自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言書の照会はどのようにしますか?
自筆証書遺言書保管制度は、令和2年7月10日に施行された制度です。被相続人がこの制度を利用していた場合、相続人・受遺者・遺言執行者等は、被相続人の死亡後に、全国の遺言書保管所に対し、「遺言書保管事実証明書」(遺言書の有無を示す証明書)および「遺言書情報証明書」(遺言書の内容を示す証明書)の交付を請求できます。なお、本制度で保管されていた遺言書については、家庭裁判所の検認手続が不要となります(遺言書保管法11条)。
調査・手続の概要
自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言の原本とその画像データを法務局(遺言書保管所)で長期間管理する仕組みで、令和2年(2020年)7月10日に施行されました。根拠法は「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(平成30年法律第73号)です。遺言書原本は遺言者死亡後50年間、画像データは同150年間、遺言書保管所で管理されます。
相続調査の場面では、まず「被相続人がこの制度を利用していたか」を確認することが出発点となります。本制度の利用の有無が分からない場合でも、相続人等は次の3種類の手続によって、有無の確認・内容の取得・閲覧を進められます。
| 手続 | 内容 | 手数料 |
|---|---|---|
| 遺言書保管事実証明書の交付請求(同法10条) | 請求者自身に関係する遺言書が保管されているか否かを確認 | 1通800円 |
| 遺言書情報証明書の交付請求(同法9条1項) | 保管されている遺言書の画像情報(内容)を取得 | 1通1,400円 |
| 遺言書の閲覧請求(同法9条3項) | 遺言書のモニター閲覧または原本閲覧 | モニター1回1,400円 原本1回1,700円 |
ポイントは2つあります。第一に、本制度で保管された遺言書については、遺言書保管法11条により、家庭裁判所の検認手続(民法1004条1項)の規定が適用されません(検認不要)。第二に、関係相続人等のいずれかが遺言書情報証明書の交付または遺言書の閲覧を受けると、遺言書保管官は、遺言書を保管している旨を、ほかの相続人・受遺者・遺言執行者に通知します(同法9条5項。「関係遺言書保管通知」)。一人の相続人が手続をすることで、ほかの関係相続人等にも遺言の存在が知らされる仕組みです。
また、遺言者が生前に「指定者通知」を希望して指定者(3名まで)を登録していた場合、遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認したときに、指定された者に対し、遺言書が保管されている旨が自動的に通知されます。
申請主体・申請先・必要書類
申請主体
遺言書情報証明書の交付請求と遺言書の閲覧請求は、遺言書保管法9条1項各号に定める「関係相続人等」が行えます。具体的には、(1)遺言者の相続人(相続欠格者・廃除された者・相続放棄者を含む)、(2)遺言書に記載された受遺者・遺言執行者等、(3)その他遺言書に記載された一定の者です。
遺言書保管事実証明書の交付請求については、同法10条が「何人も」請求できると定めています。もっとも、証明書に表示される内容は、請求者自身が関係相続人等となっている遺言書が保管されているか否かに限られます。
法定代理人(親権者・成年後見人等)が代理請求することもできます。
申請先
全国312か所(令和7年6月現在)の法務局(遺言書保管所)です。データ管理されているため、遺言書情報証明書の交付請求と遺言書保管事実証明書の交付請求およびモニターによる閲覧請求は、全国どこの遺言書保管所でも可能です(遺言書保管法9条2項)。ただし、遺言書原本の閲覧は、原本を保管している遺言書保管所でしか行えません。
来庁する場合は事前予約が必要ですが、遺言書保管事実証明書および遺言書情報証明書の交付請求は郵送でも可能であり、法務省は郵送を推奨しています。
必要書類
手続の種類・請求者の立場・通知受領の有無により異なります。
| 区分 | 必要となる書類 |
|---|---|
| 共通の所定様式 | 各種交付請求書(法務省ホームページからダウンロード可) |
| 遺言者の死亡を確認できる書類 | 戸籍(除籍)謄本等。関係遺言書保管通知または指定者通知を受領している場合は、その通知書をもって代えることができる |
