前妻の子や認知した子の有無をどのように調査したらいいですか?

回答

前妻との間の子や認知した子(非嫡出子)も、嫡出子と同順位の第1順位の相続人となります(民法887条1項、900条4号)。これらの子の有無は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本を漏れなく取得し、(1)婚姻・離婚の履歴、(2)認知届出の記載、(3)子の続柄欄、(4)改製事項の読み取りを通じて確認します。相続人を一人でも欠いた遺産分割協議は無効となるため、調査段階での網羅的確認が不可欠です。

目次

調査・手続の概要

民法上、被相続人の「子」は第1順位の相続人となり、実子・養子、嫡出子・非嫡出子の別を問わず同順位で相続します(民法887条1項。相続分は嫡出子と非嫡出子で同等です。最大決平成25年9月4日を受けた民法900条4号の改正)。したがって、被相続人が現在の配偶者との間にもうけた子だけを「相続人」と思い込んで遺産分割を進めると、認知した子や前妻との間の子が後日判明したときに、遺産分割協議そのものが無効になります

これらの「見落とされやすい相続人」を把握する唯一の客観的資料は、戸籍です。具体的には、被相続人の出生から死亡までの戸籍を漏れなく辿り、その記載内容を読み解くことで確認します。

申請主体・申請先・必要書類

申請主体

相続人は、相続手続のために必要な範囲で、被相続人の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本を請求できます(戸籍法10条の2第1項3号)。第三者請求と異なり、相続人による請求は、理由を詳細に明示する必要はなく、「相続のため」と記載すれば足ります。

申請先

戸籍の種類申請先
現在戸籍・除籍・改製原戸籍その戸籍の本籍地を管轄する市区町村役場の戸籍住民課
戸籍附票(住所履歴)同上(本籍地の市区町村役場)

2024年3月から始まった戸籍の広域交付制度により、本籍地以外の市区町村役場でも、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の戸籍を一括取得できるようになりました(戸籍法120条の2)。ただし、兄弟姉妹の戸籍は広域交付の対象外であり、また代理人による請求も対象外です。

必要書類

書類内容・取得先
戸籍謄本等交付請求書各市区町村の窓口またはホームページ
申請者の本人確認書類(広域交付では顔写真付きが必須)運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等
被相続人と申請者の関係を示す戸籍(広域交付以外で関係証明が必要な場合)各人の本籍地
委任状(代理人による郵送・窓口請求の場合)各市区町村の様式

手数料

戸籍関係の手数料は、地方自治法227条に基づき各市区町村の手数料条例で定められており、地方公共団体の手数料の標準に関する政令(平成12年政令第16号)に基づき多くの自治体で次のように運用されています(例:名古屋市手数料条例、岡山市手数料一覧、新宿区案内ページ等)。

証明書1通あたり
戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)450円
除籍全部事項証明書(除籍謄本)750円
改製原戸籍謄本750円
戸籍附票自治体により異なる

※最新の金額は各自治体の手数料条例で要確認。

申請の流れ

ステップ1:最新の戸籍から取得を開始する

被相続人の死亡時の本籍地で「現在戸籍(死亡の記載のある戸籍)」を取得します。本籍地が不明な場合は、被相続人の住民票の除票(本籍記載のもの)で確認します。

ステップ2:従前戸籍をさかのぼる

死亡時の戸籍に「○○市○○町から転籍」「○○年○月○日改製」等の記載があれば、その従前戸籍を取得します。これを、被相続人の出生まで繰り返します。

戸籍は、(a)転籍、(b)婚姻による新戸籍編製、(c)戸籍法の改正による戸籍の改製、(d)戸主の隠居(旧民法時代)、などのタイミングで新たに編製されるため、一つの戸籍に被相続人の生涯がすべて記録されているわけではありません。過去の戸籍ほど、現在の戸籍には反映されない記載(認知・離婚・離縁等)が残っているため、改製原戸籍まで丁寧に遡ることが不可欠です。

ステップ3:広域交付制度の活用

2024年3月以降は、最寄りの市区町村役場で被相続人(直系尊属・直系卑属の関係)の戸籍を広域交付で一括取得できます。ただし、(a)コンピュータ化されていない古い戸籍、(b)兄弟姉妹の戸籍、(c)代理人請求、は広域交付の対象外なので、これらは従来通り本籍地への個別請求が必要です。

