私道・セットバック部分の調査はどのようにしたらいいですか?

回答

私道やセットバック部分は、宅地に隣接する「見落とされやすい不動産」です。私道は固定資産税が非課税となっている場合があり(地方税法348条2項5号)、その場合は固定資産税納税通知書の課税明細に載らないため、名寄帳や登記事項証明書での確認が欠かせません。調査では、(1)登記事項証明書で私道の地番・持分、(2)名寄帳で非課税物件を含めた把握、(3)道路台帳図面で前面道路の幅員、(4)道路種別図で建築基準法上の道路該当性・2項道路(建築基準法42条2項)該当性、(5)セットバックの要否を確認します。これらは相続税評価上の減額要因(私道は財産評価基本通達24、セットバックは同24-6)となり、遺産分割での評価額にも影響します。

目次

調査・手続の概要

被相続人が所有していた宅地のまわりには、その宅地に出入りするための私道や、将来の建替え時に道路として提供することになるセットバック部分が含まれていることがあります。これらは敷地の本体に比べて見落とされやすく、相続財産の把握漏れや評価誤りの原因になりやすい部分です。

調査の出発点は、私道とセットバック部分が持つ次の二つの性質を理解することにあります。

第一に、私道は固定資産税が非課税となっている場合があります。私人が所有する道路であっても「公共の用に供する道路」に当たれば固定資産税は課されず(地方税法348条2項5号)、この場合は固定資産税の納税通知書に添付される課税明細に表示されません。被相続人の不動産は固定資産税納税通知書で把握するのが基本ですが、私道についてはこの方法だけでは漏れることがあるため、注意が必要です。

第二に、私道やセットバック部分は相続税評価上の減額要因となります。専ら特定の者の通行の用に供されている私道は、私道でないものとして評価した価額の100分の30で評価し、不特定多数の者の通行の用に供されているときは評価しません(財産評価基本通達24)。また、建築基準法42条2項の道路(いわゆる2項道路)に面し、将来の建替え時に道路敷きとして提供しなければならない部分(セットバック部分)については、その部分に対応する価額の70パーセントを控除して評価します(同24-6)。

そのため、調査では、私道・セットバック部分の所在と範囲を「取得」し(第1段)、登記や道路に関する書類の記載内容を「読み解く」(第2段)作業まで行うことになります。

申請主体・申請先・必要書類

私道・セットバック部分の調査に必要な主な書類と取得先は、次のとおりです。

必要書類申請主体申請先・取得方法何が分かるか
固定資産税納税通知書・課税明細書相続人被相続人宛に毎年送付(手元保管)課税対象の不動産。ただし非課税の私道は載らないことがある
名寄帳(固定資産課税台帳)相続人市区町村役場の固定資産税課(東京23区は都税事務所)。相続関係を示す戸籍等が必要同一名義の不動産の一覧。非課税物件を含めて記載する自治体もある
登記事項証明書(登記簿謄本)誰でも取得可管轄の法務局窓口、登記・供託オンライン申請システム、登記情報提供サービス私道の地番・地目・地積・所有者・持分
公図・地積測量図誰でも取得可管轄の法務局、登記情報提供サービス私道の位置・形状・宅地との位置関係
道路台帳図面相続人ほか市区町村役場の道路管理課等前面道路の幅員、セットバックの要否・必要範囲
道路種別図相続人ほか市区町村役場の建築指導課等(名称は市区町村により異なる)建築基準法上の道路に該当するか、2項道路かどうか

申請の流れ

私道・セットバック部分の調査は、次のステップで進めます。

  1. 手元の固定資産税納税通知書・課税明細書を確認する。
    まず被相続人宛に届いた課税明細で、宅地とともに私道らしき地番が課税されていないかを確認します。ここで私道が見当たらない場合でも、非課税で表示されていない可能性があるため、調査を終えてはいけません。
  2. 名寄帳を取得し、非課税物件を含めて把握する。
    市区町村の固定資産税課(東京23区は都税事務所)で名寄帳を取得します。自治体によっては非課税物件も含めて記載されるため、課税明細では見えなかった私道を把握できることがあります。複数の市区町村に不動産がある場合は、それぞれの市区町村で取得します。
  3. 登記事項証明書・公図で私道の地番・持分・位置を確認する。
    宅地と前面の道路部分について、登記事項証明書と公図を取得します。私道が別地番で登記されていることや、複数人の共有になっていることが分かります。登記情報提供サービスや登記・供託オンライン申請システムを使えば、法務局へ出向かずに取得できます。
  4. 道路台帳図面で前面道路の幅員を確認する。
    市区町村役場の道路管理課等で道路台帳図面を取得し、前面道路の幅員を確認します。幅員が4メートル未満であれば、セットバックの要否を検討する必要が出てきます。費用は市区町村によって異なるため、窓口で確認してください。
  5. 道路種別図で建築基準法上の道路該当性・2項道路該当性を確認する。
    市区町村役場の建築指導課等で道路種別図を確認し、前面道路が建築基準法上のどの道路に当たるかを確認します。2項道路(建築基準法42条2項)であれば、セットバックの要否を確認します。

所要期間は、手元の書類確認は当日、名寄帳・登記事項証明書・公図は窓口またはオンラインで即日〜数日、道路台帳図面・道路種別図は窓口での確認となり、いずれも相続人自身で進められます。費用は登記事項証明書が1通あたり数百円程度、その他は市区町村ごとに定められています(※手数料の具体額は最新情報を要確認)。

取得した書類で確認すべき項目

私道について確認する項目

私道の地番・地積(登記事項証明書・公図・地積測量図)

