「時価」「路線価」「固定資産税評価額」——共有不動産の本当の値段はどれですか?
不動産の価格には、市場での取引価格である「時価(実勢価格)」のほか、「公示地価」「路線価」「固定資産税評価額」など複数の公的な指標があります。これらはそれぞれ目的・決定者・評価水準が異なります(地価公示法、相続税法22条、地方税法341条5号等)。共有不動産の分割で基準となるのは、原則として市場での取引価格(時価)です。
それぞれの意味
不動産の価格を表す指標は複数存在し、しばしば「一物四価」や「一物五価」と呼ばれます。まず、それぞれの定義を整理します。
時価(実勢価格) とは、市場において実際に成立する(または成立し得る)取引価格のことです。売主と買主の個別事情や交渉によって変動するため、一つの確定した数字があるわけではありませんが、不動産取引や裁判における評価の基礎となる最も重要な価格概念です。
公示地価 とは、国土交通省の土地鑑定委員会が毎年1月1日時点で評価し、3月に公表する土地の価格です(地価公示法2条1項)。一般の土地取引の指標として用いられます。
基準地価 とは、都道府県が毎年7月1日時点で評価し、9月に公表する土地の価格です(国土利用計画法施行令9条)。公示地価を補完する役割があり、評価水準はほぼ同程度です。
路線価(相続税路線価) とは、国税庁が毎年1月1日時点で評価し、7月に公表する、主要な道路に面する土地の1平方メートルあたりの価格です。相続税・贈与税の課税価格の計算に用いられます(相続税法22条、財産評価基本通達)。評価水準は公示地価の約80%を目安としています。
固定資産税評価額 とは、市町村(東京23区は東京都)が3年ごとに評価替えを行い、固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税などの課税の基礎とする価格です(地方税法341条5号、349条)。評価水準は公示地価の約70%を目安としています。
各価格の比較
| 項目 | 時価(実勢価格) | 公示地価 | 基準地価 | 路線価(相続税路線価) | 固定資産税評価額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 決定者 | 市場(当事者間の取引) | 国土交通省 | 都道府県 | 国税庁 | 市町村(東京23区は都) |
| 評価時点 | 取引時点 | 毎年1月1日 | 毎年7月1日 | 毎年1月1日 | 3年ごと(基準年度) |
| 公表時期 | ― | 毎年3月 | 毎年9月 | 毎年7月 | 評価替えの年の4月頃 |
| 評価水準の目安 | 100%(基準) | 時価の約90〜100% | 公示地価と同程度 | 公示地価の約80% | 公示地価の約70% |
| 主な用途 | 不動産取引、裁判での評価 | 取引の指標、公共用地の取得価格の算定 | 公示地価の補完 | 相続税・贈与税の計算 | 固定資産税・登録免許税等の計算 |
| 根拠法 | ― | 地価公示法 | 国土利用計画法施行令 | 相続税法22条、財産評価基本通達 | 地方税法341条5号、349条 |
上の表のとおり、同じ不動産であっても、どの指標を用いるかによって評価額は異なります。たとえば、公示地価が1平方メートルあたり100万円の土地であれば、路線価は約80万円、固定資産税評価額は約70万円が目安となります。このように、公的な価格はいずれも時価(実勢価格)よりも低い水準に設定されているのが一般的です。
なお、建物については、固定資産税評価額が課税上の基礎となりますが、土地のような公示地価や路線価に相当する公的指標は存在しません。建物の時価を算定する場合は、再調達原価(同等の建物を新築する費用)をもとに経年減価を考慮する方法などが用いられます。
どの価格が基準となるか
各指標はそれぞれの目的に応じて使い分けられますが、共有不動産の分割において特に重要なのは時価(実勢価格)です。
共有物分割で代償分割(全面的価格賠償(共有者の1人がお金を払って不動産全体を取得する方法))が行われる場合、代償金の算定の基礎となるのは、競売を前提とした価格ではなく、市場における取引価格(時価)です。この点について、最高裁は、全面的価格賠償が認められるための要件の一つとして、共有物の価格が適正に評価されることを挙げています(最高裁平成8年10月31日判決)。
したがって、路線価や固定資産税評価額はあくまで税金の計算を目的とした公的評価であり、共有不動産の分割における代償金の算定にそのまま用いることは適切ではありません。共有物分割の場面で適正な価格を把握するためには、不動産業者による査定や、不動産鑑定士による鑑定評価を検討することが重要です。
もっとも、共有者全員が合意する場合には、路線価や固定資産税評価額をベースとした金額で代償金を定めることも可能です。協議による分割では当事者が自由に金額を定めることができるため、必ずしも厳密な時価による必要はありません。

