【判例解説】会社経営の安定のため、次期社長に全株式を単独で取得させ、代償金の支払いを命じた事例(東京高裁平成26年3月20日決定)

この記事のポイント
  • 争点遺産である「同族会社の株式」を、経営に関与しない相続人と分け合うことは有効か?
  • 結論裁判所は、会社経営の安定のため「次期社長が全株式を単独で取得し、他の相続人には代償金を支払う」と判断した。
  • ポイント株式が分散して経営が傾くのを防ぐため、遺言書の作成や代償金の準備をしておくことが重要。
目次

事案の概要

本件は、亡くなった女性(被相続人)の遺産分割をめぐり、会社の後継者である孫(申立人)と、その他の相続人(相手方)が対立した事例です。

主な登場人物とその関係

  • 被相続人 A:亡くなった女性。親族で経営する会社(G社)の株式を持っていました。
  • 申立人 X1:Aの孫(亡き長男の息子)。G社の次期社長に就任予定の人物です。
  • 申立人 X2・X3:Aの孫(X1の兄弟)。
  • 相手方 Y1・Y2:Aの長女と二女(X1らの叔母)。専業主婦であり、会社経営には関与していません。

トラブルの経緯

被相続人Aが亡くなり、遺産分割の話し合いが行われました。遺産には不動産や現金のほか、一族で経営してきた「G株式会社」の株式が含まれていました。

次期社長となる予定の孫X1は、「会社の経営を安定させるために、自分が株式をすべて相続したい。その代わり、叔母たち(Y1・Y2)や兄弟(X2・X3)には、株の代わりにお金(代償金)を支払う」と主張しました。

一方、叔母であるY1とY2は、「法定相続分(法律で決められた割合)に従って、私たちも株式をもらいたい」と主張しました。

家庭裁判所(第一審)は、「株式を法定相続分どおりに分ける(Yらも株主になる)」という判断を下しましたが、これを不服としたX1が、「会社経営の安定のためには株式の分散は避けるべきだ」として、高等裁判所に不服申し立て(抗告)を行いました。

主な争点

経営に関与しない相続人にも、同族会社の株式を分けるべきか?

遺産分割において、株式のような「数で分けられる財産」は、原則として相続人の法定相続分に応じて分けることが公平と考えられがちです。

しかし、本件のような「同族会社(親族経営の非公開会社)」の場合、株式が多くの親族に分散してしまうと、会社の意思決定がスムーズに行えなくなるリスクがあります。特に、経営方針に対立する親族や、経営に関心のない親族が株主になると、株主総会での決議が通らなくなるなど、会社存続に関わる問題(経営のデッドロック)に発展しかねません。

裁判では、「相続人間の公平性(Yらの権利)」と「会社経営の安定(株式の集約)」のどちらを優先すべきか、民法906条が定める「遺産の分割にあたって考慮すべき事情」の解釈が大きな争点となりました。

裁判所の判断

東京高等裁判所は、第一審の判断を変更し、次期社長であるX1が株式をすべて取得することを認めました(東京高裁平成26年3月20日決定)。

その理由は、単なる形式的な公平性よりも、会社経営の実情と将来の安定を重視したものでした。

同族会社における「経営安定」の重要性

裁判所は、G社が典型的な同族会社である点に着目し、決定文で以下のように述べました。

「その経営規模からすれば、経営の安定のためには、株主の分散を避けることが望ましいということができる」

つまり、中小企業においては、株主がバラバラになることは会社存続のリスクになり得ると判断しました。これは、会社法や「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が、株式の分散防止を重視しているという国の方向性(社会経済的な要請)とも合致する考え方です。

相続人の事情と代償金の支払能力

相手方Y1・Y2は「親の形見として株を持ちたい」と主張していましたが、これまで経営に関与したことはなく、今後も関与する予定はありませんでした。また、この会社の株式は配当金が出ていないため、Yらが株式を持っていても経済的なメリットはほとんどありません。

一方で、後継者X1には、Yらに対して株式の対価として現金を支払うだけの資力(十分な預金)があることが確認されました。

裁判所は、「経営に関与しない相続人が株を持つよりも、後継者が株を持ち、その他の相続人は現金で公平な取り分をもらう方が、双方にとっても会社にとっても合理的である」と判断したのです。

結論としての分割方法

  • 株式:すべて後継者X1が取得。
  • 代償金:X1は、株式を独占する代わりとして、Y1・Y2に対し、それぞれ約606万円ずつの現金を支払うよう命じられました。(同様に、兄弟であるX2・X3に対しても代償金を支払うこととされました)

弁護士の視点

この裁判例は、中小企業の経営者やそのご家族にとって、非常に重要な教訓を含んでいます。

裁判所が「経営安定」を考慮して後継者の単独取得を認めたとはいえ、ここまで争うには多大な時間と費用、そして精神的な労力がかかっています。もし第一審のまま確定していれば、会社の経営は不安定になっていたでしょう。

このようなトラブルを未然に防ぐために、以下の対策を意識しておくことが重要です。

株式の生前贈与

生前に株式を後継者に生前贈与しておけば、そもそも遺産にはならなくなりますので、遺産分割をする必要がなくなります。毎年一定の株式数を移したり、相続時精算課税制度を利用したりするなど、節税対策は必須です。

遺言書の作成

「株式はすべて後継者○○に相続させる」と遺言書ではっきり指定しておくことが最も確実な対策です。これがあれば、原則として遺産分割協議で揉める余地をなくせます。

代償金の準備

今回の勝因の一つは、後継者X1に「代償金を支払う現金があったこと」です。株式を一人に集中させると、他の相続人から不公平だという不満が出やすくなります。後継者が他の相続人に支払うための現金(代償金)を、死亡退職金や生命保険等を活用して準備しておくなどの工夫が必要です。

    よくある質問(FAQ)

    私も親の会社の株を相続する権利がありますか?経営には関わっていません。

    はい、権利はあります。

    経営に関わっていなくても、法定相続人であれば株式を相続する権利自体は持っています。ただし、本件のように会社経営の安定を優先し、株式そのものではなく、「代償金(現金)」を受け取る場合が多いです。

    遺言書がない場合、株式は自動的に法定相続分で分けられるのですか?

    自動的には分けられません。

    遺産分割協議が整うまでは、株式は相続人全員の「準共有(共有)」状態となります。この状態では、会社に対して権利を行使する代表者を決めなければならず、経営が停滞する原因となります。放置せず、早めに誰が取得するかを決める必要があります。

    後継者にお金(代償金)がない場合でも、株式を単独取得できますか?

    非常に難しくなります。

    今回の裁判でも、後継者に「代償金の支払能力があること」が重要な判断材料となりました。もし代償金を払えない場合、裁判所は不公平を避けるために、株式を現物で分ける(分散させる)可能性が高いです。

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