具体的相続分の確認の訴えは確認の利益を欠き不適法とした事例|最判平成12年2月24日

判例のポイント

民法903条1項により算定されるいわゆる具体的相続分の価額または割合の確認を共同相続人間で求める訴えは、確認の利益を欠き不適法です。本判例は、具体的相続分の法的性質について、これは遺産分割手続における分配の前提となる計算上の価額・割合にすぎず、それ自体を実体法上の権利関係ということはできない、と最高裁として明示した重要判例です。具体的相続分や特別受益の評価をめぐる紛争は、原則として家庭裁判所の遺産分割手続の中で決着させるべきこと、そして遺産分割審判が確定した後に訴訟形式で蒸し返すことは認められないことを示しています。

目次

判例情報

  • 裁判所:最高裁判所第一小法廷
  • 判決日:平成12年2月24日
  • 事件番号:平成11年(受)第110号
  • 関連条文:民法903条1項

事案の概要

本件は、遺産分割審判が確定した後に、その内容に納得しない一方の相続人が、特別受益や遺産の評価について争い直す目的で、相手方の具体的相続分の価額・割合が一定限度を超えないことの確認を求める訴えを提起した、という事案です。

登場人物

  • A(被相続人):平成4年11月10日死亡。相続人はXとYの2名。
  • X(原告・控訴人・上告人):Aの長男。法定相続分2分の1。
  • Y(被告・被控訴人・被上告人):Aの長女。法定相続分2分の1。

時系列

  • 昭和57年3月:Xが、Aから贈与された900万円と自己資金300万円(計1200万円)で、ある土地の持分2分の1を購入(後に特別受益と評価される)
  • 昭和62年10月31日:AからYに対し、ある建物が贈与される(後に特別受益と評価される。相続開始時の評価額400万円)
  • 平成4年11月10日:A死亡。XとYが各2分の1の法定相続分で共同相続
  • 平成5年:Yが遺産分割を申立て(岡山家裁)
  • 平成7年2月23日:岡山家裁が遺産分割審判。XからYへの代償金2億2312万円の支払いを命じる
  • 平成8年9月27日:広島高裁岡山支部、双方の抗告を棄却
  • 平成8年12月16日:最高裁第一小法廷、Xの抗告を不適法として却下。本件審判が確定
  • (その後):Xが本件確認訴訟を提起。Yの具体的相続分の価額が「2億169万8500円、相続分率0.502679」を超えないことの確認を求める
  • 平成10年3月30日:岡山地裁、訴え却下
  • 平成10年10月27日:広島高裁岡山支部、控訴棄却
  • 平成12年2月24日:最高裁第一小法廷、上告棄却

経緯

XとYは、被相続人Aの遺産分割について、岡山家裁の審判(平成7年2月)、広島高裁岡山支部の抗告審決定(平成8年9月)、最高裁の許可抗告却下(平成8年12月)という3審を経て、遺産分割審判を確定させました。この審判では、Xの特別受益として土地の持分購入に対するAの援助が、Yの特別受益として建物の贈与が、それぞれ認定されています。

ところがXは、本件審判は双方の特別受益の有無・評価および遺産(借地権)の評価に関する判断を誤っていると主張し、改めて訴訟を提起しました。Xの主張の骨子は、(1)Xが持戻すべき特別受益財産は土地の持分ではなく1000万円とすべき、(2)Yが持戻すべき特別受益財産は本件審判で認定された建物のほかに区分建物の買受代金500万円を加えるべき、(3)借地権の価額は6429万5000円と評価すべき、というもので、これらを前提として、Yの具体的相続分の価額・割合が一定限度を超えないことの確認を求めたのが本件訴えです。

第一審・控訴審はいずれも、具体的相続分は遺産分割手続における計算上の分配基準にすぎず、訴訟の対象としての適格性を欠く、または確認の利益を欠くとして、Xの訴えを却下しました。Xが上告したのが本件です。

争点

──共同相続人間において、民法903条1項により算定される具体的相続分の価額または割合の確認を求める訴えは、確認の利益を有する適法な訴えか。

X側の主張:具体的相続分は、法定相続分または指定相続分を特別受益によって修正した相続分であり、共同相続人が遺産に対して有する権利割合を示すものである。これは実体法上の権利関係であるから、その存否の確定は訴訟事項であり、確認の訴えの対象となる。登記実務上、特別受益証明書による具体的相続分に基づく持分登記が頻繁に行われていること、遺留分の確定が訴訟事項であることとの対比からも、具体的相続分は実体的権利として確認訴訟の対象となるべきである。

Y側の主張:具体的相続分は、遺産分割手続における計算上の分配基準にすぎず、遺産分割の過程においてのみ機能する観念的な性質のものである。それ自体について具体的な権利義務関係が成立する余地はない。具体的相続分が訴訟で確認されたとしても、各相続人が具体的に取得すべき財産が決まるわけではないから、紛争の直接かつ抜本的な解決にはつながらず、確認の利益を欠く。

