全員(仲介業者を利用) |
| 共有者の協力 | 不要(判決等に基づき進行) | 全員の協力が必要 |
| 売却金額 | 市場価格より低くなる傾向(競売減価は30%程度が一般的) | 市場価格に近い金額を期待できる |
| 手続の確実性 | 高い(共有者の反対では止められない) | 売却条件の対立で停滞するおそれがある |
| 主な費用 | 競売の申立費用・予納金など | 仲介手数料など |
任意売却は、一般の市場で買主を探すため、高い金額での売却を期待できます。その反面、売却金額の設定や代金の分け方について共有者の意見が対立すると、売却がいつまでも実現しないおそれがあります。
形式的競売は、裁判所の手続として行われるため、共有者の誰かが反対しても止まらず、売却まで進みます。競売手続の妨害には刑事罰も定められています(刑法96条の2〜96条の4)。他方で、入札者が得られる物件情報が限られることなどから、入札金額は低くなりがちです。不動産鑑定評価基準における競売減価(競売市場修正)は30%程度が一般的とされています。
なお、東京高裁は、競売減価を40%とすることを前提になされた最低売却価額の決定を適法と判断しています(東京高決平成9年7月11日)。
どちらを選ぶべきか(判断基準)
売却条件の点では任意売却のほうが大幅に有利なため、売却の方針が共有者間で一致している場合には、任意売却を選ぶのが一般的です。
これに対して、売却条件をめぐる対立が激しく、話し合いでは売却が進みそうにない場合には、確実に売却が実現することを優先して、形式的競売を選ぶ判断もあります。
両者を組み合わせる方法もあります。共有物分割訴訟の和解で、一定の期限までは任意売却を試み、期限までに売却できなかったときは各共有者が単独で形式的競売を申し立てられる、という内容の合意をしておく方法です。任意売却の高値と競売の確実性の両方を取り込めます。

