遺産分割協議書がいきなり送られてきたらどうする?公平な相続にするポイントを弁護士が解説
他の相続人が依頼した税理士や司法書士から、いきなり遺産分割協議書が届くことがあります。専門家が作成した遺産分割協議書だから問題ないと思うかもしれません。しかし、その遺産分割協議書は、法律どおりの遺産の分け方でなく、一方的に損をしてしまう可能性があります。遺産分割協議書にサインしてしまうと、基本的に撤回できなくなりますので、サインするかどうかは慎重に検討する必要があります。相続に特化した弁護士が、いきなり送られてきた遺産分割協議書の注意点や検討のポイントを解説します。
遺産分割協議書がいきなり送られてきた場合、すぐサインしてはダメ
他の相続人に相続の手続きを任せていたら、数か月後、いきなり税理士や司法書士から遺産分割協議書が届くことがあります。
もめないことが一番大事なのであれば、深く考える必要はありません。
そのまま遺産分割協議書にサインし、送り返せばいいだけです。
しかし、遺産分割協議書は、一度サインしてしまうと、基本、撤回できません。
自分の意見を言うのが気まずくて、言いたいことを言えないままサインしてしまったら、後で後悔しても後の祭りです。
気になる点がある場合は、いきなり送られてきた遺産分割協議書にすぐサインするのではなく、一旦立ち止まってよく考える必要があります。
そもそも、こちらの意見も聞かず、いきなり送られてくるような遺産分割協議書が本当に公平なものだと思いますか?
送ってきた相続人にとって都合のいい遺産分割協議書である可能性の方が遥かに高いです。
すぐにサインをせず、遺産分割協議書の内容をよく検討してみる。
それがまずは大事です。
公平な相続にするための3つの重要ポイント
とはいえ、遺産分割協議書をただ眺めてみても、どこがおかしいのかよく分からないかもしれません。
実際、検討すべき点は多数あり、弁護士であれば、多くの点に目配りして遺産分割協議書をチェックします。
しかし、公平な相続にするためにここだけは注意!という重要ポイントはあります。
それは、
- 不動産の評価額を相続税評価額ではなく、時価で算定する
- 生前贈与(特別受益)で相続分を修正する
- 過大な寄与分には反論する
の3つです。
たとえ専門家でなかったとしても、この3つの重要ポイントを押さえておけば、納得できる遺産分割に近づけられるでしょう。
ポイント1:不動産の評価額を相続税評価額ではなく、時価で算定する
遺産に不動産がある場合、最も重要なのは、
遺産分割における不動産の評価額は、相続税評価額ではなく時価である
ということです。
誤解する方が多くおられますが、相続税評価額は、あくまでも相続税を申告する際の評価額です。
遺産分割における評価額は時価ですので、相続税申告とはそもそもの評価方法が異なります。
相続税評価額を前提として遺産分割をすると、本来あるべき遺産分割にはなりません。
税理士が遺産分割協議書を作成する場合、当然ですが、不動産の評価額は相続税評価額にすることが圧倒的に多いです。
専門家が作成した遺産分割協議書だからといって、基準が異なることは意識する必要があります。
それでは、遺産分割協議書がいきなり送られてきたら、どのように検討したらいいのでしょうか。
以下、簡単に手順を解説します。
①遺産の分け方を確認する
まずは、遺産分割協議書に書いてある遺産の分け方を確認します。
最も注意しなければならないのは、遺産分割協議書を送ってきた相続人側が不動産を相続し、こちらには代わりにお金(代償金)を支払う場合です。
これを「代償分割」といいます。
なぜ注意が必要かというと、相続税評価額をベースにした代償金だと、時価をベースとした代償金よりも低くなり、不動産を相続する相続人が有利になるからです。
不動産を相続する相続人が安く買うようなものですので、逆に言えば、代償金をもらう方は損をします
②不動産の評価方法を確認する
次に、不動産の評価方法を確認します。
不動産の評価方法は、主に公示地価、固定資産税評価、相続税評価、不動産業者の簡易査定、不動産鑑定の5つがあります。
税理士から送られてきた遺産分割協議書であれば、不動産の評価方法は相続税評価、つまり路線価基準の可能性が高いです。
司法書士や行政書士から送られてきた遺産分割協議書であれば、不動産の評価方法は固定資産税評価の可能性が高いです。
いずれも税金を計算するための評価方法であり、遺産分割における不動産の評価方法とは違います。
一般的には、時価よりも低くなりますので、注意が必要です。
③不動産の時価を算定する
前述のとおり、遺産分割における不動産の評価額は時価です。
相続税評価額でも固定資産税評価額でもありません。
つまり、税理士、司法書士、行政書士から送られてくる遺産分割協議書は、遺産分割における本来の評価額ではない可能性が極めて高いということです。
では、時価をどうやって算定したらいいか?
専門家でなくてもできるのか?
