親に大学の学費や留学費用を出してもらった場合、特別受益になりますか?
大学の学費は、原則として親の扶養義務の履行の範囲内であり、特別受益(民法903条1項の「生計の資本としての贈与」)には当たりません。ただし、私立大学の医学部・歯学部・薬学部など、学費が特に高額となる場合には、生計の資本としての贈与と評価され、特別受益と認められることがあります。
結論
大学の学費や留学費用を親に出してもらったとしても、それが直ちに特別受益(被相続人から生前に受けた特別な利益)になるわけではありません。原則として、大学の学費は子の資質・能力等に応じた親としての扶養義務の履行であり、生計の資本としての贈与とは評価できないとされています(民法903条1項)。
ただし、私立大学の医学部・歯学部・薬学部のように学費が特に高額になる場合には、将来の職業に直結する生計の資本としての贈与と評価され、例外的に特別受益と認められる可能性があります。
根拠と条件
特別受益の対象となる「学資」の範囲
特別受益(民法903条1項)の対象となる生前贈与は、「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与」に限られます。学費が特別受益になるかどうかは、この「生計の資本としての贈与」に当たるかどうかで判断されます。
ここでいう「学資(教育費)」とは、基本的には入学金や授業料を指しますが、その間の生活費や下宿代、留学時の渡航費用なども含まれる場合があります。
原則:大学の学費は扶養の範囲内
現在、全国の高校の進学率は97%を超えており、高校卒業までの教育費は、被相続人が扶養義務者である場合には、扶養義務の履行に基づく支出と見るべきとされています。
高校卒業後の教育(専門学校、大学、留学、留学に準ずる海外旅行の費用等)の学資についても、私立の医科・薬科等の大学の入学金・授業料のように特別に多額のものでない限り、子の資質・能力等に応じた親の子に対する扶養義務の履行に基づく支出とみることができます。
したがって、大学の学費については、原則として、子の資質・能力等に応じた親としての扶養の範囲内の贈与であり、生計の資本としての贈与とは評価できず、特別受益と認められることはないといえます。
大阪高裁は、被相続人の子供らが当時としては高等教育と評価できる教育を受けていた事案において、子供の個人差等により費用に差が生じていたとしても、通常は親の子に対する扶養の一内容として支出されるものであり、特別受益と評価しうるとしても、特段の事情のない限り、被相続人の持戻し免除の意思が推定されるべきであると判断しています(大阪高決平成19年12月6日)。
名古屋高裁も、大学院の学費および10年間に及ぶ海外留学費用が争われた事案において、被相続人の生前の資産状況・社会的地位に照らし、子に高等教育を受けさせることが扶養の一部と認められる場合には特別受益には当たらないとし、仮に特別受益に該当するとしても持戻し免除の意思表示があったと認めるのが相当であると判断しています(名古屋高決令和元年5月17日)。
例外:医学部等の高額な学費
例外として、私立大学の医学部・歯学部・薬学部(以下「医学部等」)の学費が挙げられます。医学部等については、入学金、授業料、施設費、寄付金等がかなり高額になること、また、医師試験の合格率の高さからすると将来の職業に直結するものといえ、生計の資本としての贈与と評価され、特別受益と認められる可能性が高いといえます。特に私立大学の医学部等の学費等については、国公立大学のそれより高額であり、特別受益として認められやすいといえます。
判断の考慮要素
学費が特別受益に当たるかどうかは、以下のような事情を総合的に考慮して判断されます。
- 被相続人の生前の資産状況・社会的地位
- 被相続人の家庭の教育水準
- 他の相続人との比較(他の相続人も同様の教育を受けているか)
- 学費の額(私立か国公立か、医学部等か一般の学部か)
- 被相続人の遺産の規模に照らした学費の割合
相続人全員が同様の教育を受けている場合
相続人全員が大学教育を受け、ほぼ同額の受益を受けている場合には、「特別受益として考慮しない」とするのが相当です。これは、全員が同程度の利益を受けている以上、持ち戻しをしても各相続人の具体的相続分に影響がないためです。
具体的な場面での適用
設例1:きょうだいの一部だけが大学に進学したケース
被相続人Aの相続人は、長男B・長女C・二男Dの3名です。Bは高校卒業後に就職しましたが、CとDはそれぞれ私立大学(一般の学部)に進学し、Aが学費を負担していました。Bは、CとDの大学進学費用が特別受益に当たると主張しています。
この場合、CとDの大学の学費は、一般の学部であれば、原則として親の扶養義務の範囲内と評価され、特別受益にはならないと考えられます。きょうだいのうち1名だけが大学に進学しなかった場合には、進学しなかった相続人が不公平を感じることは理解できますが、学費が特別受益として認められる可能性は低いといえます。
なお、調停の実際においては、特別受益としてではなく、当事者間の不公平感を考慮した遺産分割の調整が行われることもあります。
設例2:きょうだいの一人だけが私立大学の医学部に進学したケース
被相続人Aの相続人は、長男B・長女Cの2名です。Bは国立大学の法学部に進学し、Cは私立大学の医学部に進学しました。Aが学費を負担しています。
この場合、Bの学費は扶養の範囲内として特別受益にはならないと考えられます。一方、Cの私立大学医学部の学費は高額であり、将来の職業に直結する生計の資本としての贈与と評価され、特別受益と認められる可能性があります。特別受益となる場合、その額は入学金・授業料等の実際の支出額が基準となります。

