被相続人の不動産が生前に贈与・売買されたかどうかはどのように調査したらいいですか?

回答

被相続人が生前に不動産を贈与・売買していたかどうかは、まず登記事項証明書(全部事項証明書)を取得し、甲区(所有権に関する事項)の移転履歴を確認して調査します。確認すべき主要項目は、(1)移転原因(売買・贈与・相続・財産分与等)、(2)移転時期、(3)順位番号と受付年月日、(4)移転先の人物(共同相続人か第三者か)、(5)移転に伴う対価の有無、(6)共同担保目録による関連不動産の有無の6点です。これらは民法903条1項の特別受益、民法1044条1項・3項の遺留分算定の基礎財産への算入可否を検討するための前提資料となります。

目次

調査・手続の概要

生前贈与・売買等により被相続人の所有でなくなった不動産は、相続開始時点の登記名義人が被相続人ではないため、固定資産税納税通知書や名寄帳では把握できません。しかし、過去に被相続人が所有していた不動産が生前に贈与・売却されている場合、その移転の経緯は登記事項証明書の甲区欄に時系列で残っているため、登記情報を中心に調査することになります。

不動産登記法上、権利に関する登記の登記事項として登記原因及びその日付が記録され(不動産登記法59条3号)、所有権の移転は順位番号を付して時系列で登記記録に残ります。したがって、過去に被相続人が所有していた不動産については、現在の登記名義人や物件特定さえできれば、登記事項証明書を取得することで、移転の経過と原因を遡って確認できます。

この調査が相続実務において重要なのは、生前の名義変更が次の点に直結するためです。

  • 共同相続人への生前贈与は、原則として、特別受益として遺産分割において持戻しの対象となる(民法903条1項)
  • 生前贈与は一定の範囲で遺留分算定の基礎財産に算入される(民法1044条1項・3項)
  • 第三者への贈与・売買であっても、対価の有無や時期によって遺留分算定の基礎財産に含まれる場合がある(民法1044条1項後段)

申請主体・申請先・必要書類

申請主体

登記事項証明書は、誰でも取得できます(不動産登記法119条1項)。被相続人との関係を証明する必要はありません。

これに対し、登記簿の附属書類(登記申請書・登記原因証明情報等)の閲覧については、令和5年4月1日施行の不動産登記法改正により、申請人以外の第三者が閲覧を請求する場合には、「正当な理由」があると認められる部分に限り閲覧できることとされています(不動産登記法121条3項)。相続調査のために被相続人名義であった不動産の登記申請書類の閲覧を求める場合、相続人としての立場は通常「正当な理由」を構成しうると考えられますが、訴状案・陳述書等の準備が必要となるケースもあります。詳細は閲覧請求先の法務局にご確認ください。

申請先・取得方法

取得対象取得先取得方法
登記事項証明書(全部事項証明書)法務局(全国どこでも可)窓口・郵送・オンライン
登記情報(オンライン閲覧)登記情報提供サービスインターネット
登記簿の附属書類の閲覧(登記原因証明情報等)物件所在地を管轄する法務局窓口
旧土地台帳・閉鎖登記簿物件所在地を管轄する法務局窓口・郵送

必要書類

書類内容・取得先
登記事項証明書交付申請書法務局の窓口またはホームページからダウンロード
不動産の所在・地番・家屋番号旧納税通知書・過去の権利証・登記済証等から特定
申請者の本人確認書類運転免許証・マイナンバーカード等(窓口の場合)
手数料登記事項証明書:書面請求600円、オンライン請求・送付520円、オンライン請求・窓口受取490円(1通あたり)、登記情報提供サービス:全部事項330円(1件あたり)
「正当な理由」を証明する書類(登記簿附属書類の閲覧時)訴状案・当事者の陳述書等。相続人の場合、被相続人との関係を示す戸籍謄本等もあわせて準備

被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式または法定相続情報一覧図があれば、登記簿附属書類の閲覧請求時の準備としても活用できます。

調査の流れ

ステップ1:対象不動産の特定

過去に被相続人が所有していた不動産の所在・地番を把握する必要があります。手がかりは次のとおりです。

  • 過去の固定資産税納税通知書(売却前のもの)
  • 自宅に残る権利証・登記済証・登記識別情報通知
  • 過去の確定申告書(控)記載の不動産所得・譲渡所得関係
  • 預金履歴に残る不動産関連の入出金(売買代金・賃料等)
  • 相続人の記憶・親族からの聞き取り

