全面的価格賠償(代償分割)で支払う賠償金(代償金)は、共有不動産全体の時価を適正に評価したうえで、持分を失う共有者の共有持分割合を乗じて算定するのが基本です(民法258条2項2号)。評価額について当事者の意見が一致しない場合は、裁判所が選任した不動産鑑定士の鑑定によって定めるのが原則です。
賠償金(代償金)の意味と算定の基本
全面的価格賠償とは、共有者の1人が共有不動産の全体を取得し、他の共有者にその持分の価格を金銭で支払う分割方法です。裁判による共有物分割の一類型として、民法258条2項2号に定められています。このとき支払われる金銭を「賠償金」といい、遺産分割の場面の呼び方にならって「代償金」と呼ぶこともあります。
賠償金の額が問題になるのは、この分割方法が共有者間の公平を金銭で調整する仕組みだからです。不動産の全体を取得する共有者(現物取得者)は完全な所有権を手に入れる一方、持分を失う共有者(対価取得者)が受け取るのは金銭だけです。金額が適正でなければ、対価取得者だけが不利益を受けます。判例も、価格が適正に評価されることを全面的価格賠償が認められるための条件の一つとしています。
算定の基本となる計算式は、次のとおりです。
賠償金 = 共有不動産全体の適正な評価額(時価) × 対価取得者の共有持分割合
たとえば、時価6,000万円の土地をAとBが2分の1ずつ共有していて、Aが全体を取得する場合、AがBに支払う賠償金は次のように計算します。
6,000万円 × 1/2 = 3,000万円
共有者が3人以上いるときは、現物取得者が、他の共有者それぞれに対して持分割合に応じた金額を支払います。
評価の基準——共有減価・競売減価は適用しない
計算の出発点となる「適正な評価額」とは、不動産の取引価格(実勢価格・時価)を指します。相続税を計算するための路線価や固定資産税評価額ではなく、市場で実際に取引される価格が基準になります。
この評価にあたって、共有持分の売買で通常考慮される二つの減価は、原則として適用されません。
| 減価の種類 | 内容 | 賠償金算定での取扱い |
|---|---|---|
| 共有減価 | 共有持分は単独所有に比べて利用・処分の自由が制約されるため、持分割合どおりの価格より低く評価されること | 適用しない |
| 競売減価 | 競売による売却では、事前に内部を確認できないなどの制約から、売却金額が市場価格より低くなること | 適用しない |
共有減価を適用しないのは、全面的価格賠償では現物取得者が最終的に100%の所有権を取得するからです。経済的にみれば共有持分の売買と似た取引ですが、買い取った後も共有が続くわけではないので、共有であることによる価値の低下を織り込む理由がありません。競売減価についても、全面的価格賠償は競売による売却とは別の分割方法なので、適用を否定する見解が一般的です。
なお、以上は裁判所が賠償金を定める場合の基準です。共有者全員が協議で合意する場合には金額を自由に決められるため、時価に持分割合を乗じた金額より低い賠償金で合意するケースもあります。
評価額を定める手続
実際の共有物分割事件では、不動産の評価額をめぐって当事者の意見が対立することが少なくありません。評価額は、おおむね次の流れで定まります。
- 当事者の協議:各共有者がそれぞれ評価額を主張します。主張の裏づけとして、不動産鑑定士に依頼して作成した私的鑑定書を提示することもあります。当事者間で評価額の見解が一致すれば、原則としてその金額が基準になります。
- 鑑定人による評価:評価額について合意ができない場合、共有物分割訴訟では、裁判所が当事者と利害関係のない中立の不動産鑑定士を鑑定人に選任し、正式な鑑定を実施します。私的鑑定書は依頼者側の立場で作成されるため、完全に中立の評価とは扱われないからです。
- 裁判所による判断:裁判所は、当事者が合意した評価額または鑑定書をもとに評価額を定めます。裁判所は鑑定書の金額に拘束されず、異なる金額を認定することもできますが、実際には鑑定書とほぼ同一の金額が採用される場合がほとんどです。
なお、最高裁は、共有物を取得する者の支払能力など一定の条件を満たす特段の事情があるときは、全面的価格賠償による分割も許されると判断しています(最判平成8年10月31日)。この判例が示した分割方法は、令和3年民法改正で258条2項2号に明文化されました。

