共同相続人全員で売却した相続不動産の代金は誰のものか──売却代金が各持分に応じて当然分割される旨を示した事例|最判昭和54年2月22日
共有持分権を有する共同相続人全員によって相続不動産が他に売却された場合、その不動産は遺産分割の対象たる相続財産から逸出し、その売却代金は、特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々に分割取得すべきものとした最高裁判例です。本判決は、遺産分割前に共同相続人全員の合意で相続不動産が売却されたケースにおける代金債権の法的性質を最高裁として明確に示した先例として、平成30年相続法改正後も実務で機能しています。
判例情報
- 裁判所:最高裁判所第一小法廷
- 判決日:昭和54年2月22日
- 事件番号:昭和50年(オ)第736号
- 関連条文:民法250条、264条、646条、884条、898条、906条
事案の概要
本件は、亡父の相続人らが共同相続人全員で相続不動産を第三者に売却した後、代金の受領を委任された相続人の一人(上告人)に対し、他の相続人2名(被上告人ら)が委任契約に基づき自己の持分に応じた代金の引渡しを求めた事案です。これに対し上告人は、本訴請求は相続回復請求権の行使にあたり民法884条の5年の消滅時効にかかっていると主張して争いました。
登場人物
- A(被相続人):本件土地の所有者。昭和28年3月3日死亡。
- Y(上告人):Aの相続人の一人。本件土地の売却に際し、X1・X2を含む一部の共同相続人から代金受領を委任された。
- X1・X2(被上告人ら):いずれもAの相続人。Yに代金受領を委任したが、Yから代金の交付を受けなかった。法定相続分は各7分の1。
- その他のAの相続人4名:Yを含めて計7名の共同相続人。一部はYに委任せず自ら代金を受領、一部はYから代金の交付を受けていた。
時系列
- 昭和28年3月3日:A死亡。Y、X1、X2を含む7名の相続人が相続(法定相続分各7分の1)
- 昭和38年〜40年頃:本件土地を共同相続人全員で順次、静岡市、静岡県、日本道路公団に売却。一部の共同相続人はYに代金受領を委任し、Yが代金を受領
- その後:Yから代金の交付を受けた共同相続人がいる一方で、被上告人らには代金が交付されず、また一部の共同相続人はYに委任せず自ら代金を受領
- 昭和48年:第一審判決(被上告人らの請求を一部認容)
- 昭和50年4月30日:控訴審・東京高等裁判所判決(控訴棄却)
- 昭和54年2月22日:最高裁判所第一小法廷判決(上告棄却)
経緯
本件の出発点は、亡父Aが死亡し、Y・X1・X2を含む7名の子が法定相続分各7分の1で相続したことにあります。共同相続人らはその後、本件土地を共同相続人全員で順次、静岡市、静岡県、日本道路公団に売却しました。
代金受領の段階で、共同相続人ごとに対応が分かれました。一部の共同相続人はYに代金受領を委任せずに自ら代金を受領し、Yに委任した共同相続人もそのうち一部はYから代金の交付を受けています。ところが、被上告人ら(X1・X2)はYに代金受領を委任したにもかかわらず、Yから代金の交付を受けないままになりました。
被上告人らは、委任契約に基づく受任者の受取物引渡義務(民法646条)の履行として、Yに対し各自の持分に応じた代金の交付を求めて提訴しました。第一審・控訴審ともに被上告人らの請求を一部認容し、Yの控訴を棄却しています。
これに対しYは上告審で、争点を相続回復請求権の枠組みに引き直す主張を展開しました。すなわち、「本件土地の被上告人らの相続持分権ないしその売却代金債権が相続財産に加えられたという前提のもとで、それらの権利が侵害されたにもかかわらず、被上告人らは相続回復請求権により侵害排除を求めなかった。よって同請求権は民法884条所定の5年の消滅時効により消滅し、その結果、土地相続持分権ないし代金債権を行使することができなくなり、これに伴って委任契約に基づく代金交付請求もできなくなった」というものです。
最高裁は、Yの上告を棄却し、原判決を維持しました。
争点
本件の主要論点は、相互に関連する次の2点です。
争点1:本訴請求は相続回復請求権の行使にあたるか
