【判例解説】代償金を支払う資力がないなら、不動産を「競売」して現金化すべきと判断した事例(名古屋高裁平成9年10月15日決定)
- 争点:代償金(差額)を支払うお金がない相続人に、不動産を相続させることはできるか?
- 結論:裁判所は「資力がない以上、代償分割は不適切。不動産を競売にかける(換価分割)のが相当」と判断した。
- ポイント:不動産を単独で取得したいなら、「代償金を払えるだけの現金」の準備が不可欠。
事案の概要
亡くなった方(被相続人)の遺産をめぐり、相続人の間で分割方法について意見が対立し、家庭裁判所の審判、さらに高等裁判所への抗告へと発展した事例です。

遺産の中には不動産が含まれており、当初の家庭裁判所の判断(原審)では、相続人の一人(申立人)にこの不動産を取得させ、その代わりに、もらいすぎた分のお金を他の相続人に支払う「代償分割」という方法が命じられました。
しかし、不動産を取得することになった申立人には、実は十分な経済力がありませんでした。それどころか、自身の借金などが原因で、所有している財産(持分)に対して強制競売による差押えを受けているような経済状態だったのです。
これに対して、「代償金を支払う能力がない人に不動産を渡して、本当に代償金が支払われるのか?」という点が大きな問題となり、高等裁判所で改めて「正しい遺産の分け方」が争われました。
- 代償分割:特定の人が遺産(不動産など)を現物で受け取り、他の相続人には自分の取り分を超えた分の「現金(代償金)」を支払って清算する方法。
- 換価分割:遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人で分ける方法。
- 強制競売:借金が返せない人の財産を、裁判所を通じて強制的に売り払う手続き。
主な争点
代償金を支払う「資力」がない人に、代償分割を認めてよいか?
代償分割を行うには、不動産をもらう人に「代償金を支払う能力(資力)」があることが大前提です。しかし、本件の申立人は経済的に困窮し、差押えを受けている状態でした。このような状況でも、「後で払うから」として不動産の取得を認めてよいかが問われました。
対立が激しい相続人間で「共有」や「現物分割」は適切か?
本件では、相続人同士の感情的な対立が非常に激しい状態でした。この状況で、無理に土地を分け合ったり(現物分割)、あるいはとりあえず全員の共有名義にしたりすることは、将来的なトラブルの解決になるかが争点となりました。
裁判所の判断
結論
名古屋高等裁判所は、家庭裁判所の決定(申立人に不動産を取得させる判断)を取り消し、「遺産である不動産を競売に付し、その代金を相続分に応じて分配せよ」と命じました(名古屋高裁平成9年10月15日決定)。
判断の理由
裁判所がこのように判断した理由は、主に以下の3点です。
- 代償金の不履行リスク(資力の欠如)
申立人は強制競売による差押えを受けており、明らかに代償金を支払う資力がありませんでした。裁判所は、「代償金を支払う資力がない者に対して、代償金の支払いを命じる方法による分割をすることは相当ではない」と判断しました。もし認めてしまえば、他の相続人は不動産を失うだけで、お金を受け取れないリスクが高すぎるからです。 - 共有・現物分割の不適当
相続人間の感情的対立が激しいため、不動産を共有のままにしたり、物理的に分けたりすることも適当ではないとされました。顔を合わせるのも嫌な状態で不動産を共有すれば、管理をめぐって紛争が続くことは目に見えています。 - 消去法による「競売」の選択
「特定の人がもらう(代償分割)」も「みんなで持つ(共有)」もできない以上、残された最も公平な手段は、「遺産を売却してお金に換え、きっちり数字で分けること(換価分割)」であると結論づけられました。
弁護士の視点
将来のトラブルを防ぐための対策
この判例は、遺産分割において「欲しいという希望」だけでは通らないという厳しい現実を示しています。
- 「代償金」の原資を準備しておく
不動産を相続したい場合、他の兄弟姉妹に支払うための現金を準備しておく必要があります。生命保険(死亡保険金)の受取人を不動産を継ぐ人にしておくなど、生前の資金対策が有効です。 - 「共有」は問題の先送り
「とりあえず共有で」という解決は、問題の先送りに過ぎません。本裁判例のように、仲が悪い場合の共有は裁判所も避ける傾向にあります。後の世代に負の遺産を残さないためにも、スパッと解決できる分割方法を選ぶことが重要です。 - 「換価分割(売却)」も選択肢に入れる
誰も代償金を払えない、あるいは誰も住む予定がない不動産であれば、無理に取り合うのではなく、「売って公平に分ける」ことを早めに検討するのも、親族間の争いを泥沼化させない賢い選択です。

