借地権の調査はどのようにしたらいいですか?

回答

借地権(他人の土地を借りて建物を所有していた権利)の有無は、(1)被相続人名義の建物登記簿の確認、(2)その敷地の土地登記簿による所有者の確認、(3)預金通帳での地代支払履歴の確認、(4)賃貸借契約書の捜索という順序で進めます。借地権は「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義されており(借地借家法2条1号)、借地上の建物について被相続人名義で登記がされていれば、借地権そのものの登記がなくても第三者対抗要件を備えます(借地借家法10条1項)。契約書が見当たらない場合でも、建物登記と地代支払の事実から借地権の存在を推認できる点が、借地権調査の重要なポイントです。

目次

調査・手続の概要

借地権とは、他人の土地を借りて、その土地の上に自分名義の建物を所有する権利のことをいい、借地借家法2条1号に「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義されています。実務上は土地賃借権としての借地権が圧倒的多数であり、本記事も賃借権としての借地権を念頭に解説します。

借地権は財産的価値を有する遺産です。建物の所有を目的とする借地権の価額は、その土地が更地として持つ価額(自用地価額)に借地権割合を乗じて評価されるのが基本であり(財産評価基本通達27)、相続財産の中でも高額になりやすい財産類型です。借地権割合は、国税庁が地域ごとに30%から90%の範囲(10%刻み)で定めており、路線価図・評価倍率表で確認できます。底地(借地権が設定された土地の所有権)は地主のものですが、借地権は借主側の財産として相続の対象となります。

なお、建物の所有を目的としない土地賃借権(資材置場・駐車場用地等の雑種地に係る賃借権)は、借地借家法上の借地権には当たらず、評価方法も借地権割合方式ではなく財産評価基本通達87(賃借権の評価)によります。両者は契約の目的によって区別されます。

借地権調査の難しさは、借地権がそれ自体としては登記されていないことが多い点にあります。土地登記簿には借地権の設定登記が記載されていることはむしろ稀で、被相続人名義の建物が第三者名義の土地上に建っているという事実関係から借地権の存在を推認していくのが実務の通例となります。これは、借地借家法10条1項により、借地上の建物について借地権者が自己名義の登記をしていれば、借地権の登記がなくても第三者に対抗できる(借地権の登記をする実益が乏しい)という法構造に由来します。

申請主体・申請先・必要書類

借地権の有無を調査するために必要となる主な書類と取得先は次のとおりです。借地権は複数の書類を組み合わせて推認していく財産類型のため、一つの書類で完結する調査ではない点に留意してください。

書類取得先確認できる事項
建物の登記事項証明書管轄の法務局(全国どこでも取得可)被相続人名義の建物の存在、所在地、構造、床面積
土地の登記事項証明書管轄の法務局(全国どこでも取得可)土地の所有者(=地主)、地上権・賃借権の登記の有無
賃貸借契約書(土地賃貸借契約書)被相続人の自宅(重要書類保管場所)/見つからない場合は地主へ問合せ契約当事者・期間・地代・権利金・借地権の種類・特約
被相続人の預金通帳・取引履歴各金融機関への直接照会地代の定期支払い、権利金・更新料の入出金
名寄帳借地の所在する市区町村役場被相続人名義の建物が記載される(借地そのものは地主名義のため非記載)
固定資産税納税通知書(建物分)被相続人の自宅(郵便物)借地上建物への固定資産税の課税状況

なお、不動産登記情報・登記事項証明書は、オンラインでも取得できます。

申請の流れ

借地権の調査は、被相続人名義の建物を起点に、土地の所有関係をたどっていく流れで進めるのが効率的です。

ステップ1:被相続人名義の建物の特定

まず、被相続人名義の建物がどこに存在するかを把握します。被相続人の自宅・別宅・店舗・倉庫等、把握している不動産の所在地を起点に、建物の登記事項証明書を取得します。

ステップ2:建物の敷地となる土地の所有者確認

建物の登記事項証明書から所在地番を読み取り、その土地の登記事項証明書を取得します。土地の所有者が被相続人本人であれば自己所有地上の建物なので借地権の問題は生じませんが、所有者が別人(地主)であれば借地権の存在が強く推認されます。