──委任契約に基づく代金引渡請求は、相続回復請求権の行使に該当し、民法884条の消滅時効が適用されるのか。
Y側の主張:本件は実質的には相続権侵害を巡る争いであり、相続回復請求権の行使にほかならない。よって民法884条所定の5年の消滅時効により請求権は消滅している。
X側の主張:本件はあくまで委任契約に基づく受取物引渡請求(民法646条)であり、相続回復請求権の行使ではない。民法884条の適用問題は生じない。
争点2:共同相続人全員で売却された相続不動産の代金債権は、相続財産に加えられるか
──共同相続人全員によって相続不動産が第三者に売却されたとき、その売却代金は遺産分割の対象たる相続財産に加えられるのか、それとも各相続人が固有の代金債権を持分に応じて取得するのか。
Y側の主張:売却代金は相続財産に加えられ、共同相続人の一部による独占は相続権侵害にあたる。よって相続回復請求権の枠組みで処理すべきであり、民法884条の消滅時効が適用される。
X側の主張:共同相続人全員で売却された相続不動産は遺産分割の対象から逸出し、その売却代金は相続財産には加えられない。被上告人らは固有の代金債権を持分に応じて取得しているのであって、相続権侵害は考えられない。
なお、争点1と争点2は、本判決の論理構造のなかで密接に関連しています。Yは争点1で「相続回復請求権の行使だから884条で時効消滅」と主張し、その前提として争点2で「代金債権は相続財産に加えられる」と主張する構図でした。最高裁はいずれの争点でもY側の主張を退けています。
裁判所の判断
判旨の要約
- 結論1(争点1について):本件は委任契約に基づく受任者の受取物引渡義務の履行を求めるものであって、相続回復請求権の行使にはあたらない。民法884条の適用問題は生じない。
- 結論2(争点2について):共有持分権を有する共同相続人全員によって他に売却された土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々に分割取得すべきものである。
- 理由:被上告人らは売却時に共有持分権を有し、共有者として売買に加わっており、それらの権利について何らの侵害も受けていなかった。また、本件では特別の事情も認められないから、被上告人らは代金債権を相続財産としてではなく固有の権利として取得しており、同債権について相続権侵害ということは考えられない。
判決文の引用
最高裁は、本訴請求の性質について次のように判示しました。
被上告人らの上告人に対する本訴請求は、…上告人その他共同相続人とともに相続により共有持分権…を取得した第一審判決別紙物件目録記載の各土地を順次訴外静岡市、同静岡県、同日本道路公団に売却し、その代金の受領を上告人に委任したところ、上告人が受任者として代金を受領したので、上告人に対し民法六四六条所定の受任者の受取物引渡義務の履行としてその交付を求めるというものであつて、所論相続回復請求権を行使する場合にはあたらず、その請求について相続回復請求権の消滅時効を定めた民法八八四条の適用の問題を生じる余地はない。
さらに、共同相続人全員で売却された相続不動産の代金債権の性質について、次のように明言しました。
共有持分権を有する共同相続人全員によつて他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである
判例の考え方
本判決の論理は、次の4段階で整理できます。
第1に、本訴請求の性質決定。最高裁は、被上告人らの請求を、委任契約に基づく受任者の受取物引渡請求(民法646条)として性質決定しました。請求の根拠条文と請求の目的に着目した、形式的かつ明確な切り分けです。請求が委任契約に基づくものである以上、その消滅時効も委任契約に基づく請求権としてのルールに従い、相続回復請求権の短期消滅時効(民法884条)は問題になりません。
第2に、共同相続人全員による売却の効果。共同相続人「全員」が売主となって相続不動産を売却した場合、当該不動産は遺産分割の対象から逸出します。共同相続人全員の合意があれば、相続財産たる不動産も自由に処分できる以上、これは当然の帰結といえます。