| 請求者の住民票の写し | 必要(関係遺言書保管通知を受けている場合も住所・氏名等の確認に必要) |
| 請求者と遺言者の関係を示す書類 | 請求者が相続人の場合:遺言者の相続人であることが確認できる戸籍謄本等(法定相続情報一覧図の写しの利用を推奨) |
| 本人確認書類(来庁の場合) | 顔写真付きの官公署発行の身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード等) |
| 法人請求の場合 | 法人の代表者事項証明書(作成後3か月以内)等 |
| 法定代理人請求の場合 | 戸籍謄本(親権者)、登記事項証明書(成年後見人等)(作成後3か月以内) |
| 手数料 | 収入印紙(遺言書保管事実証明書1通800円/遺言書情報証明書1通1,400円) |
| 郵送受領の場合 | 返信用封筒・切手(レターパック可) |
なお、法定相続情報一覧図の写し(住所記載あり)を併せて提出すると、審査にかかる期間が短くなることが、法務省により推奨されています。
申請の流れ
照会の進め方には、(A)まず遺言書の有無だけを確認したい場合と、(B)直接、遺言書の内容まで取得したい場合の二通りがあります。
ステップ1:必要書類の準備
被相続人の死亡が確認できる戸籍(除籍)謄本を取得し、自分と被相続人の関係が分かる戸籍をそろえます。法定相続情報一覧図を先に取得しておくと、ステップ2以降が大幅に効率化されます。
ステップ2(A):遺言書保管事実証明書の交付請求
遺言書が保管されているか否かを確認したい場合に行います。請求書を作成のうえ、最寄りの法務局に予約をとり、必要書類と手数料(1通800円・収入印紙)を持参して窓口で請求します(郵送請求も可能)。証明書には、請求者自身に関係する遺言書が保管されているか否かが記載されます。
ステップ3(B):遺言書情報証明書の交付請求
遺言書の内容を確認したい場合に行います。遺言書情報証明書には、遺言書の画像情報(目録を含む)が表示されており、これを使って各種相続手続(不動産登記・預貯金の解約等)を進めることができます。
請求の際には、相続人全員の戸籍謄本・住民票の写し等の追加資料が必要となります。手数料は1通1,400円です。
なお、遺言書情報証明書の交付請求がなされると、遺言書保管所から、請求者以外のすべての関係相続人等に対し、「遺言書が遺言書保管所に保管されている旨」の通知が送られます(遺言書保管法9条5項)。請求の前に、他の相続人に通知が届くことを念頭に置いておく必要があります。
ステップ4:遺言書の閲覧請求(必要な場合)
証明書だけでなく原本の状態を確認したい場合は、閲覧請求を行います。モニターによる閲覧は全国どこの遺言書保管所でも可能ですが、原本の閲覧は原本を保管している遺言書保管所でしか行えません。
所要期間と費用
- 来庁の場合は事前予約が必須(法務省ホームページ・電話・窓口で予約)
- 郵送の場合の所要期間は法務局・時期により異なる
- 手数料は前掲のとおり(収入印紙で納付)
取得した遺言書情報証明書で確認すべき項目
遺言書保管事実証明書の確認ポイント
遺言書保管事実証明書には、請求者が関係相続人等となる遺言書が保管されているか否かが記載されます。確認すべきポイントは次のとおりです。
- 保管の有無の表示:「保管されている」場合と「保管されていない」場合で記載が分かれます。「保管されていない」と記載された場合でも、本制度を使っていない遺言書(自宅保管の自筆証書遺言・公正証書遺言等)が別に存在する可能性は残ります。
- 遺言者の特定情報:請求書に記載した特定の遺言者についての証明であるため、遺言者の氏名・生年月日等の同一性を確認します。
遺言書情報証明書の確認ポイント
遺言書情報証明書には、遺言書の画像情報(目録を含む)が表示されます。確認すべきポイントは次のとおりです。
- 遺言の方式:本制度の対象は自筆証書遺言です。遺言書本文が遺言者本人の自書であり、日付・氏名の自書および押印があることが、自筆証書遺言の要件(民法968条1項)です。
- 財産目録の様式:民法968条2項により、財産目録部分は自書を要しません(パソコン作成・通帳のコピー添付等が可能)。ただし、この場合、財産目録の各ページ(両面ある場合は両面)に署名・押印が必要です。日付・本文との整合性も含めて確認します。
- 受遺者・相続分の指定:誰に何を遺すかの記載を確認します。相続人以外の者(受遺者)への遺贈の有無も重要です。
