遺産確認の訴えは共同相続人全員が当事者となる必要があるか──固有必要的共同訴訟と解した事例|最判平成元年3月28日
特定の財産が被相続人の遺産に属することの確認を求める「遺産確認の訴え」は、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟であると判断された最高裁判例です。共同相続人の一人でも当事者から漏れていれば、訴えは当事者適格を欠き、却下されることになります。本判決は、最判昭和61年3月13日が示した「遺産確認の訴えの適法性肯定」の延長線上で、訴えの当事者構成を確定させた重要判例です。
判例情報
- 裁判所:最高裁判所第三小法廷
- 判決日:平成元年3月28日
- 事件番号:昭和60年(オ)第727号
- 関連条文:民事訴訟法40条、115条、民法898条
事案の概要
本件は、被相続人A名義の土地が国に買収された後、その代替地としてA死亡後にAの妻Y名義で保存登記された土地について、Aの代襲相続人らXらが「当該土地はAの遺産に属する」ことの確認を求めた事案です。Xらは共同相続人の全員ではなく、共同相続人の一部のみで本訴を提起していました。
登場人物
- A(被相続人):本件土地の元所有者。昭和34年6月27日死亡。
- Y(Aの妻・被告・被控訴人・被上告人):本件土地について自己名義の所有権保存登記を経由した者。
- B(Aの長男・Xらの被相続人):Aの相続人だったが、Aより後の昭和42年11月17日に死亡。Bの妻と子らがBを相続した結果、Aの遺産分割に関与する地位を承継した(数次相続)。
- X1〜Xn(原告ら・控訴人ら・上告人ら):Bの妻と子ら(Bを相続することでAの遺産分割に関与する立場を承継)。本訴の原告。
- C・D・E(訴外の共同相続人):Aの長女、三女、養女。本訴の当事者にはなっていない。
時系列
- 昭和34年6月27日:A死亡
- 昭和38年1月21日:本件土地について、自作農創設特別措置法16条による売渡しを原因として、Y名義で所有権保存登記がなされる
- 昭和42年11月17日:Aの長男B死亡(Bの妻と子らがBを相続し、Aの遺産分割に関与する地位を承継)
- 昭和52年:XらがYを相手として、本件土地がAの遺産に属することの確認等を求める訴訟を提起
- 昭和58年7月11日:第一審判決(山口地方裁判所岩国支部)
- 昭和60年3月19日:控訴審判決(広島高等裁判所)。遺産確認の訴えは固有必要的共同訴訟であり、共同相続人全員で訴えを提起していないとして、当該請求部分の訴えを却下
- 平成元年3月28日:最高裁判所第三小法廷判決。上告棄却
経緯
Aは岩国市内に農地を所有していましたが、戦後の農地改革による誤った買収を経て、その代替地として本件土地が払い下げられました。もっとも、払下げ当時すでにAは死亡しており、本件土地の所有権保存登記はAの妻Y名義でなされました。
Aの死後、Aの相続人らとY側との間では、Aの遺産をめぐる争いが長年続き、家庭裁判所での遺産分割調停も成立しないまま膠着していました。Aの長男Bも遺産分割未了のまま死亡し、Bの妻と子らがBを相続することで、Aの遺産分割に関与する立場を承継しました。
そうした中、Bの妻と子ら(Xら)は、Yを相手として、本件土地がAの遺産に属することの確認を求めました。しかし、Aの共同相続人としては、Xらのほかに、訴外のAの長女・三女・養女が存在しており、これらの者は本訴の当事者になっていませんでした。
控訴審(広島高裁)は、遺産確認の訴えは共同相続人全員で訴訟追行する必要がある固有必要的共同訴訟であるとして、本件の遺産確認請求部分の訴えを却下しました。Xらが上告した結果、最高裁が控訴審判断を維持し、上告を棄却したのが本判決です。
争点
遺産確認の訴えは、共同相続人全員が当事者として関与する固有必要的共同訴訟といえるか
争点の本質的な問いは、特定の財産が遺産に属することの確認を求める訴えが、共有持分の確認訴訟と同様に通常共同訴訟として一部の共同相続人だけで提起できるのか、それとも共同相続人全員で提起しなければならない固有必要的共同訴訟なのか、という点にあります。