第3に、売却代金の帰属。逸出した不動産の対価である売却代金については、原則として相続財産には加えられず、各共同相続人が固有の代金債権として持分に応じて取得することになります。代金債権が相続財産に加えられるとすると、改めて遺産分割を経ないと各人の取り分が確定しなくなりますが、代金は可分な金銭債権であるため、当然に各人の持分に応じて分割取得するという扱いが整合的です。
第4に、「特別の事情」の留保。判決文は「これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなど」を例として挙げ、共同相続人全員の合意により売却代金を遺産分割の対象に含める余地を残しています。これは、共同相続人の自由な意思決定を尊重する立場から導かれる例外で、合意があれば代金を遺産分割の対象として扱うこともできる、という意味です。
結論に至る処理
本件の事実関係をこれらの法理にあてはめると、被上告人らは売却時に共有持分権を有し、共有者として売買に加わっており、それらの権利について何らの侵害も受けていません。また、本件土地を売却した際、共同相続人の一部はYに代金受領を委任せずに自ら代金を受領し、Yに代金受領を委任した共同相続人もその一部はYから代金の交付を受けているなど、代金処理の実態は共同相続人ごとに区々でした。このような事実関係のもとでは、代金を一括してYに保管させ遺産分割の対象に含めるという合意はなかったと評価されます。
そうすると、被上告人らは代金債権を相続財産としてではなく固有の権利として取得しており、同債権について相続権侵害ということは考えられません。Yの相続回復請求権・短期消滅時効の主張は、その前提を欠いて失当となります。
最高裁は、こうした判断のもとに上告を棄却し、原判決(控訴棄却判決)を維持しました。これにより、被上告人らの委任契約に基づく代金引渡請求は、各持分に応じた金額について理由ありとして認められることが確定しています。
判例の射程
本判例の射程について、判決文の表現に即して整理します。
「共有持分権を有する共同相続人全員によって」の限定
判決文は、「共有持分権を有する共同相続人全員によつて他に売却された」と明示しています。本判例の射程は、相続不動産が共同相続人全員によって第三者に売却された場合に限られます。
共同相続人の一部による売却(他の共同相続人の持分まで含めた無権限処分や、自己の持分のみの処分)については、本判例の射程外です。共同相続人の一部による処分が問題となる場面では、当該処分の効力(他の共同相続人の持分との関係での無権限処分か否か)、不当利得返還請求、損害賠償請求、後述の改正民法906条の2第2項の適用といった別の枠組みで処理することになります。
「特別の事情のない限り」の留保
判決文は、「これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り」と明示的に留保しています。
共同相続人全員の合意により売却代金を遺産分割の対象に含めることとされた場合は、本判例の原則は適用されず、当該代金は遺産分割の対象として扱われます。判決文が例として挙げているのは、共同相続人の一人に代金を一括保管させ、遺産分割の対象に含める合意をする場合です。合意の認定は事実認定の問題であり、明示的な合意書面がなくとも、共同相続人間の言動や代金処理の実態から黙示の合意が認定される余地もあります。
代金債権の当然分割
判決文は、共同相続人全員で売却された相続不動産の売却代金は「共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである」と判示しています。
これは、遺産分割を経ることなく、当然に、各共同相続人が法定相続分(または相続分の譲渡等によって変更された割合)に応じた固有の代金債権を取得することを意味します。各共同相続人は、買主に対して、または代金を受領した受任者に対して、自己の持分に対応する金額を個別に請求することができます。
委任契約に基づく代金交付請求と相続回復請求権との切り分け
判決文は、委任契約に基づく受任者の受取物引渡義務(民法646条)の履行を求める請求について、「相続回復請求権を行使する場合にはあたらず、その請求について相続回復請求権の消滅時効を定めた民法八八四条の適用の問題を生じる余地はない」と判示しています。
