家財道具・貴金属・美術品など動産の遺産分割はどうすればいいですか?
家財道具や美術品などの動産は、遺産分割の調停・審判では、原則として分割対象の遺産として扱われず、相続人間の形見分けによって処理されます。これは、動産は個別の特定や評価の確定が困難であるためです。ただし、美術品や貴金属など特定・評価が可能な動産については、相続人全員の合意により遺産分割の対象とすることもできます。
手続の概要
被相続人(亡くなった方)の遺産には、不動産や預貯金だけでなく、家財道具や美術品、貴金属、時計などの動産(不動産以外の有形の財産)も含まれます。これらの動産は相続税の課税対象であり、相続税申告書には「家財一式 10万円」「20万円」などと記載されることがあります。そのため、遺産分割調停の申立書添付の遺産目録にも記載されることがあります。
しかし、調停や審判で遺産分割を行うには、遺産の範囲を特定することが必要であり、特定された遺産については評価を確定することも必要になります。家財道具については、箸1本・ペン1本まで特定することは不可能ですし、被相続人と同居していなかった相続人にとっては家財道具が特定されているかどうかを判断することすらできません。また、家財道具一つ一つの評価を確定することも不可能であり、実際には価値がほとんどないものが大半です。
こうした事情から、調停や審判では、原則として家財道具一式が分割対象の遺産として扱われることはありません。家財道具の処理を希望する相続人には、形見分けによって処理するよう促すのが実務上の取扱いです。
一方、美術品(絵画・陶器など)、貴金属、宝石、時計、古銭、切手などの動産は、家財道具とは異なり、個別に特定できる場合があります。これらについても形見分けで処理されることが多いですが、相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象とすることもできます。
手続の要件・準備
形見分けで処理する場合
形見分けは、裁判所の手続外で相続人間の話し合いによって行うものです。特別な要件はなく、相続人間で合意ができれば自由に分配することができます。
調停手続の中で形見分けを行う場合は、調停期日の間や調停成立後の特定の日時を設定し、形見分けを実現できるよう調整することがあります。
遺産分割の対象とする場合
美術品や貴金属などの動産を遺産分割の対象とするには、次の要件を満たす必要があります。
- 特定: 対象となる動産を個別に特定できること。たとえば「○○作の油絵」「ロレックスの時計(型番○○)」など、他の物と区別できる程度に特定する必要があります。
- 評価の確定: 対象となる動産の経済的価値を確定できること。評価方法としては、専門業者の査定書、古物商やリサイクル市場での買取価格・販売価格、専門誌やカタログの掲載価格などが参考になります。
- 相続人全員の合意: 当該動産を遺産分割の対象とすることについて、相続人全員が合意していること
| 処理方法 | 必要な要件 | 備考 |
|---|---|---|
| 形見分け | 相続人間の合意のみ | 原則的な処理方法。評価の確定は不要 |
| 遺産分割の対象とする | 特定+評価の確定+全員の合意 | 美術品など個別に特定・評価できる場合 |
手続の流れ
STEP1:遺産目録の確認
まず、申立書添付の遺産目録に動産が記載されているかを確認します。家財道具は「家財一式」として記載されていることがあります。美術品等については、申立段階では遺産目録に記載されないことも多くあります。
STEP2:形見分けの実施
家財道具や動産類については、原則として形見分けによる処理を目指します。相続人間で話し合い、誰が何を取得するかを決めます。
調停の場合、調停委員会は相続人に対し、家財道具は分割対象の遺産として扱われない旨を説明し、形見分けを促します。形見分けの合意ができたときは、相続人間の判断に任せ、裁判所の記録に残さないこともあります。相続人間の対立が激しい場合等には、「被相続人の遺産のうち家財道具一式については、当事者全員の立会いの下、形見分けを行うものとし、その日程については当事者間で別途協議する」などの合意を中間合意または調停条項として記載することが考えられます。
STEP3:美術品等を遺産分割の対象とする場合
美術品等について、相続人が処理の明確化を希望する場合には、次のような方法で対応します。
遺産分割の一部成立として調停調書に記載する方法と、遺産分割とは別枠の合意として期日調書に記載する方法があります。たとえば、特定の相続人が被相続人の居住していた建物を取得する合意がある場合に、その建物内にある家財道具一式も併せて取得することを調停条項に記載する例があります。この場合、調停調書の遺産目録には「遺産目録記載1の建物内にある被相続人所有の家財道具一式」などと記載し、一応の特定をしておきます。
評価については、相続人の意向に委ねることになります。相続人全員が0円でよいと合意することもありますし、家財道具一式を取得する相続人が「10万円」でよいという意向であれば、その分だけ具体的取得分が少なくなる当事者自身の意向ですから、「10万円」とすることもできます。
STEP4:評価の確定が必要な場合
美術品や貴金属などについて、相続人間で評価の合意ができない場合は、次のような方法で評価を確定していきます。
美術品や古銭・切手等については、専門業者や専門誌の査定を利用します。貴金属や時計については、古物商やリサイクル市場での買取価格・販売価格が目安になります。被相続人が著名な作家の絵画や陶器を所有していた場合など、相続人の中には美術品等の客観的価値に着目して、評価を確定しないまま(評価を0円として)遺産分割を進めることに同意しない方もいます。この場合、特定がされれば遺産分割の対象となり、複数の専門業者の査定書や、販売価格が掲載されている専門誌・カタログなどを提出してもらい、評価を調整していくことになります。
相続人全員の合意ができなかった場合には、鑑定の実施を検討することもあります。ただし、鑑定には費用(鑑定そのものの費用に加え、運搬費用や保険料等)と時間がかかるため、実施するかどうかは慎重に検討する必要があります。
なお、古銭や切手は、業者が査定しても額面通りとなることが多いのが実情です。相続人全員が現物での取得を希望しなければ、現金化した上で代償財産として遺産分割を行うことも考えられます。
美術品等が複数ある場合には、相続人それぞれの思い入れによる希望に沿って取得することが多いようです。希望が重なった場合には、くじ引きやじゃんけんで順番を決めて分配するという事例もあります。

