遺言書の有無を教えてもらえない場合、どうすればよいですか?

回答

遺言書の有無は、(1)自宅などの保管場所、(2)公証役場(公正証書遺言の検索)、(3)法務局(自筆証書遺言書保管制度の照会)の3か所を網羅的に確認することで、相続人が自ら横断的に把握できます。公正証書遺言検索および法務局における自筆証書遺言書保管制度の照会は、いずれも相続人の一人が単独で請求でき、他の相続人の同意は不要です。なお、遺言書を隠匿・破棄した者は相続欠格事由に該当し、相続人となれません(民法891条5号)。

目次

調査・手続の概要

被相続人が遺言書を残しているかどうかは、その後の相続手続の方向性を決める重要な前提です。遺言書がある場合、遺産は原則として遺言書で指定されたとおりに承継されるため(受遺者が指定されたとおりに承継します)、遺言書の有無を確認しないまま遺産分割協議を進めると、後から遺言書が発見された場合に協議のやり直しを余儀なくされるおそれがあります。

民法上、遺言の方式には、普通方式として自筆証書遺言(民法968条)・公正証書遺言(民法969条)・秘密証書遺言(民法970条)の3種類、特別方式として死亡危急者遺言等(民法976条以下)があります。これらの方式によって遺言書の保管場所が異なるため、調査の進め方も保管場所ごとに分かれます。

被相続人の遺言書を網羅的に探すには、次の3か所を全て確認することが基本です。

保管場所確認できる遺言書の種類照会主体
自宅・貸金庫等自筆証書遺言(保管制度未利用のもの)・秘密証書遺言・特別方式遺言の原本相続人(物理的に保管場所を確認)
公証役場公正証書遺言・秘密証書遺言の存否相続人の一人が単独で照会可能
法務局自筆証書遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言の存否相続人の一人が単独で照会可能

公証役場と法務局における照会は、いずれも相続人であれば一人でも請求できる仕組みになっており、他の相続人の同意や立会いは不要です。同居していた相続人が遺言書の有無について教えてくれない、あるいは隠匿が疑われる場合でも、相続人が自ら3か所への照会を進めることで、遺言書の存否は相当程度まで網羅的に把握できます。

申請主体・申請先・必要書類

申請主体

公証役場での公正証書遺言検索、法務局での自筆証書遺言書保管制度の照会は、いずれも相続人(その他の法律上の利害関係人を含む)の一人が単独で請求できます。他の相続人の同意・印鑑等は不要です。代理人による請求の場合は委任状が必要です。

申請先と確認方法

保管場所申請先・確認方法
自宅・貸金庫等被相続人の自宅(机・金庫・タンス・仏壇・書斎等)、被相続人名義の貸金庫
公証役場全国どこの公証役場でも照会可能(郵送・インターネットによる検索申出は不可、来庁が必要)
法務局全国の遺言書保管所(法務局)に対して、郵送または来庁(要予約)で請求

必要書類

公証役場

公正証書遺言検索システムで必要となる主な書類は、次のとおりです。

書類内容
遺言者が死亡した事実を証明する書類除籍謄本等
申出人が遺言者の相続人であることを証明する戸籍謄本(相続人以外の利害関係人の場合は別途取扱)
申出人の本人確認書類マイナンバーカード、運転免許証等の顔写真付き公的身分証明書
または実印および印鑑登録証明書(発行後3か月以内のもの)
手数料遺言検索の申出は無料

法務局

法務局の遺言書保管事実証明書の交付請求で必要となる主な書類は、次のとおりです。

書類内容
交付請求書(法務省公式様式)法務省ホームページからダウンロード可能
遺言者が死亡したことを確認できる書類戸籍(除籍)謄本等(原本)
請求者の住民票の写し(原本または原本証明付きコピー)
請求者が相続人の場合:遺言者の相続人であることが確認できる戸籍謄本(法定相続情報一覧図の写しで代用可)
顔写真付きの身分証明書運転免許証、マイナンバーカード等(郵送の場合は不要)
手数料1通につき800円(収入印紙で納付)
返信用封筒と切手郵送で証明書を受領する場合

遺言書情報証明書の交付請求(内容を確認するための証明書)は1通につき1,400円です。法定相続情報一覧図の写し(住所記載あり)を利用すると、通常、審査期間が短縮されます。

申請の流れ

ステップ1:自宅・貸金庫等の物理的な確認

まず被相続人の自宅にある重要書類保管場所(金庫・タンス・引き出し・仏壇・書斎の書棚等)を確認します。自筆証書遺言(保管制度未利用のもの)、秘密証書遺言、特別方式遺言の原本は、自宅その他の物理的な場所にしか存在しません。

