【判例解説】相続させる遺言でもらうはずの人が先に死亡したら効力なし(最高裁平成23年2月22日判決)

30秒で要点

結論:相続させる遺言でもらうはずの人が遺言者より先に死亡した場合、相続させる遺言は原則として効力を生じません(特段の事情がない限り)。
理由:遺言者は通常、遺言時点の特定の推定相続人に取得させる意思にとどまり、代襲者(亡くなった人の子など)まで予定した一般的意思は推認できないから。
注意点:遺言に補充条項(先死亡時の受け皿)を置けば結論が変わる余地あり。明文規定のある遺贈との区別にも注意。

目次

まず結論

本判例(最高裁平成23年2月22日判決)は、相続させる遺言でもらうはずの人が遺言者より先に死亡した場合、遺言者が代襲者等に承継させる意思を示した特段の事情がない限り、遺言は効力を生じないと示しました。

事案の概要

母Aの「遺産全部を長男Bに相続させる」公正証書遺言があったが、Bが先に死亡。Aの死亡後、妹Xが法定相続分の持分確認を求めた事件です。

登場人物は、被相続人A、その子BとX、Bの子(上告人ら)。Aは1993年2月17日に「財産全部をBに相続させる」条項と遺言執行者条項のみから成る公正証書遺言を作成。Bは2006年6月21日に死亡し、その後Aが同年9月23日に死亡。Aは不動産の持分を有していました。Xは「Bが先に亡くなったので遺言は効力を生じず、自分は法定相続分を取得した」と主張し、Bの子らに対し共有持分の確認を求めました。

争点の整理

相続させる遺言でもらうはずの人が遺言者よりも先に死亡したとき、遺言の効力が残るか(代襲相続が発生するか)。

  • 争点1:相続させる遺言でもらうはずの人が遺言者よりも先に死亡した時に代襲相続が発生するか(名宛人の子に自動的に引き継がれるか)。
  • 争点2:遺言の解釈で補充指定(先死亡なら○○に相続させる)を読み取れるか。
  • 争点3:「相続させる遺言」と「遺贈」との違い

裁判所の判断

結論は「原則効力なし」。理由は、遺言者の意思は通常、遺言時点の特定人に限られ、代襲者までの承継意思は推認しがたいから。

最高裁は、「特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない」と明言。遺言書はBへの包括指定と執行者指定の2条のみで、先死亡時の受け皿を示す記載がなく、作成当時にその点の考慮もなかったことから、特段の事情は認められないとしました。結果、Xの請求を認容した原審(東京高裁)判断を是認し、上告を棄却しています。

実務への影響・チェックリスト

相続させる遺言には、必ず先死亡時の補充指定を入れる――これが実務の定石になりました。

  • チェック1:相続させる遺言でもらうはずの人が先に亡くなることを想定した補充条項(例:「Bが先に死亡・同時死亡・相続欠格のときは、その子Cに相続させる」)を入れる。
  • チェック2:「相続させる」か「遺贈」かの使い分け(登記・承継時期や遺留分(最低限もらえる取り分)対応が異なります)。
  • チェック3:包括指定(遺産全部)でも同様の理屈が及ぶ前提を押さえる(最判平成3年4月19日、最判平成21年3月24日の系譜)。
  • チェック4:先行高裁の代襲肯定例(東京高判平成18年6月29日)は最高裁で統一見解に収斂したことを確認。

似た場面での分岐点

相続させる遺言に先死亡の場合の補充指定が「ある」ならその指定に従い、「ない」なら原則として効力不発生→法定相続(法律どおりの分け方)に戻ります。

  • 「補充指定あり」(「Bが先死亡ならCに相続させる」等)なら → 補充指定どおりに承継
  • 「補充指定なし」なら →「相続させる」条項は原則効力不発生。法定相続に回帰。

判例比較表

項目本件比較判例実務メモ
要件相続させる遺言でもらうはずの人が遺言者より先に死亡。補充指定なし。最判平成3年4月19日(「相続させる」=遺産分割方法の指定)/最判平成21年3月24日(遺産全部の指定にも及ぶ)/東京高判平成18年6月29日(代襲肯定の先例)本件は「特段の事情なし→効力不発生」。補充条項の設計が肝。
帰結原則効力不発生。法定相続に回帰。平成18年東京高判は代襲肯定だが、最高裁が統一方向を示した。高裁先例に依拠せず、最高裁基準で検討。
補足参照法令に民法887条・908条ほか遺贈なら民法994条で受遺者先死亡時は当然失効。「相続させる」か「遺贈」かで出口が異なるため、文言選択に注意。

よくある質問(FAQ)

「相続させる遺言」と「遺贈」は何が違いますか?

「相続させる」は遺産分割方法の指定(相続で承継)、遺贈は贈与に似た仕組み(受遺者に贈る)です。前者は本件最高裁が前提とする法理が適用され、後者は民法994条で受遺者先死亡なら失効と明文があります。

相続させる遺言でもらうはずの人が先に亡くなったら、その子が自動的に引き継ぎますか?

いいえ、遺言に補充指定(「先死亡なら子に相続させる」)がある等の特段の事情がない限り、自動的には引き継がれません。本判決は代襲相続を原則として否定しています。

補充条項はどのように書けばよいですか?

「Bが遺言者より先に死亡・同時死亡・相続欠格・廃除の場合は、その子C(CがいないときはX)に相続させる」等と多段指定にしておくと安全です。本件のような空白を防げます。

相続させる遺言の名宛人が先に死亡した場合、遺産はどう分けますか?

遺言のその部分は効力不発生となり、原則として法定相続に戻ります。被相続人の子やその代襲者(孫など)が民法887条に従って相続人となります。

関連判例・参考情報

  • 最高裁第三小法廷 平成23年2月22日 判決(平成21年(受)1260号)「土地建物共有持分権確認請求」—民集65巻2号699頁・判例タイムズ1344号115頁
  • 最判平成3年4月19日(「相続させる」遺言の性質)・最判平成21年3月24日(遺産全部の指定)・東京高判平成18年6月29日(代襲肯定例)
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