ステップ3:土地登記簿の権利関係の確認

土地の登記事項証明書の乙区(所有権以外の権利)を確認し、賃借権の登記がされているかをチェックします。登記があれば借地権の存在は明確です。賃借権登記がない場合でも、ステップ4・5で借地権の存在を推認していきます。

ステップ4:賃貸借契約書の捜索

被相続人の自宅の重要書類保管場所(金庫・タンス・引き出し)、貸金庫等を確認します。契約書が見当たらない場合は、土地の登記事項証明書から判明した地主に対し、契約書のコピーの交付を依頼します。長年の取引関係から契約書自体が存在しない・紛失しているケースも珍しくありません。

ステップ5:預金通帳での地代支払履歴の確認

被相続人の預金通帳または金融機関への照会で取得した取引履歴を確認し、毎月または毎年、同じ振込先に対して定額の地代が支払われているかを確認します。地代の支払い実績は、借地権の存在を裏付ける最も信頼性の高い証拠の一つです。

所要期間と費用

  • 登記事項証明書:書面請求1通600円、オンライン請求は郵送受取520円・窓口受取490円(令和7年4月1日現在 ※手数料は改定されることがあるため最新情報を要確認)、即日〜数日
  • 名寄帳:1件200〜300円程度、即日〜1週間
  • 取引履歴:1機関あたり数千円〜1万円程度、2〜3週間

借地権の調査は複数の書類を組み合わせる作業のため、書類の取得自体は容易でも、整理・読み解きに一定の時間を要します。

取得した書類で確認すべき項目

借地権調査では、複数の書類から得られた情報を突き合わせて、借地権の存在と内容を立体的に把握していきます。確認すべき主要項目を順に解説します。

建物登記簿の名義と所在

建物の登記事項証明書の表題部・甲区から、被相続人名義の建物であること、所在地番、構造、床面積を確認します。

読み方のポイント

建物の所在地番と、別途取得した土地の所在地番を必ず突き合わせてください。建物の所在地番欄には敷地となる土地の地番が記載されているため、これによって借地権の対象となる土地を特定できます。複数筆の土地にまたがって建物が建っている場合は、それぞれの土地について借地権の存否を確認する必要があります。

あわせて、建物登記の所有者名義が被相続人(借地権者)本人と一致しているかを必ず確認してください。借地上の建物の登記による借地権の対抗力(借地借家法10条1項)は、建物が借地権者自身の名義で登記されている場合に認められるものです。建物が配偶者や子など借地権者以外の名義で登記されている場合は、借地権を第三者(底地を新たに取得した者など)に対抗できないリスクがあります。最高裁は、土地賃借人が自己と同居する未成年の長男名義で保存登記をした建物を所有していても、その土地の所有権を取得した第三者に対し賃借権を対抗できないと判断しています(最大判昭和41年4月27日。妻名義につき最判昭和47年6月22日も同旨)。名義のズレが判明した場合は、この点を念頭に置いて調査を進める必要があります。

土地登記簿の所有者と権利関係

土地の登記事項証明書の甲区(所有権)で土地の所有者を確認し、乙区(所有権以外の権利)で地上権・賃借権の登記の有無を確認します。

読み方のポイント

所有者が被相続人以外の者であれば、借地権の存在を想定します。賃借権登記があれば借地権の存在は登記上も明確です(建物所有目的の借地権であれば、評価は借地権割合方式によります)。乙区に何も登記がなくても、借地権はその登記がされていないことが通常であり、他の資料により借地権の存在を調査することが可能です。