被相続人が貸金庫を契約していた場合、貸金庫内に遺言書を保管しているケースもあります。ただし、貸金庫の開扉手続は、原則として相続人全員の同意が必要です。

自筆証書遺言や秘密証書遺言を発見した場合、開封せずに、家庭裁判所での検認手続を経る必要があります(民法1004条)。

ステップ2:公証役場での公正証書遺言の検索

公正証書遺言は原本が公証役場で保管されており、日本公証人連合会のシステムにより、全国の公証役場で作成された公正証書遺言を一括で検索できます。最寄りの公証役場に必要書類を持参して請求します(郵送請求は不可、要本人出頭または代理人出頭)。

検索手数料は無料ですが、検索の結果、公正証書遺言が存在することが判明し、その謄本の交付を受ける場合は、別途謄本交付手数料がかかります。

検索の対象は、平成元年以降に作成された公正証書遺言です。それ以前に作成されたものはシステム検索の対象外ですが、作成された公証役場が判明している場合は、当該公証役場に直接問い合わせることになります。

ステップ3:法務局での自筆証書遺言書保管制度の照会

自筆証書遺言書保管制度(令和2年7月10日開始)を利用して法務局に保管された自筆証書遺言については、相続人等が法務局に対して「遺言書保管事実証明書」の交付を請求することで、保管されているかどうかを確認できます。保管されていることが判明した場合は、続けて「遺言書情報証明書」の交付を請求することで、遺言書の内容を確認できます。

請求は全国どこの遺言書保管所(法務局)でも可能で、郵送請求にも対応しています。事前予約制の窓口もあるため、各法務局のウェブサイトで確認のうえ手続を進めます。

なお、自筆証書遺言書保管制度を利用していた自筆証書遺言については、家庭裁判所での検認手続が不要となります。

重要な留意点として、相続人等のいずれかが遺言書情報証明書の交付を受けたり遺言書の閲覧を行うと、遺言書保管官は、その方以外の全ての相続人等に対して、関係する遺言書を保管している旨を通知します(関係遺言書保管通知)。この通知制度は、相続人による隠匿を防ぐ仕組みとして機能する一方、「他の相続人に知られずに照会する」ことができない仕組みでもあります。

所要期間と費用

  • 自宅・貸金庫の確認:数日〜貸金庫を含めると数週間
  • 公正証書遺言検索:検索自体は当日、謄本交付請求は別途数日〜
  • 遺言書保管事実証明書・情報証明書:窓口で当日、郵送請求は2週間程度

費用は、3か所合わせても、数千円程度に収まることがほとんどです。

取得した結果で確認すべき項目

3か所への照会で何らかの遺言書が発見された場合、遺言の方式によって今後の手続が変わります。発見された遺言書について、まず次の項目を確認します。

遺言の方式

発見された遺言書がどの方式によるものかを確認します。

方式確認のポイント検認の要否
公正証書遺言(民法969条)公証人作成、原本は公証役場保管。謄本に「公正証書」の表示不要
自筆証書遺言(民法968条)/保管制度利用法務局で保管。遺言書情報証明書として交付不要
自筆証書遺言(民法968条)/自宅等で発見全文・日付・氏名が遺言者本人の自書、押印必要(民法1004条)
秘密証書遺言(民法970条)公証人が外形のみ関与、本文は遺言者作成必要
死亡危急者遺言等(民法976条以下)証人3名以上の立会いによる特別方式必要(別途遺言の日から20日以内に家裁の確認が必要(民法976条4項))
調査のポイント

遺言の方式によって、検認の要否、執行手続の入り方、無効原因の主張可能性が変わります。自筆証書遺言を自宅で発見した場合は、封がされていれば開封せず、まず家庭裁判所での検認手続に進みます(民法1004条1項・3項)。

作成日付

自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する必要があり(民法968条1項)、日付が欠ければ無効です。複数の遺言書が見つかった場合は、前の遺言と後の遺言が抵触する部分について、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。

調査のポイント

作成日付が不自然な場合(例:被相続人の入院中・意識障害が疑われる時期、認知症診断後等)は、後で遺言能力(意思能力)が論点化する可能性があります。その場合、当時の医療記録・介護記録の保全の検討することになります。

遺言者の署名・押印

自筆証書遺言の場合、全文・日付・氏名の自書と押印が必要です(民法968条1項)。これらが欠ければ原則として遺言は無効です(民法960条)。

調査のポイント

自筆証書遺言の財産目録については、平成31年1月13日以降に作成されたものに限り、自書以外の方法(パソコン作成・登記事項証明書・通帳コピーの添付等)が認められています(民法968条2項)。ただしその場合も、財産目録の各ページに遺言者の署名・押印が必要です。施行日前の日付で同じ方式により作成された自筆証書遺言は無効となるため、日付との関係に注意が必要です。