- 遺言執行者の指定の有無:遺言執行者の指定があれば、その執行を遺言執行者が行うことになります(民法1012条1項)。指定がない場合は、必要に応じて家庭裁判所に遺言執行者の選任申立てを検討します(民法1010条)。
なお、遺言書保管制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません。保管の事実が、遺言の有効性を意味するわけではない点に注意が必要です。
参考リンク
| 機関・制度 | 案内ページ |
|---|---|
| 法務省(自筆証書遺言書保管制度全般) | 自筆証書遺言書保管制度 |
| 法務省(手数料・遺言書保管所一覧) | 自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧 |
| 法務省(証明書の種類と内容) | 証明書について |
申請書様式は法務省ホームページからダウンロードできます。最新の手数料・必要書類は上記法務省ページでご確認ください。
相続トラブルに備えたアドバイス
検認不要のため、相続手続を速やかに進める
本制度の最大の特徴の一つが、家庭裁判所の検認手続(民法1004条1項)が不要となる点です(遺言書保管法11条)。通常の自筆証書遺言では、検認の申立てから完了まで一定の期間を要し、その間は遺言を用いた相続手続を進めにくいのが実情ですが、本制度を利用していた場合は、遺言書情報証明書を取得した時点で速やかに相続手続を進められます。
なお、本制度で保管された遺言書は、撤回手続による返還以外には原本が返還されないため、遺言書情報証明書を遺言書原本に代えて各種相続手続(不動産登記・預貯金解約等)に使用することが想定されています。複数の機関に同時提出する必要がある場合は、必要通数を見込んで請求することをお勧めします。
関係遺言書保管通知のタイミングを把握する
関係相続人等のいずれかが、遺言書情報証明書の交付請求または遺言書の閲覧請求を行うと、その時点で、ほかの全ての相続人・受遺者・遺言執行者に対し、遺言書を保管している旨が通知されます(遺言書保管法9条5項)。請求者だけが先に遺言の内容を知り、ほかの関係相続人等が知らない、という状態は維持できません。隠匿等を防ぐための制度設計です。
相続人間の関係性が緊張している場合、通知が引き金となって他の相続人から連絡が来ることがあります。請求のタイミングや、ほかの相続人への事前連絡の有無について、関係性に応じて判断することをお勧めします。
なお、まずは遺言の有無だけを確認したい段階では、遺言書保管事実証明書のみの取得にとどめておく選択もあります。遺言書保管事実証明書の交付は、関係遺言書保管通知の対象とはされていません(遺言書保管法9条5項は、遺言書情報証明書の交付と関係遺言書の閲覧をトリガーと定めています)。
保管制度を使っていない遺言書が他にある可能性
本制度は自筆証書遺言の保管手段の一つにすぎません。被相続人が複数の遺言書を作成していた場合、本制度に預けられた遺言書のほかに、自宅で保管されている自筆証書遺言や、公正証書遺言が別途存在する可能性があります。
遺言書保管事実証明書で本制度に保管された遺言書を確認できたとしても、また、「保管されていない」との結果が返ってきたとしても、それで遺言の調査が完結したわけではありません。最終的には、(a)本制度への照会、(b)公正証書遺言の有無の確認、(c)自宅・関係場所での遺言書の捜索の3点をセットで行うことが、遺言調査の基本となります。
なお、複数の遺言書が見つかった場合、内容が抵触する部分については、後の遺言書で前の遺言書を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。日付の確認は、複数の遺言書がある可能性を念頭において行う必要があります。
「保管=有効」ではない点に留意する
本制度では、保管申請時に遺言書保管官が外形的なチェックを行いますが、これは民法が定める自筆証書遺言の方式に適合するかどうかの確認にとどまり、遺言の有効性を保証するものではありません。遺言時の遺言者の意思能力に問題がある場合や、遺言内容に法的な問題がある場合、本制度を利用して保管されていた遺言書であっても、後に遺言無効確認訴訟等で争われる余地は残ります。
取得した証明書は原本で保管する
取得した遺言書情報証明書や遺言書保管事実証明書は、原本のまま大切に保管してください。相続手続では原本(または法務局発行の証明書)の提出を求められる場面があります。必要に応じて複数通取得しておくことも検討してください(各機関に同時提出する場合等)。