賃貸借契約書の主要項目

賃貸借契約書を入手できた場合、次の各項目を確認します。

確認項目読み方のポイント
契約当事者(賃貸人・賃借人)賃借人欄に被相続人の氏名が記載されているかを確認。法人名義のケースや、被相続人の親世代の名義のままになっているケースもあるため、実体との一致を確認
契約の目的「建物所有を目的とする」旨の記載があれば借地借家法上の借地権。「資材置場として使用」等の記載であれば、借地権ではなく一般賃借権の可能性あり。
契約期間と残存期間死亡日時点での残存期間を計算。期間1年未満や臨時的な使用の場合は借地権の評価対象外となる場合がある
地代の額・支払方法月額・年額、振込先、支払日を確認。預金通帳の引落履歴と突き合わせる
権利金・敷金・保証金契約時または更新時に授受がある場合、預金通帳の入金履歴で実際の授受を確認
借地権の種類普通借地権・定期借地権(一般定期借地権=借地借家法22条、事業用定期借地権=23条、建物譲渡特約付借地権=24条)・一時使用目的の借地権(25条)の別
建物の構造(堅固/非堅固)旧借地法(1992年〔平成4年〕7月31日以前に設定された契約に適用)では堅固建物・非堅固建物で存続期間が異なる。1992年8月1日以降に設定された現行の借地借家法では区別なし(普通借地権は一律30年)
特約条項増改築の制限、譲渡・転貸の承諾、更新料・名義書換料の規定等

借地権の種類は評価額・承継時の取扱いに大きく影響します。定期借地権の場合は契約期間満了で確定的に終了するため、残存期間が短ければ評価額も下がります。一方、普通借地権は更新が原則として保障されるため、強い財産的価値を持ちます。

地代支払履歴(預金通帳)

預金通帳または取引履歴から、地代の定期的な支払いを確認します。

読み方のポイント

地代の支払いがあれば借地権(または賃借権)の存在を強く裏付けます。一方で、親族間の土地利用で地代の支払いが全くない場合は、借地権ではなく使用貸借(民法593条)の可能性が高く、使用貸借では財産的価値が認められないのが原則です(借地権としての評価対象外)。固定資産税相当額のみの支払いも、判例上は使用貸借と評価されることが多いため、地代の額が固定資産税額と比較して著しく低い場合は使用貸借該当性に注意します。

権利金・更新料の授受

通帳の取引履歴から、契約締結時または更新時の権利金・更新料の入出金を確認します。

読み方のポイント

権利金は、借地権を設定する際に地代とは別に授受される一時金で、借地権の対価としての性質を持つことが一般的です。契約締結時にまとまった権利金を支払っていた記録があれば、確固たる借地権が設定されていたことの有力な裏付け資料となります。更新料の支払履歴も、借地関係が継続していたことを示す資料となります。

名寄帳との関係

名寄帳には被相続人名義の財産が記載されますが、借地そのものは地主名義のため、被相続人の名寄帳には記載されません。一方、借地上の建物は被相続人名義のため建物として記載されます。

読み方のポイント

名寄帳に建物の記載のみがあり対応する土地の記載がない場合、その建物は借地上に建っている可能性が高くなります。これは借地権発見の重要な手がかりとなります。

参考リンク

領域機関案内ページ
不動産登記事項証明書(オンライン申請)法務省・登記・供託オンライン申請システム登記・供託オンライン申請システム
不動産登記情報民事法務協会登記情報提供サービス
借地権の評価・借地権割合(財産評価基本通達)国税庁No.4611 借地権の評価 / 財産評価基準書(路線価図・評価倍率表)

相続トラブルに備えたアドバイス

借地権の評価額が争点化しやすい

借地権は、相続財産の中でも評価額に幅が出やすい財産です。借地権割合(路線価図に記載)を用いた評価が一般的ですが、底地との交換価値、譲渡承諾料の負担、契約条件(更新料・増改築承諾料の有無)等によって、実勢価値は通達評価と乖離することが少なくありません。調査段階では、評価額そのものに踏み込む前に、評価の前提となる事実関係(契約内容・地代額・権利金の授受・残存期間)を正確に整理しておくことをお勧めします。

借地権と使用貸借の区別

親族間で土地を貸し借りしている場合、地代の支払いがあるか・固定資産税相当額のみかによって、借地権か使用貸借かの結論が分かれます。地代支払履歴の確認結果を踏まえ、固定資産税相当額のみの支払いしかない場合は、財産的価値のない使用貸借として整理される可能性があることに留意してください。なお、最高裁は、借主が目的物に賦課される公租公課(固定資産税等)を負担していても、それが使用収益に対する対価としての意味を持つと認めるに足りる特別の事情のない限り、その負担は使用貸借と認める妨げにならないと判断しています(最判昭和41年10月27日)。