裁判所の判断

判旨の要約

  • 結論:共同相続人間において、具体的相続分についてその価額または割合の確認を求める訴えは、確認の利益を欠き不適法である。
  • 理由:具体的相続分は、遺産分割手続における分配の前提となる計算上の価額または割合を意味するものにすぎず、それ自体を実体法上の権利関係ということはできないから。

判決文の引用

最高裁は、次のように判示しました。

具体的相続分は、このように遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるということはできず、遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり、右のような事件を離れて、これのみを別個独立に判決によって確認することが紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはできない。

その上で、結論として次のように述べています。

したがって、共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であると解すべきである。

判例の考え方

本判決の論理は、次の3段階で整理できます。

第1に、具体的相続分の機能的位置づけ。具体的相続分は、民法903条1項が定めるとおり、被相続人の相続開始時の財産の価額に特別受益となる贈与の価額を加えた「みなし相続財産」を基礎として、法定相続分または指定相続分から遺贈・贈与の価額を控除して算定されます。これは、遺産分割という具体的な分配手続において、各相続人がいくらを取得すべきかを計算するための、分配の前提となる「計算上の価額・割合」にとどまるものです。

第2に、実体法上の権利関係性の否定。最高裁は、この計算上の価額・割合をもって「実体法上の権利関係であるということはできない」と明言しました。具体的相続分は、相続人が遺産に対して直接行使できる独立の権利ではなく、遺産分割の中で分配を計算するための観念的な数字にすぎないと位置づけられたことになります。

第3に、確認の訴えの利益の否定。具体的相続分は、遺産分割審判事件における遺産の分割や、遺留分減殺請求(現:遺留分侵害額請求)に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための「前提問題」として審理判断される事項です。これらの事件を離れて、具体的相続分のみを別個独立に判決で確認しても、紛争の「直接かつ抜本的な解決」につながらない、というのが最高裁の論理です。確認訴訟が認められるためには、確認判決が紛争解決に直接かつ抜本的な役割を果たすことが必要ですが、具体的相続分の確認はこの要件を満たしません。

結論に至る処理

最高裁は、Xの本件訴えを却下した原審の判断を是認し、本件上告を棄却しました。Xの上告受理申立て理由が引用した判例についても、「右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない」と簡潔に否定し、Xの主張は採用しませんでした。

判例の射程

本判例の射程について、判決文の表現に即して整理します。

「価額」も「割合」も同様に確認の利益を欠く

最高裁は、「共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴え」を不適法としています。Xは本件で、Yの具体的相続分の価額(2億169万8500円)と相続分率(0.502679)の双方が一定限度を超えないことの確認を求めましたが、この両者を区別せず、いずれも確認の利益を欠くとされました。価額か割合かという請求の形式的な違いは、結論を左右しません。

遺産分割審判の前後を区別しない射程

本件は、遺産分割審判が確定した後に提起された訴えです。控訴審判決は、第一審が引用した先例(具体的相続分に基づく共有持分確認の訴えを不適法とした地裁判決)が遺産分割未了の段階の事案である点で本件とは異なるとしつつも、「具体的相続分の法的性質に関する前記判断を左右するものとは解されない」としていました。最高裁の判旨も、遺産分割審判の前後を区別する記述をしていません。

したがって、本判例の射程は、遺産分割審判の前か後かを問わず、共同相続人間で具体的相続分そのものの確認を求める訴え全般に及びます。むしろ、審判が確定した後にこの種の訴えが提起された事案で確認の利益を否定した点で、遺産分割審判の蒸し返しを訴訟形式で行うことを封じる射程を持っているといえます。

個別財産の共有持分確認・遺産確認は射程外

本判例は、具体的相続分そのものの確認の訴えを対象とするものであり、特定の財産が遺産に属することの確認(遺産確認の訴え)や、特定の財産について自己の法定相続分に応じた共有持分を有することの確認は、対象としていません。これらは別途、確認の利益が認められ得る訴えであり、本判例によって否定されたわけではありません。

実務での使い方

本判例は、相続実務における進め方の前提となる基本判例です。具体的相続分や特別受益の評価をめぐる争いを、訴訟と審判のいずれの手続で決着させるべきかを判断する際の出発点となります。

使える場面

典型的な場面は、次のとおりです。

第1に、相手方が「具体的相続分の確認」を求める訴訟を提起してきた場面。本判例を援用して訴えの不適法を主張し、却下を求めます。

第2に、依頼者から「家裁の審判結果に納得できないので訴訟で争えないか」と相談された場面。具体的相続分そのものの確認の訴えは認められないことを説明し、別の手段を検討する出発点となります。