Xら(上告人ら)の主張としては、共有関係の確認は本来共有者各自が個別に提起できる訴えであり、共同相続人全員でなければ訴えを提起できないとする理由はない、というものでした。共同相続人による相続財産の共有は通常の物権共有(民法898条)と異ならないと考えれば、各相続人が個別に持分の確認を求めることは妨げられないはずだ、という発想です。
Y(被上告人)の主張としては、遺産確認の訴えは、当該財産が遺産分割の対象となるべき財産であることを既判力をもって確定する性質を持ち、その確定はすべての共同相続人について合一になされるべきであるから、共同相続人全員でなければ訴えは不適法である、というものでした。
裁判所の判断
判旨の要約
最高裁は、遺産確認の訴えは共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟であると判断しました。理由は、原告勝訴の確定判決が当該財産の遺産帰属性を既判力をもって確定し、その後の遺産分割審判の手続およびその確定後において当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによって共同相続人間の紛争解決に資する点にこそ、訴えの適法性を肯定する実質的根拠があるからです。
判決文の引用
最高裁は、次のように判示しました。
遺産確認の訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであり、その原告勝訴の確定判決は、当該財産が遺産分割の対象である財産であることを既判力をもつて確定し、これに続く遺産分割審判の手続及び右審判の確定後において、当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによつて共同相続人間の紛争の解決に資することができるのであつて、この点に右訴えの適法性を肯定する実質的根拠があるのであるから(最高裁昭和五七年(オ)第一八四号同六一年三月一三日第一小法廷判決・民集四〇巻二号三八九頁参照)、右訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。
判例の考え方
本判決の論理は、次の3段階で整理できます。
第1に、遺産確認の訴えの性質決定。最高裁は、遺産確認の訴えを、当該財産が「現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にある」ことの確認を求める訴えと位置付けました。形式上は過去の法律関係(相続開始時に被相続人の所有に属していたこと)の確認のようにも見えますが、実質はその財産が現に遺産共有の状態にあるという現在の法律関係の確認を求めるものだ、という整理です。
第2に、適法性の実質的根拠の特定。遺産確認の訴えが適法とされる根拠は、最判昭和61年3月13日が示したとおり、原告勝訴の確定判決によって当該財産の遺産帰属性が既判力をもって確定し、その後の遺産分割手続およびその確定後の手続でこれを争うことが許されなくなる点にあります。要するに、遺産分割の前提となる「何が遺産か」という点を訴訟で確定させ、紛争の蒸し返しを防ぐところに、この訴えの存在意義があるという理解です。
第3に、合一確定の必要性からの帰結。遺産帰属性の既判力による確定が紛争解決機能を発揮するためには、その確定が共同相続人の全員について合一になされる必要があります。共同相続人の一部にだけ既判力が及ぶのでは、後の遺産分割手続で争いが蒸し返されるおそれがあり、訴えを認める実益が損なわれるからです。そこで、共同相続人全員を当事者とする固有必要的共同訴訟と解すべきだ、という帰結に至ります。
結論に至る処理
控訴審は、本訴の遺産確認請求部分について、Aの共同相続人として訴外の長女・三女・養女が存在しており、本訴は共同相続人全員によって訴訟追行されていないとして、この請求部分の訴えを却下しました。
最高裁は、控訴審のこの判断を「同旨」として是認し、上告を棄却しました。Xらの上告理由のうち、遺産確認の訴えが固有必要的共同訴訟ではないとする主張は、独自の見解にすぎないとして退けられています。
判例の射程