使用貸借と整理される場合、その土地の利用権には借地権としての遺産価値は生じません。地代の額が固定資産税額と比較して著しく低い場合は、使用貸借該当性を慎重に確認することをお勧めします。

建物の登記名義のズレに注意する

相続案件では、借地の賃貸借契約が被相続人(親)名義のままで、借地上の建物の登記名義が同居していた子(長男など)名義になっているケースがしばしば見られます。借地権の対抗力は建物が借地権者本人の名義で登記されている場合に認められるため、建物が借地権者と異なる名義で登記されていると、底地を新たに取得した第三者に借地権を対抗できず、最悪の場合は建物収去・土地明渡しを求められるリスクがあります。調査段階で建物登記の名義と借地権者(被相続人)の同一性を必ず確認し、ズレがある場合はそのリスクを早期に把握しておくことをお勧めします。なお、名義のズレがある場合の対抗の可否は、地主の認識や信義則など個別事情によって左右される余地もあるため、事実関係の丁寧な確認が望まれます。

借地権の相続には地主の承諾は不要

借地権の相続は譲渡ではないため、借地権の相続自体には地主の承諾も承諾料(名義書換料)の支払いも法的には必要ありません。賃借権の譲渡・転貸には賃貸人(地主)の承諾を要するのが原則ですが(民法612条1項)、相続は被相続人の地位を相続人がそのまま承継するものであって「譲渡」には当たらないため、地主の承諾は不要と解されています。共同相続人が複数いる場合、借地権はいったん相続人全員の準共有となり、その後の遺産分割協議で特定の相続人(例:長男)が単独取得することも珍しくありませんが、遺産分割は相続開始の時に遡って効力を生じる(民法909条本文)ため、これも賃借権の譲渡には当たらず、地主の承諾は不要です。実務上、地主から名義書換料の請求を受けることがありますが、相続や遺産分割を原因とする場合は支払う法的義務はないというのが裁判例の傾向です。

これに対し、相続人ではない第三者への遺贈(包括受遺者を除く)や、借地権そのものの第三者への譲渡は賃借権の譲渡に当たり、原則として地主の承諾(承諾料)が必要です。また、相続後に建物を建て替える場合も、契約上、地主の承諾が必要となるのが一般的です。調査段階で特約条項(増改築禁止、譲渡承諾の条件、承諾料の規定)を読み込んでおくことで、相続後の不必要な支払いを避けられます。

契約書が見当たらない場合でも調査は可能

長期間にわたる借地関係では、契約書そのものが紛失している、あるいは口頭契約のままになっているケースが珍しくありません。契約書がないからといって借地権の存在自体が否定されるわけではなく、建物登記の存在と地代支払いの事実があれば借地権の存在は十分に推認されます。地主との関係性が悪くなければ、地主側に契約書のコピーが残っていることも多いため、まずは地主への確認を試みることをお勧めします。

建物滅失後の借地権の取扱い

借地上の建物が滅失している場合(火災・解体・朽廃等)、借地借家法10条2項により、借地権者が建物を特定する事項・滅失日・新たに築造する旨を土地の見やすい場所に掲示すれば、滅失日から2年間は借地権を第三者に対抗できます(2年経過後は、その前に建物を再築し登記している必要があります)。ただし、再築には地主の承諾が必要となる場合があります。被相続人の死亡前後に建物が滅失していないか、滅失している場合は再築の計画があるかを確認することをお勧めします。

借地権は名寄帳に載らないため見落とされやすい

借地権は地主名義の土地に対する権利のため、被相続人の名寄帳には記載されません。名寄帳だけで不動産調査を完了させると、借地権という重要な遺産を見落とすリスクがある点に留意してください。被相続人名義の建物が記載されていれば、対応する土地の所有関係を必ず確認するという調査手順の徹底が、見落としを防ぐ最大のポイントです。借地権の存在に気付かないまま遺産分割協議を成立させてしまうと、後日の蒸し返しリスクや、相続税申告漏れによる追徴課税のリスクが生じます。

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