所要期間と費用

  • 窓口請求:即日交付(本籍地)
  • 郵送請求:1〜2週間程度
  • 広域交付:最寄り役場の窓口で即日(ただし古い戸籍は後日交付になることがある)
  • 1名分の出生〜死亡までの戸籍一式で数千円程度

取得した戸籍で確認すべき項目

戸籍は単に「集める」だけでなく、記載内容を項目ごとに読み解くことが調査の核心です。以下の項目を順に確認していきます。

婚姻・離婚の履歴

戸籍には、過去の婚姻と離婚の履歴がすべて記載されます。

調査のポイント
  • 婚姻による新戸籍編製の記載:「○○年○月○日 ○○(前妻氏名)と婚姻 ○○市○○町○番地より入籍」等の記載があれば、過去に婚姻していたことが分かります。
  • 離婚の記載:「○○年○月○日 ○○(前妻氏名)と協議離婚」「○○年○月○日 ○○と離婚 同人除籍」等の記載があれば、その婚姻が解消されたことが分かります。
  • 婚姻期間中の子の有無:婚姻期間中の戸籍に「長男 ○○」「長女 ○○」等の記載があれば、その子は被相続人の嫡出子です。離婚により母が除籍されても、子の身分関係は失われないため、その子は被相続人の相続人となります。

被相続人が再婚している場合、現在戸籍だけを見ても前妻の子の存在は明らかになりません。婚姻による新戸籍編製の前(=前婚時代)の戸籍まで遡って初めて、前妻の子の有無が確認できます

認知届出の記載

被相続人(父)が婚姻外の子を認知した場合、その事実は被相続人の戸籍にも記載されます。

調査のポイント
  • 父の戸籍の「身分事項」欄に「認知 【認知日】○○年○月○日 【認知した子の氏名】○○ 【認知した子の戸籍】○○市○○町○○番地」等の記載が現れます。
  • 認知された子は母の戸籍に在籍したままで、父の戸籍に移籍するわけではありませんが、父の戸籍にも認知の事実は反映されます。
  • 認知届出を確認する際は、改製・転籍を経た戸籍では認知の記載が新戸籍に転記されない場合があるため、現在戸籍のみで判断せず、改製原戸籍・除籍まで遡って確認することが望まれます

子の続柄欄

戸籍に記載された「子」の欄を一覧化し、漏れがないか確認します。

調査のポイント
  • 続柄表記:嫡出子は「長男」「長女」「二男」「二女」等と記載されます。非嫡出子(認知子)は、かつては「男」「女」と記載されていましたが、平成16年戸籍法施行規則改正以降は「長男」「長女」等と統一して記載されるようになりました。
  • 死亡・除籍事由:子が死亡している場合は「死亡」「除籍」の記載があります。死亡した子に子(被相続人の孫)がいれば代襲相続人となるため、死亡した子の戸籍も別途取得して確認する必要があります(民法887条2項)。
  • 養子縁組の記載:「養子縁組」の記載があれば養子の存在が、「離縁」の記載があれば養子縁組の解消が確認できます。

改製事項

戸籍は、戸籍法の改正等により複数回にわたって書き換え(改製)されてきました。改製の際、改製時点で効力のない事項は新戸籍に転記されないことが多くあります。

調査のポイント
  • 戸籍の冒頭に「改製 【改製日】平成○年○月○日 【改製事由】平成6年法務省令第51号附則第2条第1項による改製」等の記載があれば、それ以前の戸籍が「改製原戸籍」として別途存在します。
  • 主な改製のタイミング:(a)明治31年式戸籍→大正4年式戸籍、(b)大正4年式戸籍→昭和23年式戸籍(戸主・家族制度の廃止、夫婦と未婚の子を単位とする戸籍へ)、(c)昭和23年式戸籍→平成6年式戸籍(コンピュータ化)。
  • 認知・離婚・離縁等の「過去の身分変動」は改製原戸籍にしか残っていないことが多いため、現在戸籍だけで判断せず、改製原戸籍まで必ず取得することが鉄則です。