請求の法的根拠が委任契約である場合、その請求権の時効は委任契約に基づく請求権としての時効ルールに従い、相続回復請求権の5年の短期消滅時効は問題となりません。請求の根拠条文と請求の目的によって、適用される消滅時効ルールが切り分けられる、という整理です。
関連判例
本判決が判断の根拠として明示的に引用した先例は、次のとおりです。
- 最判昭和52年9月19日(裁判集民事121号247頁):共同相続人が全員の合意により遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる、とした判例。本判決は、この先例の理を「特別の事情のない限り」という留保を付した形で踏襲し、代金が相続財産に加えられない旨をより明確に判示したものといえます。
実務での使い方
本判例は、相続実務において、相続不動産の売却代金の帰属を巡る争いで、「売却代金が当然に分割され、各共同相続人が固有の代金債権を有する」ことを基礎づける中心判例として引用します。典型的な使いどころを整理します。
使える場面
最も典型的な場面は、相続発生後・遺産分割前に共同相続人全員で相続不動産を売却し、その代金を巡って共同相続人間で争いが生じた場合です。例えば、代金を一人の共同相続人(または受任者)が受領した後に他の相続人へ分配しない場合、代金の取扱いについて意見が分かれた場合、売却代金を遺産分割の対象に含めるべきか否かで争いになる場合などが該当します。
実務では、相続税の納税資金確保のため遺産分割前に相続不動産を売却するケースは少なくありません。共同相続人全員の合意で売却まで進めたものの、代金分配の段階で争いが生じる、という展開が相続案件では見られます。本判例は、こうした場面で代金債権の性質を確定させる中心的な根拠となります。
代金の引渡しを請求する側(被上告人側の立場)
代金を受領した共同相続人(または受任者)に対して自己の持分に応じた代金の引渡しを求める場合、本判例の論理を活用します。
第1に、共同相続人全員で売却したという事実を主張・立証します。本判例の射程は「共同相続人全員」の売却に限られるため、全員が売主として参加していたことの確認が出発点になります。売買契約書、登記関係書類、代金支払関係書類で売却の主体を特定します。共同相続人の一部が代理人として包括的に手続を進めた場合は、代理権の範囲と全員の追認の有無も併せて確認が必要です。
第2に、「特別の事情」の不存在を主張します。代金を一括保管・遺産分割の対象に含める合意があったか否かは、共同相続人間のやり取り、合意書面の有無、その後の代金処理の実態から認定されます。本件のように代金処理が共同相続人ごとに区々である場合は、「一括保管・遺産分割の対象に含める合意」があったとは認定されにくくなります。
第3に、代金債権が固有の権利として取得されていることを前提に、その引渡しを求める法律構成を組み立てます。委任契約に基づき受任者に代金が渡っているケースでは、本判例と同様に民法646条に基づく受取物引渡請求として構成します。買主から共同相続人に対する代金支払が一部しかなされていないケースでは、買主に対する直接の代金請求権の行使を検討することになります。
代金を遺産分割の対象に含めることを主張する側(対抗する側)
逆の立場で「代金は遺産分割の対象に含めるべき」と主張する場合、本判例の射程と「特別の事情」の留保が入り口になります。
第1に、「特別の事情」の存在を主張・立証します。本判例の留保は限定的にしか認められませんが、共同相続人全員が代金を一括保管・遺産分割の対象に含める合意をしていたという事実(明示・黙示の合意)が立証できれば、代金は遺産分割の対象に含まれます。合意書、メール、議事録、代金処理の実態などを丁寧に拾い上げる作業になります。
第2に、平成30年改正後の事案であれば、改正民法906条の2第1項に基づく共同相続人全員の同意の主張を検討します。同条1項は、遺産分割前に処分された遺産を、共同相続人全員の同意により、遺産分割の対象に含めることを明文化したものです。本判例の留保する「特別の事情」を立法化したものといえる規定で、合意のタイミングは処分時に限られず、処分後でも全員の同意があれば対象に含めることができます。