特に過去の権利証や登記済証は、対象不動産の所在・地番・家屋番号を確実に特定できる手がかりとなります。

ステップ2:現在の登記事項証明書の取得

特定した不動産について、現在の登記事項証明書(全部事項証明書)を取得します。オンラインでの取得が最も効率的で、登記・供託オンライン申請システムまたは登記情報提供サービスを利用します。

ステップ3:閉鎖登記簿の確認(必要に応じて)

合筆・分筆・滅失等により現在の登記事項証明書では履歴を遡れない場合は、閉鎖登記簿の謄本を取得します。閉鎖登記簿は、新登記簿に移記されなかった過去の登記情報を確認する重要な資料です。データ化された後の閉鎖登記記録(閉鎖事項証明書)は、全国の法務局の窓口・郵送・オンラインで取得できます。一方、データ化される前の紙の閉鎖登記簿の謄本は、登記記録が閉鎖された当時の管轄法務局でのみ取得でき、窓口請求または郵送請求によります(オンライン請求や管轄外の法務局での取得はできません)。

ステップ4:登記簿附属書類の閲覧

移転原因の詳細を確認するため、物件所在地を管轄する法務局で登記簿の附属書類(登記申請書、登記原因証明情報、登記委任状等)の閲覧を請求します。前述のとおり、申請人以外の第三者が閲覧を請求する場合には「正当な理由」が必要です(不動産登記法121条3項)。相続調査のための閲覧請求では、相続人の立場を示す戸籍謄本等のほか、法務局の運用によっては訴状案・陳述書等を求められることがあります。

ただし、現在の登記実務では、登記原因証明情報として、売買契約書・贈与契約書そのものではなく、登記の原因となった事実・法律行為の要点をまとめた「報告形式」の書面(司法書士等が作成するもの)が提出されているケースが大半です。したがって、附属書類を閲覧しても契約書の写しが綴られているとは限らず、移転原因・当事者・日付の要点のみが確認できることが多い点に留意してください。

ステップ5:関連資料の収集

登記情報だけでは把握できない事実(対価の実際の授受、贈与の趣旨、当事者の認識等)を補うため、収集ルートごとに資料を探索します。「税務署に行けば登記簿のように何でも取れる」というわけではなく、ルートによって入手できる資料が大きく異なる点に注意が必要です。

(1) 遺品・相続人の手元からの探索

被相続人の自宅に残された資料を捜索します。売買契約書・贈与契約書の原本、確定申告書の控え、領収書、不動産取得時の権利証等が、移転の経緯を直接示す資料となります。

(2) 被相続人本人の申告書の確認(税務署)

被相続人が不動産を売却した場合の譲渡所得の確定申告書など、被相続人本人が提出した申告書は、相続人が税務署の「申告書等閲覧サービス」で閲覧できます。閲覧は税務署の窓口で行い、令和元年9月以降は閲覧時にスマートフォン等での写真撮影による記録が認められています。ただし、被相続人が提出した申告書をこのサービスで閲覧する場合、相続人全員の関与(全員の来署、または来署しない相続人全員の委任状・印鑑証明書)が必要とされています(国税庁「申告書等閲覧サービスの実施について(事務運営指針)」)。そのため、他の相続人の協力が得られない場合には、この閲覧ルートが利用できないことがあります。その場合は、後述(3)の金融機関の取引履歴照会が調査の中心となります。

注意が必要なのは、被相続人が不動産を贈与した場合の贈与税申告です。贈与税を申告するのは贈与を受けた相手方(受贈者)であり、その贈与税申告書は第三者の申告にあたります。税務署は守秘義務を負うため、相手方が提出した贈与税申告書は、相続人であっても税務署から取得することはできません。

(3) 金融機関の取引履歴の照会

対価の授受の有無(あるいは無償性)を確認するうえで現実的かつ確実なのは、被相続人名義口座の取引履歴です。相続人は、被相続人名義の口座について、取引金融機関に取引履歴の照会を求めることができます。まとまった資金移動の有無から、売買代金の授受や、対価を伴わない移転(贈与)の事実を追跡します。

所要期間と費用

  • オンラインでの登記事項証明書取得:即日〜数日
  • 登記簿附属書類の閲覧予約・閲覧実施:1〜2週間程度
  • 閉鎖登記簿の取得:窓口で即日〜郵送で1週間程度
  • 1物件あたりの調査費用は、1,000〜2,000円程度程度が目安