転籍履歴

被相続人が本籍地を変更(転籍)している場合、転籍前後の戸籍を別々に取得する必要があります。

調査のポイント
  • 「転籍 【転籍日】○○年○月○日 【従前本籍】○○市○○町○○番地」の記載から、従前本籍地を特定します。
  • 転籍前の戸籍に、現在戸籍にはない過去の身分関係(離婚した前妻・離縁した養子・認知した子等)が記載されていることがあります。

相続トラブルに備えたアドバイス

相続人を欠く遺産分割協議は無効

民法上、遺産分割協議は共同相続人全員の合意によって成立するものとされており、相続人を一人でも欠いた協議は無効です。協議成立後に認知子や前妻の子が判明した場合、それまでに進めてきた遺産分割協議は当然に効力を生じず、原則として全部やり直しとなります

加えて、不動産の相続登記や預貯金の解約手続を「無効な協議書」に基づいて行っていた場合、後日その効力を争われ、登記の更正・抹消や金銭の返還等の波及的な問題が生じます。

このリスクを最小化するためには、遺産分割協議に着手する前に、被相続人の出生から死亡までの戸籍を漏れなく取得し、認知した子・前妻の子の有無を確実に確認しておくことに尽きます。判明した相続人が一人でもいる場合は、その者を協議に加える必要があります。

再婚家庭では特に注意

被相続人が再婚しており、現在の配偶者との間に子がいる場合、相続人が「現配偶者+現配偶者との子」だけで完結すると考えがちです。しかし、前妻との間の子は、離婚により母が他家へ去っていても、依然として被相続人の第1順位の相続人です。

調査の段階で、被相続人の婚姻履歴を遡って確認し、前婚時代の戸籍を必ず取得することをお勧めします。前妻の子と長年没交渉であっても、相続権は失われません。

認知した子の権利は遡及的

民法上、認知の効力は子の出生時に遡るとされています(民法784条本文)。つまり、認知した子は出生時から父との親子関係があったことになり、相続権を含むすべての権利義務関係が遡及的に確定します。

被相続人(父)が生前に認知した事実は戸籍に明確に残るため、改製原戸籍まで丁寧に遡って認知欄を確認することが望まれます。認知した子が判明した場合、その子は他の嫡出子と同順位・同相続分で相続人となります。

死後認知(民法787条但書)と価額の支払請求権(民法910条)

被相続人の死亡後に「子」が認知の訴え(民法787条)を提起することができ、被相続人の死亡から3年以内に限り認められます(民法787条但書)。

被相続人の死亡後に他の相続人による遺産分割が既に完了しているところに、後から認知された子が現れた場合、認知子は遺産分割のやり直しを求めることはできず、他の共同相続人に対して相続分相当額の価額の支払を請求できるにとどまります(民法910条)。

調査の段階で、被相続人と婚姻関係になかった女性との間に子の存在が疑われるような事情(被相続人の生前の言動、預貯金の定期送金の存在等)があれば、戸籍だけでなく周辺事情も含めて慎重に検討することが望まれます。

現在戸籍だけで判断しない

実務上、最も多い見落としは「現在戸籍に記載がないから前妻の子・認知した子はいない」と早合点してしまうケースです。現在戸籍は、改製時点で効力のない事項を転記していないため、過去の身分変動を確認するには改製原戸籍まで遡ることが不可欠です。

特に、(a)平成6年式戸籍(コンピュータ化された戸籍)のみを取得して判断しないこと、(b)戸主時代の戸籍(旧法戸籍)に至るまで連続して取得すること、を徹底することをお勧めします。

前妻の子・認知した子が判明したときの実務対応

前妻の子・認知した子と長年没交渉である場合、連絡を取ること自体に心理的抵抗が生じることがあります。しかし、相続人として参加しないままの協議は無効であり、後日問題が顕在化したときの負担は計り知れません。

戸籍附票で住所を特定し、書面で連絡するのが現実的な方法です。連絡内容は、(a)被相続人の死亡の事実、(b)自己が相続人の一人であることの通知、(c)遺産分割協議への参加意思の確認、にとどめ、感情的なやり取りを避けることが望まれます。

取得した戸籍は原本で保管する

取得した戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本は、原本のまま大切に保管してください。遺産分割協議・調停・審判、不動産登記、相続税申告等の各場面で、原本の提示が求められることがあります。法定相続情報一覧図を取得しておくと、原本提示の代わりに一覧図1通で足りる手続が多くなり、戸籍原本を温存できます。

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