遺産分割で一度合意した不動産の評価額を後から変更できますか?

回答

家事事件では、民事訴訟のような自白の拘束力がないため、一度合意した不動産の評価額の撤回が法律上許されないわけではありません。ただし、一旦した合意は尊重されるべきであり、撤回がこれまでの経過に照らして信義則(民法1条2項)に反すると判断される場合もあります。撤回された場合には、不動産鑑定を実施して評価を確定する必要が生じます。

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結論

遺産分割の調停や協議において、当事者全員で合意した不動産の評価額を、後から一方的に撤回(変更)することは、法律上一律に禁止されているわけではありません。

家事事件手続は、民事訴訟とは異なり、自白の拘束力(当事者が認めた事実に裁判所が拘束される効力)がありません。そのため、調停の場で一度合意した評価額についても、法的には撤回すること自体は可能です。

ただし、一旦した合意を尊重することが望ましいとされており、これまでの調停の経過からして、撤回が信義則(民法1条2項)に反すると評価される場合もあります。特に手続代理人弁護士が就いている当事者については、合意することの意味や法律上の問題点を理解した上で合意したと考えられるため、その撤回が信義則違反に当たるといえる場面が多いでしょう。

根拠と条件

撤回が問題となる場面

遺産分割の調停では、遺産である不動産の評価額について当事者全員が合意した後、その合意を前提に分割方法の調整が進められます。しかし、調停が成立間近になった段階で、代償金額に不満を持ち始めたなどの理由から、一旦合意した評価額の撤回を主張する当事者が現れることがあります。

このような場合、評価の合意を前提として調停での他の当事者の主張や意向が形成されてきた以上、一方的な撤回は他の当事者の利益を損なうおそれがあります。

信義則違反に当たり得るケース

撤回が信義則違反と判断されやすいのは、次のような場合です。

  • 合意に基づき分割方法の調整が相当程度進んでいた場合
  • 手続代理人弁護士が就いており、合意の法的意味を理解した上で合意していた場合
  • 中間合意として調書に記載されていた場合

なお、評価合意の撤回が問題となるのは、不動産の評価を合意した場合に限られません。非上場株式の評価を合意した場合、遺産の範囲(債権の有無・額や現金の額等)を合意した場合、特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)を自認した場合、他方当事者の寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)を認めた場合なども同様です。

具体的な場面での適用

撤回が認められなかった場合

調停委員会としては、評価合意の撤回を言い始めた当事者に対し、一旦した合意を尊重するよう説得し、撤回の取下げを促すことになります。中間合意として調書に記載していた場合には、その調書を示して説得することも考えられます。

撤回が認められた場合(評価の再確定が必要な場合)

当事者が合意の撤回を取り下げず、評価の確定を改めて行う必要がある場合には、不動産鑑定を実施して評価を確定することになります。

この場合、評価合意を撤回した当事者に鑑定費用を全額予納させて鑑定を実施するという運用が考えられます。他の当事者からすれば、一旦合意により評価の確定ができていたにもかかわらず、後の撤回により鑑定を実施せざるを得なくなったのですから、その費用を負担しなくてはいけない理由がないためです。また、合意を撤回した当事者は、費用の予納だけでなく、他の当事者の意向から費用の最終的な負担もすることになると思われるため、調書又は書面による申出でこの点を明確にしておく必要があります。

なお、鑑定費用の全額予納というデメリットを踏まえて、評価合意の撤回を取り下げ、一旦した合意に戻るケースもあります。

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