宅地の前面にある道路部分が、宅地とは別の地番で登記されていることがあります。地番・地積を確認し、その私道が相続財産に含まれることを把握します。一方で、私道部分が別の筆として分筆されておらず、宅地本体と一筆のまま登記されている(未分筆の私道)こともあります。この場合は登記事項証明書や公図上は一筆の宅地に見えるため、私道部分の存在に気づきにくくなります。地積測量図や現地の状況とつき合わせて、一筆の宅地のなかに通路状の部分が含まれていないかを確認することが大切です。

私道の所有形態・持分(登記事項証明書)

私道は、(a)私道全体が一筆の土地で、沿道の宅地所有者が共有しているケース、(b)私道の内部が複数の筆に分かれていて、その一部を所有しているケースがあります。いずれの場合も、登記事項証明書で持分(または所有している筆)を確認します。持分は相続や贈与で部分的に移動していることもあるため、慎重な確認が必要です。

私道が課税対象か非課税か(名寄帳・課税明細)

公共の用に供する道路に当たる私道は固定資産税が非課税となるため(地方税法348条2項5号)、課税明細に載りません。名寄帳で非課税物件を含めて確認し、課税明細だけでは見えない私道を拾い上げます。

私道の通行形態(現況・路線価の有無)

私道は通行のされ方によって相続税評価上の扱いが分かれます。調査の整理としては、次の三つに区別して把握します。

私道の類型相続税評価上の整理根拠
不特定多数の者が通行する通り抜け私道評価しない(零評価)財産評価基本通達24
専ら特定の者が通行する行き止まり私道私道でないものとした価額の30パーセントで評価財産評価基本通達24
専ら自己の通行のみに使う路地状敷地(敷地延長部分)私道としては評価せず、隣接する宅地と一体(1画地)として評価財産評価基本通達24注、国税庁質疑応答事例

※「通り抜け私道」「行き止まり私道」は財産評価基本通達上の正式な用語ではありませんが、実務上は現況の通行形態から上表のように整理して判断されます。

不特定多数の通行に当たるかどうかに道路幅員や道路種別の明確な基準はなく、実際の利用状況によって判断されます。路線価は、不特定多数の者の通行の用に供されている道路に設定されるものとされているため(財産評価基本通達14)、その道路に路線価が設定されている場合は、原則として不特定多数の者が通行する道路と整理できます。もっとも、過去の経緯等から、現況が行き止まりで専ら特定の者しか通行していないにもかかわらず路線価が付されていることもあります。この区別は後の評価額に直結するため、書類上の路線価の有無だけで判断せず、現地で通行の実態(行き止まりか通り抜けか、誰が通行しているか)を確認しておくことが大切です。

セットバック部分について確認する項目

前面道路の幅員(道路台帳図面)

前面道路の幅員が4メートル未満かどうかを確認します。4メートル未満の場合、セットバックが必要となる可能性があります。

建築基準法上の道路種別・2項道路該当性(道路種別図)

セットバックの要否は、前面道路が建築基準法42条2項の2項道路に当たるかどうかで決まります。道路種別図で確認し、2項道路であればセットバックの要否を検討します。前面道路が2項道路でない場合は、たとえ4メートル未満であってもセットバックによる減額の対象にはなりません。

セットバックの要否・既済の有無(道路中心線・反対側の状況)

2項道路では、原則として道路の中心線から2メートル後退した線が道路と宅地の境界線とみなされます(建築基準法42条2項)。セットバックが必要な部分の範囲は、現況の道路幅員と道路中心線の位置によって決まります。すでにセットバック済みであればセットバック部分としての減額は行わず、反対側の宅地がセットバック済みであれば後退すべき距離が変わります。道路中心線は道路管理課で把握できることもありますが、不明な場合は周囲の新築建物の建築概要書等から推定することもあります。なお、後退後に必要な幅員が4メートルではなく5メートル・6メートルとされている地域もあるため、建築指導課等で確認します。

参考リンク

道路台帳図面・道路種別図の窓口名称やオンライン公開の有無、公衆用道路の固定資産税非課税の申告要否は、市区町村によって運用が異なります(※各市区町村の最新情報を要確認)。

相続トラブルに備えたアドバイス

私道の把握漏れと協議の蒸し返しリスク

非課税で課税明細に載らない私道が遺産分割協議の対象から漏れたまま協議を成立させてしまうと、後でその私道が発見されたときに、その不動産について改めて協議をやり直す必要が生じます。場合によっては「他にも漏れている財産があるのではないか」という不信から、協議全体の蒸し返しにつながることもあります。課税明細だけに頼らず、名寄帳で非課税物件を含めて確認しておくことをお勧めします。

共有私道の持分の確認

私道が沿道の複数の宅地所有者の共有になっている場合、被相続人の持分を見落とすと相続財産の範囲に誤りが生じます。登記事項証明書で持分を確認し、宅地本体とあわせて遺産の一覧に含めておくことが大切です。

減額の見落としによる宅地の過大評価

専ら特定の者が通行する私道は30パーセント評価、不特定多数が通行する私道は零評価(財産評価基本通達24)、セットバック部分は70パーセント控除(同24-6)と、いずれも減額要因です。これらを見落として宅地を過大に評価すると、その宅地を取得する相続人の取り分計算が実態とずれてしまいます。

一方で、減額を主張する相続人と、減額の前提(不特定多数の通行に当たるか、セットバックが必要かなど)の認識が食い違うと、評価額をめぐる争いに発展することもあります。早い段階で道路台帳図面・道路種別図を確認し、減額の根拠となる事実を押さえておくと、評価額の前提について相続人間で認識を共有しやすくなります。

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