【判例解説】名義株にも民法163条の取得時効が成立し得ると判断した事例(東京地裁平成21年3月30日判決)

判例の基本情報
- 裁判所:東京地方裁判所
- 判決日:平成21年3月30日
- 事件番号:平成17年(ワ)19332号
- 事件名:株式持分確認請求事件
- 結論:一部認容・一部棄却(控訴)
結論
東京地裁は、株式(株主権)が民法163条の「所有権以外の財産権」に含まれ、取得時効の対象になると判示しました。名義人が株主名簿記載・議決権行使・配当受領を20年間、公然・平穏に継続すれば時効取得が成立し得ると明確化。一方、名義株の事情を知り得た名義人の「短期10年(善意無過失)」は否定。所有権以外の時効取得に推定規定はなく、要件の立証責任は主張者側にあると示されました。
事案の概要
被相続人は、生前、第三者名義を利用した「借用名義株」を多数保有。死亡後、一部の株式が相続人Y名義に集約されました。別の相続人Xらは、特定時点(株式移転決議時)における自己の持分確認を請求。東京地裁は、20年超の継続行使が認められる部分につきYの時効取得を肯定する一方、短期10年は不成立として、残部の一部についてXらの持分を確認しました。
判決の要旨
「株式ないし株主権も…民法163条の『所有権以外の財産権』に含まれ、取得時効の対象となる。」
株式は「物の所有権」ではないものの、財産的価値のある財産権として時効取得の対象になると確認されました。特別に除外する規定がない限り、163条が及ぶという整理です。
「名義取得後20年間、その株主権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使してきたものというべきである。」
単に名義があるだけでなく、株主名簿の継続記載・総会での議決権行使・配当受領といった外形が20年間続いていれば、「自己のためにする意思」「公然・平穏」が外形から認められる、という考え方です。
「所有権以外の権利の時効取得には…推定規定はない…要件の立証責任は、取得時効を主張する側にある。」
取得事項を立証するのは主張する側です。議事録、出席票、配当台帳、名簿写しなど「20年の連続」を示す資料の積み上げが勝敗を分けます。
「借用名義株であった部分については、自己が正当な権利者であると信じたとは認められず、取得時効が成立しないとされた事例。」
内部事情を知り得る立場の名義人は善意無過失の主張が成り立ちにくく、短期10年はハードルが高いといえます。
重要論点の解説
株主権も取得時効の対象となる(民法163条)
- ポイント:株式=163条の対象。特別な除外規定がない限り、広く財産権一般に適用される。
- なぜ重要か?:家族会社・同族会社で名義と実態がズレる場面において、「時間で確定する」ルールが働く。
- 参考になる場面:相続放置・名義株運用の歴史がある会社での帰属確定。
20年の継続行使をどう証明するか
- 外形証拠:株主名簿の継続記載/総会出席・議決権行使/配当受領の入出金記録/増資の引受書類
- 理由:これらが揃うと「自己のために」「公然・平穏」が外形から裏付けられる。
短期10年(善意無過失)の限界
- 判断のポイント:名義株の存在を知り得たか。内部の管理や付替えに関与していれば、善意無過失が否定されやすい。
増資・株式併合があるときの考え方
- 増資:借用名義人に割り当てられた増資株は借用名義株の属性を承継。実質の帰属は相続人側と評価。
- 併合:技術的変更後も、権利行使の継続性と外形証拠が評価対象となる。
立証責任と起算点
- 立証責任:取得時効の要件は主張者側が立証(所有権以外に推定なし)。
- 起算点:一般に名義取得+権利行使開始から。空白年の有無と理由づけが重要。
実務におけるポイント
会社・管理者サイド
- 株主名簿・名簿閉鎖期間・総会議事録・出席簿・議決権行使書を20年以上保全・索引化。
- 配当台帳・振込記録は口座名義まで特定できる整理を。
- 増資・払込・併合書類は一式保存し、連続性を示せる形にする。
相続人・名義人サイド
- 招集通知・議決権行使書・出席票、配当通知・通帳、名簿写しを年代順に棚卸しする。
- 名義と実態を早期に一致させる(名義書換、合意書)。放置は時効完成のリスクを高めます。
読者へのアドバイス
- 株主名簿の写しで「いつから誰が名義人か」を確認。
- 総会関係書類(招集通知・出席票・議決権行使書)と配当入金の通帳記録を年ごとにファイル。
- 増資・併合の通知/払込控えの有無を点検。
- 名義人側に20年の連続性がそろうほど、時効主張は強力になる。疑問があれば、早めに事実関係の整理を。