取得した登記情報で確認すべき項目

甲区の所有権移転履歴

「甲区」とは登記事項証明書のうち所有権に関する事項を記録した区分で、所有権の移転がすべて時系列で記録されています。古いものから順に「順位番号」が振られ、それぞれの登記には受付年月日・原因・権利者が記載されます。

読み方のポイント

現在の名義人が被相続人でない場合、甲区を遡って被相続人名義であった時期を特定し、そこから次の名義人への移転がどのような経緯でなされたかを確認します。順位番号を追うことで、所有権の流れを途切れなく把握できます。

登記原因

各登記には「原因」欄があり、「○年○月○日売買」「○年○月○日贈与」等と記載されます。

移転原因相続調査上の留意点
売買代金の授受が実際にあったかを別途確認(仮装売買の可能性)
贈与共同相続人への贈与は特別受益の検討対象、第三者への贈与は遺留分算定への影響を検討
財産分与離婚に伴う財産分与であれば、原則として無償処分ではないが、過大な分与には別途検討の余地
読み方のポイント

「売買」と記載されていても、対価が実質的に支払われていない場合は、税務上・民事上は贈与として扱われることがあります。登記原因の記載だけで判断せず、項目4(対価の有無)と併せて確認します。

移転時期(原因日付と登記日付)

「原因」欄の日付(原因日付)と「受付年月日」(登記日付)はそれぞれ意味が異なります。原因日付は契約等の効力発生日、受付年月日は法務局への登記申請日です。両者の間に時間的隔たりがある場合があります。

読み方のポイント

遺留分算定の基礎財産への算入可否(民法1044条)は、第三者への贈与は原則として相続開始前1年以内のものが対象となり(同条1項)、共同相続人への贈与は「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」に限り、原則として相続開始前10年以内のものが対象となります(同条3項)。移転時期は、後の遺留分・特別受益の検討において重要な事実となるため、原因日付を必ず控えておきます。

移転に伴う対価の有無

登記簿には対価の有無や金額は記載されません。対価が実際に授受されたかは、被相続人の通帳の入出金記録、売買契約書、領収書、確定申告書(譲渡所得)等から別途確認する必要があります

読み方のポイント

売買原因の移転であっても、(a)時価よりも著しく低い対価しか支払われていない場合、(b)代金が支払われた形跡のない場合、(c)代金が支払われた直後に同額が買主側から被相続人へ戻されているような場合等は、実質的に贈与として扱われる可能性があります。これは民事上の特別受益・遺留分の検討と、税務上のみなし贈与(著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に課税される贈与税。相続税法7条)の双方に関係します。

移転先の人物関係(共同相続人か第三者か)

移転先の登記名義人が誰であるかは、後の検討の方向性を決める重要な情報です。

移転先後の検討で問題になりうる事項
共同相続人(配偶者・子等)特別受益(民法903条1項)・遺留分(民法1044条3項)の検討
受遺者・第三者相続開始前1年以内の贈与の遺留分算入(民法1044条1項)
同族会社(被相続人が支配)法人格を介した実質的贈与の可能性
配偶者婚姻期間20年以上の居住用不動産の贈与等(民法903条4項の持戻し免除推定)の検討
読み方のポイント

移転先の登記名義人と被相続人との関係(続柄・親族関係・支配関係)を整理しておきます。共同相続人への移転であれば特別受益の検討、第三者への移転であれば遺留分算定の基礎財産への算入可否の検討につながります。

共同担保目録による関連不動産の発見

抵当権等の担保権が設定されている場合、登記事項証明書の末尾に「共同担保目録」が添付されています。共同担保目録には、同一の被担保債権を担保するために設定された他の不動産が一覧表示されているため、ここから被相続人が過去に所有していた別の不動産の存在を発見できることがあります。

読み方のポイント

目録に記載された他の不動産についても、現在の登記事項証明書を取得し、被相続人名義から外れているかを確認します。これは芋づる式に過去の名義変更を発見する有効な手がかりです。

乙区の権利関係

「乙区」は所有権以外の権利(抵当権・賃借権・地役権等)を記録する区分です。生前の名義変更との関係では、抵当権の設定・抹消の経過から、不動産取得時の資金の出所(融資の有無)を推測することがあります。

読み方のポイント

移転先名義人が抵当権を設定して融資を受けた形跡があれば、自己資金で取得した可能性が高まり、設定がない場合は被相続人からの資金援助・贈与の可能性も検討の対象となります。