第3に、共同相続人の一部による処分のケースであれば、改正民法906条の2第2項の活用を検討します。同条2項は、共同相続人の一部によって遺産が処分された場合、処分した共同相続人以外の全員の同意があれば、当該処分された遺産を遺産分割の対象に含めることができる、と定めています。これは共同相続人全員で売却した本判例とは場面を異にし、本判例の射程外で機能する規定です。
立証上のポイント
本件で結論を分けたのは、共同相続人全員で売却したことの認定と、「特別の事情」の不存在の認定でした。本判例から得られる立証上のポイントを整理します。
第1に、売却の主体を客観的資料で特定すること。売買契約書の売主欄、登記簿(共有持分権者全員からの所有権移転登記)、代金の流れ(誰が誰から受領したか)が中心的な証拠になります。共同相続人全員が売主として登場していること、登記原因も共有持分の全員からの売買による移転であること、を裏付ける必要があります。
第2に、代金の取扱いに関する合意の有無を、書面・関係者の証言・代金処理の実態から立証すること。本件のように代金処理が共同相続人ごとに区々(自ら受領した者、Yから交付を受けた者、Yから交付を受けていない者が混在)である場合、「一括保管・遺産分割の対象に含める合意」があったとは認定されにくい、という事実評価が参考になります。
第3に、委任関係の有無と内容の特定。本件では、代金受領の委任関係について被上告人らとYの間に成立があったか、委任の範囲はどこまでか、が前提問題として位置付けられました。第三者(共同相続人の一人を含む)が代金を受領した場面では、その者の地位(受任者か、無権限者か)で請求の構成が変わります。委任の事実は売買契約書記載・代理権授与書面・関係者間のやり取りなどから立証します。
併せて検討すべき周辺論点
(1) 平成30年相続法改正による民法906条の2との関係
平成30年改正(令和元年7月1日施行)により、民法906条の2が新設されました。同条1項は「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる」と定め、同条2項は「前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない」と定めています。
本判例は改正前の判例ですが、改正民法906条の2第1項は、本判例の留保する「特別の事情」(共同相続人全員の合意で遺産分割の対象に含めること)を立法化したものと整理できます。本判例の核心である「共同相続人全員で売却→代金は当然分割」という法理自体は、906条の2第1項による合意がない限り、改正後も原則として維持されていると考えられます。
他方、906条の2第2項は、共同相続人の一部による処分の場面を念頭に置いた規定であり、本判例の射程(共同相続人全員による売却)とは場面を異にします。共同相続人全員で売却したケースでは、906条の2第1項の合意の有無が問題になり、第2項の適用場面ではない、という整理になります。
(2) 共同相続人の一部による処分の場合
本判例は共同相続人「全員」による売却の場合の判例であり、共同相続人の一部が単独で処分した場合は射程外です。一部相続人による処分の場合、当該処分自体の効力(他の共同相続人の持分との関係での無権限処分か否か)、不当利得返還請求権、損害賠償請求権、改正民法906条の2第2項の適用などを総合的に検討することになります。
(3) 代償財産論一般
本判例は、相続財産が処分された場合に取得される「代償財産」(相続財産が処分されたことによって取得した代わりの財産)が遺産分割の対象になるか否か、という代償財産論の文脈で位置付けられる重要判例です。原則として、代償財産は遺産分割の対象にならず、法定相続分で当然に分割されるという立場が、本判例によって最高裁レベルで明示されたと整理できます。改正民法906条の2は、この原則の例外として、共同相続人全員(または処分した相続人を除く全員)の同意による遺産分割対象化を認めたものといえます。

