遺産の評価はいつの時点の価格で行いますか?

回答

遺産の評価は、原則として遺産分割時(現実に分割する時点)の価格を基準に行います。相続開始時ではなく分割時を基準とするのは、相続人間の公平を図るためです。ただし、当事者全員の合意があれば、相続開始時の評価額を基準とすることもできます。また、特別受益(民法903条)や寄与分(民法904条の2)が問題となる場合には、相続開始時と遺産分割時の2時点での評価が必要になります。

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評価基準時の意味と趣旨

遺産分割は、現金・預貯金・株式・不動産・動産などから構成される総遺産を、具体的相続分に応じて相続人に公平かつ適正に分配する手続です。そのためには、各遺産の経済的価値を評価する必要があります。

ここで問題となるのが、いつの時点の価格で遺産を評価するかという「評価基準時」の問題です。

遺産分割において分割の対象となる遺産は、①被相続人が相続開始時に所有し、②現在(分割時)も存在する、③未分割の、④積極財産です。遺産は「現に存在するもの」を分割するのですから、遺産分割時の評価額を基準にして確定し分割するのが原則とされています。

仮に相続開始時を評価の基準時とすると、相続開始後に価値が下落した遺産を取得する相続人と、価値が維持または上昇した遺産を取得する相続人との間で不公平が生じてしまいます。分割時を基準とすることで、現実の価値に即した公平な分割が可能になります。

「遺産分割時」の具体的な時点

ここでいう「遺産分割時」とは、具体的には次のとおりです。

  • 調停の場合: 調停成立が予定される期日の直近の時点
  • 審判の場合: 審判日の直近の時点(調停に代わる審判を含みます)

実際の遺産分割時(調停成立日又は審判確定日)と、評価の基準とした時点との間に一定の間隔が生じるのはやむを得ません。

評価基準時の変更と例外

当事者全員の合意による変更

遺産分割は当事者の合意により分割することができるものですから、当事者全員が合意すれば、相続開始時の評価額を基準にすることもできます。

たとえば、相続開始時から遺産分割時までの期間が短い場合で、土地の地価にほとんど変動がなく、預貯金も相続開始後の払戻しがなく利息による増加しかないような場合には、相続開始時の価格を基準とする合意がされることがあります。

また、当事者全員の合意により、遺産ごとに評価の基準時を変えることも可能です。たとえば、不動産についてはほとんど変動がないから相続開始時の価額を評価とし、預貯金については相続開始後の引出しがあったから遺産分割時の残高を評価とするといった扱いです。

2時点評価が必要な場合

特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)や寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)が主張されている場合には、相続開始時の評価額に基づいて具体的相続分を計算する必要があります。そのため、遺産分割時と相続開始時の2時点の評価を確定することになります。

ただし、この場合でも当事者全員が合意すれば、相続開始時又は遺産分割時の評価額のいずれか1時点を基準にすることができます。もっとも、相続開始時から遺産分割時までの期間が長く、遺産の価額に一定の変動がある場合には、2時点での評価を確定するのが相当でしょう。

各財産ごとの評価基準時の実際

評価基準時の原則は「遺産分割時」ですが、財産の種類によって実務上の取扱いには違いがあります。

財産の種類評価の基準時備考
不動産遺産分割時(直近の時点)当事者間で合意できない場合は鑑定を実施。合意による場合は査定書・固定資産税評価額・路線価等を参考にすることが多い
預貯金遺産分割時の残高調停成立が予定される期日又は審判日の直近の残高証明書で確定
上場株式遺産分割時の直近の終値証券会社のホームページや新聞の株式欄の写しで確定
非上場株式遺産分割時客観的資料がないため、当事者間の合意又は株価鑑定により確定

たとえば、被相続人Aの遺産として自宅不動産(土地・建物)と預貯金2,000万円がある場合で、相続開始から3年後に調停が成立する場面を考えます。この場合、不動産は調停成立直近の時点で評価し、預貯金は調停成立直近の残高で評価するのが原則です。

なお、預貯金について特別受益や寄与分の主張がされ、不動産については2時点評価が必要となった場合でも、預貯金については相続開始時の評価も遺産分割時の評価(残高)も1時点で確定させることが多いのが実際です。これは、残高の変動が利息や公共料金の引落し等によるものであり、相続開始後は本来口座の出入金が止められてしかるべきものだからです。

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