遺言執行者の指定

誰が遺言の執行をするか(遺言執行者)が指定されている場合があります(民法1006条1項)。

調査のポイント

遺言執行者が指定されている場合、遺贈の履行等は遺言執行者のみが行うことができ(民法1012条2項)、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法1013条1項)。遺言執行者の指定の有無は、その後の手続の進め方に直結します。

遺留分との関係

遺言の内容が特定の相続人に過度に偏っている場合、他の相続人の遺留分(民法1042条以下)が侵害されている可能性があります。

調査のポイント

遺留分侵害の有無の判断は遺産総額の確定が前提となるため、この段階では「遺留分が問題となりうるか」を視野に入れるにとどまります。

参考リンク

機関案内ページ
法務省(自筆証書遺言書保管制度)自筆証書遺言書保管制度(法務省)
日本公証人連合会(公正証書遺言の検索に関するQ&A)Q1. 亡くなった方について、公正証書遺言が作成されているかどうかを調べることができますか?
法務局(遺言書保管所一覧)管轄/遺言書保管所一覧(法務省)

相続トラブルに備えたアドバイス

3か所への照会・確認は必ず網羅的に行う

実務上、「公証役場に確認したが見つからなかった」という理由だけで遺言書の存在を否定し、遺産分割協議に進むケースがありますが、これは危険です。公正証書遺言だけでなく、自筆証書遺言書保管制度を利用していた自筆証書遺言や、自宅で保管されていた自筆証書遺言・秘密証書遺言が存在する可能性は常に残ります。3か所すべてに対する照会・確認を行ったうえで、それでも見当たらない場合に「遺言書なし」として遺産分割協議に進むことをお勧めします。

後から遺言書が発見された場合のリスク

遺産分割協議成立後に遺言書が発見されると、遺言の内容によっては協議のやり直しが必要となる場合があります。特に、遺贈の指定や相続分の指定がされていた場合、遺言が遺産分割協議に優先するため、協議内容を見直さざるを得なくなることがあります。協議に着手する前に、3か所への網羅的な照会・確認で「遺言書なし」を確認しておくことが、後日の協議の蒸し返しを防ぐ最も確実な方法です。

遺言書を隠匿・破棄した相続人は相続権を失う(民法891条5号)

相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄または隠匿した者は、相続人となることができません(民法891条5号、相続欠格)。

ただし、最高裁は、相続人が被相続人の遺言書を破棄または隠匿した場合において、その行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、当該相続人は民法891条5号所定の相続欠格者には当たらないと判断しています(最判平成9年1月28日、いわゆる「二重の故意」)。

したがって、「遺言書を隠匿していたら直ちに相続欠格者となる」と単純に考えるのではなく、当該相続人が相続に関して不当な利益を得る目的で隠匿したと評価できるかどうかが争点となります。具体的な判断基準論には深入りしませんが、関係資料(被相続人の生前の言動を示すメール・手紙、遺言書作成を示唆していた事情等)を併せて整理しておくことが望まれます。

法務局の自筆証書遺言保管制度には「通知」の仕組みがある

自筆証書遺言書保管制度では、相続人等のいずれかが遺言書情報証明書の交付を受けたり遺言書の閲覧を行うと、遺言書保管官から、その方以外の全ての相続人等に対して、関係する遺言書を保管している旨が通知されます(関係遺言書保管通知、法務省公式情報)。

この仕組みは、一部の相続人が遺言書の存在を知りながら他の相続人に告げずに手続を進めることを実質的に困難にするものです。同居相続人による隠匿が疑われる場面では、この通知制度の存在を念頭に置いて手続を進めることで、他の相続人にも遺言書の存在が共有されます。

複数の遺言書が見つかった場合の優劣

3か所への照会・確認の結果、複数の遺言書が発見されることがあります。前の遺言と後の遺言が抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。また遺言者は、いつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができます(民法1022条)。

ただし、新しい遺言が古い遺言の一部を修正するに過ぎない場合は、抵触しない部分について古い遺言も有効に残ります。複数の遺言書の優劣関係の解釈は、後の遺産分割協議や遺言執行に直結するため、慎重に整理する必要があります。

自宅で発見した自筆証書遺言は開封しない

自宅で封のされた自筆証書遺言や秘密証書遺言を発見した場合は、その場で開封してはいけません。封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いの下で開封しなければなりません(民法1004条3項)。違反した者には5万円以下の過料があります(民法1005条)。発見した場合は、現状のまま家庭裁判所に検認の申立てをします(民法1004条1項)。

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