そこが問題になります。
しかし、意外と簡単な方法があります。
たとえば、固定資産税評価額は公示価格の7割、路線価は公示価格の8割を目途に設定されています(市区町村や国税庁のホームページにも記載されています)。
公示価格が時価に近いものと考え、これを逆算すれば、以下の計算式で時価に引き直すことができます。
- 固定資産税評価額×10/7
- 路線価×10/8
ただし、上記の方法は戸建て住宅を前提にしており、マンションの評価方法として使うことはできません。
マンションの場合、一つの土地の上に多数の住人が細かい敷地権を有していますし、築年数や設備内容等の個別の特性・利用状況なども価格に影響します。
周辺土地の一般的な利用状況を踏まえて設定される路線価をベースにしても、マンションの時価に引き直せるわけではありません。
かつて、タワーマンションによる相続対策がはやりました。
タワーマンションの相続税評価額と時価との差を利用した節税対策(いわゆるタワマン節税)です。
あまりにも相続税評価額と時価がかけ離れるため、近年、制度改正が行われたほどです。
タワマン節税のように、マンションの時価と相続税評価額・固定資産税評価額は、評価額にかなりの差が出るのが通常です。
10/7や10/8の算定式では、遺産分割における本来の時価に引き直すことはできません。
相続不動産がマンションの場合は、不動産業者の簡易査定書をベースに時価を算定するのが簡便です。
簡易査定書を2~3社から取得し、その平均を時価として考えれば、ある程度合理的な時価が算定できます。
実際の遺産分割調停においても、まずは簡易査定書をベースに合意を目指す場合が多いです。
簡易査定書は、通常、無料で取得できますので、費用面でのハードルも低いです。
以上の方法は、小学校レベルの算数で計算できます。
しかも、根拠がありますし、実務上も採用される評価方法です。
実際はそこまで単純ではなく、絶対のものと考えると危険ですが、簡便で分かりやすい時価の算定方法として有用です。
ポイント2:生前贈与(特別受益)で相続分を修正する
相続は「法定相続分」で分けるとよく言います。
しかし、これは、半分合っていて、半分間違っています。
生前贈与をもらっている相続人がいた場合、法定相続分で分けてしまうと、逆に不公平になります。
そのため、特別受益にあたる生前贈与については、もらった人の相続分を減らすという修正をします。
これを「特別受益の持ち戻し」といいます(民法903条1項)。
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
最大の問題は、生前贈与をどうやって見つけるかです。
生前贈与を捕捉できなければ、特別受益の持ち戻しを主張することすらできません。
しかし、痕跡を見つけるだけであれば、相続人の立場でできる方法があります。
それは、
亡くなった人の銀行口座の取引明細書を取得し、確認する
ことです。
取引明細書とは、銀行口座の出入金の履歴のことです(通帳のようなもの)。
これを見れば、送金や出金がいついくらなされたのかが分かります。
通帳を保管している相続人が開示してくれるのであれば、もちろん通帳でも構いません。
相続人の一人に送金があれば、生前贈与の可能性があります。
また、大きなお金の引出しがあれば、これも生前贈与の可能性があります。
取引明細書で判明した送金や出金を「てこ」にして、生前贈与かどうかの調査・確認をするわけです。
税理士から送られてきた遺産分割協議書にも、銀行口座の「残高証明書」は添付されているかもしれません。
しかし、残高証明書では、相続開始時の預金残高しか分かりません。
生前の送金や出金を確認するためには、取引明細書(または通帳)が必須です。
何も調査しなければ、生前贈与を見つけることができず、法定相続分で分けるしかなくなります。
しかし、取引明細書で生前贈与を見つければ、法定相続分で単純に分けようとする遺産分割協議書に反論し、修正を求めることもできます。
ポイント3:過大な寄与分には反論する
被相続人(亡くなった方)の世話をしたことなどを理由に、多くの遺産を取得しようとする相続人がいます。
被相続人に対する貢献を「寄与分」といいますが、寄与分により法定相続分を修正しようとするわけです。
もちろん、寄与分の主張自体は、別におかしなことではありません。
問題は、寄与の程度に対して過大な遺産をもらおうとするなど、不合理なレベルになりがちであることです。
寄与分の主張に対する反論のポイントは、
あらゆる貢献が寄与分になるのではなく、「特別な」貢献が必要であること
- 寄与分の算定方法はある程度決まっているため、合理的な寄与分の金額を算定すること
の2つです。
寄与分をなんとなくで決めようとすると、基準のない世界になりますので、貢献をした人が強い立場になります。
過大な寄与分の主張に対しては、法律上の根拠によって反論するのが一番です。
ただし、寄与分の主張に対して反論する際、注意点が一つあります。
たとえ法律上は寄与分にならなかったとしても、法律を振りかざしてやり込めようとすべきではない
ということです。
たとえば、何らかの貢献をした人と全くしていない人がいて、両方の相続分が同じになるのであれば、感情的に納得できないでしょう。
法律で説明しても、そうそう受け入れられないのも無理はありません。
遺産分割協議においては、法律だけでなく人の感情や良識も意識しないと、無駄にもめて話がまとまらなくなります。
ですので、自分に有利だからと言って法律を振りかざすのではなく、過大な主張には冷静に対処するというスタンスの方がいいと思います。
法律を前面に出すのは、裁判になってからでも遅くはありません(状況に応じてではありますが)。
相続の正しい理解が大事
この3つのポイントを知っておくだけでも、納得できない遺産分割協議書に反論できないまま、結局サインしてしまうということを避けられます。
しかも、高度な専門知識までは必要ないため、専門家でなくてもある程度までは対応できます。
とはいえ、もし遺産分割協議の進め方で悩むことがあれば、遠慮なくご相談ください。
東京相続弁護士法人は、相続問題の解決に特化し、「最高の相続専門店」を目指している弁護士事務所です。
よりよい解決法が見つかるよう、お手伝いさせていただきます。