第3に、特別受益の評価や遺産の評価について争いがある場面で、これらをどの手続で決着させるべきか整理する場面。これらの算定の前提となる事項は、原則として遺産分割審判の中で判断されるべきものとなることを基礎に置きます。

第4に、遺産分割審判が確定した後に、相続人の一方が再度争おうとする動きがある場面。本判例は、審判確定後の事案でも具体的相続分の確認を求める訴えを不適法としているため、審判の蒸し返しを防ぐ根拠として機能します。

訴えの却下を求める側(被告側)

具体的相続分の確認の訴えを提起された側は、本判例をそのまま援用して、本案前の主張として訴えの不適法・却下を求めるのが基本となります。具体的には、次の3点を順に主張します。

第1に、具体的相続分は、遺産分割手続における計算上の価額・割合にすぎず、実体法上の権利関係ではないこと。

第2に、具体的相続分は、遺産分割審判や遺留分侵害額請求訴訟の前提問題として審理判断されるべき事項であって、別個独立の確認訴訟の対象とはならないこと。

第3に、仮に具体的相続分について確認判決を得たとしても、各相続人が具体的に取得すべき財産が定まるわけではなく、共同相続人間の紛争の直接かつ抜本的な解決にはつながらないこと。

原告側が「具体的相続分は実体法上の権利関係である」という相続分説的な主張をしてきても、最高裁判例として確定した本判決の立場を覆すことは事実上困難です。

具体的相続分を争いたい側(原告となり得る側)

本判例により、具体的相続分そのものの確認の訴えは封じられているため、具体的相続分や特別受益の評価について争いたい場合は、訴訟形式以外の手段を検討することになります。

第1に、遺産分割調停・審判の手続の中で特別受益や遺産の評価を争う方法。これが基本的な道筋です。具体的相続分の算定の前提となる特別受益の有無・評価、遺産の範囲、遺産の評価等は、家裁の審判事件における前提問題として審理判断されます。

第2に、家裁の審判に対しては、即時抗告(家事事件手続法198条1項)、特別抗告(同法288条において準用される民訴法336条)、許可抗告(家事事件手続法288条において準用される民訴法337条)等の不服申立てを検討します。本件のXは、これらの不服申立てを既に尽くした上で、なお審判内容に不服があるとして本件訴訟を提起したものですが、認められませんでした。

第3に、別途訴訟事項として確認訴訟が認められる場合を見極める。遺産確認の訴え(最判昭和61年3月13日民集40巻2号389頁)、遺言の効力を争う訴訟相続人としての地位確認の訴え等は、別途認められる場合があります。具体的相続分そのものでなく、その算定の前提となる権利関係(特定財産が遺産に属するかどうか等)に争いの中心がある場合には、これらの訴訟形式が選択肢となります。

立証上のポイント

本判例は法律問題(訴えの適法性)に関する判例であり、直接的な事実認定の論点はありません。実務上の要所は、依頼者の不満や争点をどの手続(訴訟か審判か、いずれの請求の趣旨か)で扱うべきかという手続選択の判断にあります。

特に、依頼者が「家裁の審判結果に納得できない」と訴えて来た場合、本判例の存在を踏まえれば、訴訟提起によって審判内容を覆すことは原則としてできません。手続選択を誤って訴訟を提起すれば、本案の審理に入る前に却下され、時間と費用を浪費することになります。依頼者の不満の中核がどこにあるのかを精密に聞き取り、適切な手続(抗告、再度の協議、別個の確認訴訟、遺留分侵害額請求等)を選択することが、争族実務における腕の見せ所です。

併せて検討すべき周辺論点

  • 特別受益財産該当性の確認の訴え:最判平成7年3月7日(民集49巻3号893頁)は、ある財産が特別受益財産にあたることの確認を求める訴えは確認の利益を欠くとしました。本判例と並ぶ判例として、特別受益・具体的相続分関連の確認訴訟の不適法を確立しています。両判例は、具体的相続分とその算定の前提事項(特別受益)の双方について、訴訟事項からの除外を画する役割を果たしています。
  • 遺産確認の訴え:特定の財産が遺産に属することの確認は、最判昭和61年3月13日(民集40巻2号389頁)により認められています。本判例と整合する形で、判例実務は、遺産分割の前提問題のうち、「権利関係そのもの」の確定に関する訴え(遺産確認、相続人の地位確認等)は許容し、「計算上の処理」に関する訴え(具体的相続分の確認、特別受益財産該当性の確認等)は否定するという区別を確立しています。
  • 寄与分:寄与分は審判事項であって、訴訟で確定することはできません(民法904条の2、家事事件手続法別表第二)。具体的相続分の算定に必要な要素のうち、寄与分は完全に審判事項に属します。寄与分について争いがある場合は、遺産分割審判と同時に申立てる必要があります。
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