本判例の射程について、判決文の表現に即して整理します。
「現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認」に限定
最高裁が固有必要的共同訴訟性の根拠としたのは、訴えの目的が「現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認」だという点にあります。したがって、本判例の射程は、遺産分割前の共有関係の確認を求める訴えに及びます。
逆に、共同相続人の一人が自己の共有持分そのものの確認を求める訴え(共有持分確認の訴え)は、各相続人が固有に処分・主張できる持分を対象とする訴えであり、本判例が直接対象としたものとは性質が異なります。共有持分確認の訴えと遺産確認の訴えは、訴訟物・既判力の範囲が異なる別個の訴えとして扱われるのが一般的です。
既判力による紛争解決機能を実質的根拠とする論理
本判決の論理は、「既判力による遺産帰属性の確定が、後続する遺産分割手続およびその確定後の手続で当該財産をめぐる争いを封じる」という点に固有必要的共同訴訟性の実質的根拠を置いています。
このため、本判決は、既判力の主観的範囲(民事訴訟法115条)を共同相続人全員に及ぼす必要があるという発想に基づいているといえ、その射程は、遺産分割審判の前提問題として遺産の範囲を確定する場面に直結する形で及びます。
共同相続人「全員」の関与
判決文は「共同相続人全員が当事者として関与し」と明示しています。ここでいう全員とは、当該財産の遺産帰属性に関する判決の効力を及ぼすべき者の全員を意味します。実務上は、戸籍上の法定相続人を漏れなく当事者にする必要があり、相続放棄をした者を除き、原告側に立たない者は被告側に回す扱いになります。
関連判例
本判決が判断の根拠として明示的に引用した先例は、次のとおりです。
- 最判昭和61年3月13日(民集40巻2号389頁):遺産確認の訴えが訴訟として適法であることを認めた判例です。同判決は、原告勝訴の確定判決の既判力によって、その後の遺産分割手続で当該財産の遺産帰属性をめぐる争いを封じることができる点に、訴えの適法性の根拠があると判示しました。本判決(平成元年3月28日)は、昭和61年判決が示したこの根拠から論理を進め、既判力が共同相続人全員に及ぶ必要がある以上、訴えの当事者も共同相続人全員でなければならないという結論を導き出しています。
実務での使い方
本判例は、遺産分割の前提として「何が遺産か」を訴訟で確定させたい場面で、訴えの当事者構成を考えるにあたって必ず押さえておくべき判例です。共同相続人を一人でも当事者から漏らせば、訴え自体が却下されるため、訴え提起前の相続人調査が決定的に重要になります。
使える場面
典型的な場面は次の3つです。
第1に、特定の財産が被相続人名義になっておらず、第三者名義になっている場面です。本件のように、被相続人の生前または死後の事情で配偶者など他の者の名義になっている財産について、「これは亡くなった被相続人の遺産だ」と主張する場合に、遺産確認の訴えを提起することになります。
第2に、共同相続人の一部が、特定の財産が遺産に属することを争っている場面です。例えば、生前贈与・生前売買があった、名義信託だった等の主張で、ある財産の遺産帰属性を争う共同相続人がいる場合、遺産分割協議や調停では遺産の範囲が確定しないため、訴訟で確定させる必要が生じます。
第3に、遺産分割審判の前提問題として遺産の範囲を確定する場面です。家庭裁判所は遺産の範囲を確定的に判断する権限を持たず、争いがあれば訴訟で決着をつけることになります。遺産確認の訴えは、この前提問題を訴訟で処理するための主要な訴訟類型です。
訴えを提起する側(遺産帰属を主張する側)
訴えを提起する側で本判例を踏まえて押さえるべきポイントは、次のとおりです。
第1に、共同相続人全員を当事者にすること。一人でも漏れていれば訴えは却下されるため、戸籍を遡って法定相続人を網羅的に確定し、漏れなく当事者にすることが訴え提起の出発点になります。代襲相続が発生している場合の代襲相続人、相続分譲渡を受けた者、包括受遺者の扱い等、当事者範囲の検討は事案ごとに丁寧に行います。
