相続人が海外在住の場合、遺産分割で注意すべきことは何ですか?

回答

相続人が海外に住んでいる場合でも、遺産分割を行うことは可能です。ただし、調停・審判の手続においては、その相続人の遺産取得に関する意向確認、送達方法の選択、送達場所の届出(民事訴訟法104条1項、家事事件手続法36条)といった特有の問題が生じるため、注意が必要です。

目次

結論

相続人が海外に居住している場合でも、遺産分割の手続を進めることは可能です。海外居住の相続人(以下「海外居住者」といいます。)の意向に応じて、手続への関与の方法が異なります。

海外居住者が遺産の取得を希望しない場合は、相続分の譲渡(相続分を他の相続人に移転すること)または相続分の放棄(遺産を取得しない旨の意思表示)の手続をとったうえで、その当事者を手続から排除して進めることができます。遺産の取得を希望する場合は、弁護士を手続代理人に選任して調停に関与するか、出席せずに調停に代わる審判を目指すことになります。

いずれの場合にも、審判書等の送達方法が重要な問題となります。

根拠と条件

海外居住者の意向確認

遺産分割調停において、海外居住者が調停期日に出席できないことがほとんどです。そのため、まず答弁書等を通じて、海外居住者の意向を確認することが重要になります。

意向としては、主に次の3つのパターンが考えられます。

  • 遺産を取得しない、他の相続人で分け合ってよい(相続分の放棄の意向)
  • 遺産を取得しない、特定の相続人に譲りたい(相続分の譲渡の意向)
  • 遺産の取得を希望する(または、まだ決めていない)

相続分の譲渡・放棄の場合

海外居住者が相続分の譲渡や放棄の意向を示した場合には、所定の手続をとったうえで、海外居住者を調停等の手続から排除することができます(家事事件手続法258条、43条)。海外居住者の出席が不要となるため、送達の問題も生じず、他の当事者にとってもメリットがあります。

相続分の放棄の意向が示された場合には、書記官室から相続分の放棄の書式を送付し、提出してもらいます。相続分の譲渡の意向が示された場合には、譲り受ける当事者またはその手続代理人弁護士に連絡をとってもらい、相続分の譲渡の書式を整えて提出してもらいます。

なお、相続分の譲渡や放棄の手続には、印鑑登録証明書の提出が求められますが、海外居住者は日本国内で印鑑登録ができません。この場合、外国の公館(大使館・領事館)における署名証明(サイン証明)を印鑑登録証明書の代わりとすることができます。

遺産の取得を希望する場合

海外居住者が遺産の取得を希望する場合には、敵対関係のない当事者の手続代理人弁護士に同じく手続代理人になってもらうことがあります。委任状とともに双方代理の申述書が提出されるなどして、利益相反の処理を行えば、申立人手続代理人弁護士が海外居住者の手続代理人にもなることができます。

海外居住者に手続代理人が就く場合は、調停が成立できるため、送達の問題が生じません。

一方、海外居住者が弁護士を手続代理人として就けるつもりがなく、調停に出席しない場合には、調停に代わる審判(家事事件手続法284条)を目指すことになります。この場合、審判書の送達が問題となります。

審判書の送達

調停に代わる審判や正式審判の告知は、即時抗告の起算日や審判の確定日を明確にするため、送達によって行われるのが実務の運用です。

審判書の海外への送達には、領事送達(外国に駐在する日本の外交官・領事官に嘱託して行う方法)や中央当局送達(外国の中央当局に対し要請して行う方法)があります。しかし、これらは相当の時間を要します。例えば、領事送達ではアメリカで3か月、フランスで4か月、中央当局送達ではアメリカで5か月、フランスで4か月程度かかります。ブラジルの管轄裁判所送達に至っては14か月かかる見込みです。

このため、海外居住者には日本国内に送達場所の届出(民事訴訟法104条1項、家事事件手続法36条)をしてもらうことが望まれます。日本国内の住所で送達を受け取る、海外居住者以外の者を送達受取人として届け出てもらう方法です。送達場所の届出があった場合には、送達はその届出に係る場所においてすることになります(民事訴訟法104条2項、家事事件手続法36条)。

送達場所等の届出は、当事者本人がしなくてはなりません。海外居住者の関係者や他の当事者が届け出ても効力はありません。実際には、きょうだいなど当事者のうちで近い関係にある者や、単身赴任の場合には日本国内に残る配偶者や子を送達受取人として届け出ることが多いです。

具体的な場面での適用

設例1:海外居住の相続人が遺産取得を望まない場合

被相続人Aの相続人がB・C・Dの3名で、Dが海外に居住しているケースを考えます。Dが答弁書で「遺産を取得しない、他の相続人で分けてよい」との意向を示した場合、Dに相続分の放棄の手続をとってもらい、手続からの排除決定を経て、B・Cの間で調停を進めることができます。Dの出席は不要となるため、送達の問題を回避できます。

設例2:海外居住の相続人が遺産取得を希望する場合

上記と同じケースで、Dが遺産の取得を希望した場合、Dの手続代理人として弁護士を選任してもらうことが重要になります。Bの手続代理人弁護士がDの手続代理人も兼ねることができる場合は、調停の成立が可能です。手続代理人が就かない場合には、調停に代わる審判を目指すことになりますが、審判書の送達に数か月以上を要することがあるため、あらかじめDに日本国内での送達場所の届出をしてもらうことが重要です。

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