旧土地台帳・閉鎖登記簿の記載

合筆・分筆・滅失等で現在の登記事項証明書では履歴が遡れない場合、閉鎖登記簿・旧土地台帳を確認します。

読み方のポイント

戦前・昭和初期からの履歴を遡る場合、旧土地台帳には現在の登記簿と異なる形式で記載されているため、注意して読み取ります。

参考リンク

機関案内ページ
法務省(登記手数料について)登記手数料について(法務省)
登記・供託オンライン申請システム登記・供託オンライン申請システム
登記情報提供サービス登記情報提供サービス(一般財団法人 民事法務協会)
法務局(登記簿附属書類の閲覧請求手続)登記簿の附属書類の閲覧請求の手続(法務局)

オンラインで登記事項証明書を取得する場合、登記・供託オンライン申請システムからの請求が手数料も安く、最も効率的です。調査のみを目的とするなら、登記情報提供サービスでも代用できます(認証印・公印が付かない点に注意)。

相続トラブルに備えたアドバイス

特別受益の証拠を早期に固める

共同相続人への生前贈与のうち、「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」は、民法903条1項により遺産分割の場で持戻しの対象となる特別受益として扱われ、遺産の前渡しとして相続分の算定に反映されます。調査の段階では、移転原因が「贈与」「売買」「財産分与」のいずれであるか、相手方が共同相続人か否かを正確に把握し、後の主張・反論の準備につなげることをお勧めします。

遺留分算定の基礎財産への算入を意識する

相続開始前1年以内に第三者にされた贈与は、遺留分算定の基礎財産に算入されます(民法1044条1項前段)。共同相続人に対する贈与は、「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」に限り、原則として相続開始前10年以内のものが算入対象となります(同条3項)。生前の名義変更の時期を正確に控えておくことで、後の遺留分侵害額請求の検討時に算入可否を即座に判定できます。

ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合は、期間制限なく算入されます(民法1044条1項後段)。この点は調査の段階で立ち入って判断する事項ではなく、調査で押さえるのは「時期」と「当事者関係」までで十分です。

登記原因の文言だけで判断しない

親族間の場合、登記簿に「売買」と記載されていても、実質的には贈与であるケースは実務上珍しくありません。登記原因の文言と実際の対価の授受の有無は別物として、必ず通帳の入出金記録・契約書・確定申告書等で裏付けを取ることが望まれます。実質的に贈与であれば、特別受益・遺留分の検討対象となりえます。

配偶者居住用不動産の持戻し免除の推定を意識する

婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住の用に供する建物・敷地を遺贈・贈与した場合、民法903条4項により持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。配偶者への居住用不動産の移転を発見した場合、(a)婚姻期間、(b)居住の用に供されていたかどうか、(c)贈与・遺贈の別を整理しておくと、後の遺産分割で論点化した際にスムーズに対応できます。

共同担保目録で芋づる式に不動産の調査をする

共同担保目録に記載された他の不動産は、被相続人が過去に保有していた・現在も保有している不動産の有力な手がかりです。目録に挙がった物件すべてについて現在の登記事項証明書を取得し、被相続人名義から外れている物件が他にないかを横断的に確認することをお勧めします。1つの登記事項証明書から、未把握の物件が複数発見されることもあります。

認知能力低下時期の名義変更には特に注意

被相続人の晩年(判断能力の低下が疑われる時期)に名義変更がなされている場合、変更行為そのものの有効性(意思能力の有無)が後で論点化することがあります。変更時期と当時の被相続人の状況(医療記録・介護記録・認知症診断の有無等)を併せて整理しておくことが望まれます。意思能力を欠く状態でなされた贈与・売買は無効となる可能性があり、登記の抹消請求・所有権移転登記請求等の場面につながります。

関連資料との突き合わせを必ず行う

登記情報だけでは判明しない事実(対価の実際の授受、贈与の趣旨、当事者の認識等)は、関連資料(通帳の入出金、贈与税申告書、譲渡所得申告書、当時の契約書原本等)と突き合わせて補完します。取得した登記履歴は、それ単体ではなく、預貯金の取引履歴と組み合わせて読み解くことが、生前贈与の全容を把握する近道となります。

関連書類は早期取得が望ましい

登記事項証明書は時効による消滅はなく、いつでも取得できますが、関連書類は保管期間に制限があるものが多いため、登記履歴から名義変更の事実を把握したら、関連資料の収集を早期に進めることが望まれます。特に金融機関の取引履歴は保管期間を経過すると取得が困難になるため、古い贈与・売買の裏付けを取りたい場合には時間との勝負になります。

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