第2に、遺産帰属を争っていない共同相続人の扱い。遺産帰属を主張する側に立てない、しかし対立もしていない共同相続人については、原告側に立つよう協力を求めるのが原則ですが、協力が得られない場合には被告側に回す扱いが一般的です。固有必要的共同訴訟である以上、合一確定のために全員を当事者にする必要があり、立場が中立であっても訴訟外に置くことはできません。
第3に、行方不明・所在不明の共同相続人がいる場合の対応。不在者財産管理人(民法25条)の選任を申し立て、管理人を当事者として関与させる方法、公示送達を活用する方法などが必要になります。当事者の漏れを避けることが優先です。
訴えを起こされた側(遺産帰属を争う側)
逆に、被告側として遺産確認の訴えを受けた立場では、本判例を踏まえて次の点を検討します。
第1に、当事者適格の欠缺。原告側が共同相続人全員を当事者にしていないことが判明した場合、本案前の主張として訴え却下を求めることが考えられます。本件の控訴審・最高裁判決はまさにこの構造で訴え却下を維持した事例です。
第2に、遺産帰属性そのものの争い方。当事者に欠缺がない場合は、本案で「当該財産は遺産に属さない」ことを争うことになります。本件のように、登記名義人(配偶者)が当該財産は自己が国から直接買い受けたものだと主張する形、生前贈与・売買があったと主張する形、名義信託の解消が済んでいたと主張する形など、事案に応じた構成が必要です。
立証上のポイント
本件の最高裁判決は、専ら手続法上の論点(当事者適格)について判断したものですが、その実質的根拠は既判力による紛争解決機能にありました。
実務上は、訴え提起前に戸籍の遡及調査を徹底し、共同相続人を漏れなく特定することが立証以前の前提になります。代襲相続、相続放棄、相続分譲渡、包括遺贈の有無を一つひとつ確認し、当事者から漏れる者がいないように構成を組み立てる作業が、本判例の射程に直結する実務的要所です。
加えて、本案の遺産帰属性そのものに関する立証では、当該財産の取得経緯を示す同時代証拠(売買契約書、登記原因証書、取得資金の出捐者を示す証拠等)が中心になります。本件の控訴審判決でも、登記名義人が現実の買主であると認定するにあたって、売渡証書の存在、所有権移転登記の経緯、取得資金の出所(被控訴人の実母から贈与を受けた金銭)などが詳細に検討されており、取得時点の客観的証拠の積み上げが事実認定の決め手になることがうかがえます。
併せて検討すべき周辺論点
本判例は遺産確認の訴えの当事者適格に関する判断ですが、関連して次の論点も併せて検討しておくと実務上有益です。
第1に、家庭裁判所での遺産分割審判との手続的な関係。家庭裁判所は遺産の範囲そのものを確定的に判断する権限を持たないため、遺産帰属性に争いが残る場合、遺産分割調停・審判はそのまま進められません。遺産確認の訴え(地方裁判所)で遺産の範囲を確定させてから、家庭裁判所での遺産分割手続に進むのが一般的な流れです。
第2に、共有持分確認の訴えとの違い。共同相続人の一人が自己の共有持分そのものの確認を求める訴えは、本判例の射程とは別の訴えとして扱われます。もっとも、自己の持分の確認だけでは「当該財産が遺産分割の対象となる」ことについて他の相続人との関係で既判力が生じないため、遺産分割の前提問題として遺産の範囲を確定させる目的では、遺産確認の訴えのほうが実務的な機能を果たします。
第3に、令和3年改正民法との関係。令和5年4月1日施行の民法改正により、相続開始から10年を経過した遺産共有持分については、遺産分割によらず物権共有として処理する余地が生じました(民法258条の2第2項)。また、相続開始から10年を経過すると、原則として具体的相続分(寄与分・特別受益)の主張ができなくなります(民法904条の3)。これらの改正は、遺産分割を長年放置した場面の処理に影響しますが、遺産確認の訴え自体の性格(固有必要的共同訴訟性)を変えるものではありません。ただし、長期間放置された遺産については、遺産確認の訴えで遺産帰属性を確定させたうえで、改正法に従って速やかに処理を進めるという実務対応が求められる場面が増えると考えられます。

