認知症の相続人がいる場合、遺産分割はどうすればいいですか?成年後見は必要ですか?

回答

認知症などにより判断能力(手続能力)が欠けている相続人がいる場合、そのままの状態では有効な遺産分割を行うことができません。判断能力がない状態で成立した遺産分割協議・調停や、出された審判は無効となります。このような場合、家庭裁判所に後見開始の申立てを行い(民法7条)、選任された成年後見人が本人の法定代理人として遺産分割手続に関与することになります(民法859条)。

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結論

認知症の相続人がいる場合、遺産分割を有効に成立させるには、原則として成年後見人の選任が必要です。

遺産分割は、協議・調停・審判のいずれであっても、当事者に判断能力(手続能力)があることが前提となります。判断能力がない状態のまま遺産分割を行っても、その結果は無効です。したがって、認知症の程度が重く、判断能力に疑いがある相続人がいるときは、後見開始の審判を申し立て、選任された成年後見人(せいねんこうけんにん:判断能力が不十分な人に代わって法律行為を行う者として家庭裁判所に選任された人)を法定代理人として手続を進めることになります。

根拠と条件

判断能力が必要な理由

遺産分割手続において当事者に判断能力が求められるのは、調停では話し合いによる合意が必要であり、審判でも手続に関与し自らの利益を主張する能力が不可欠だからです。この点は訴訟手続と同様です。

判断能力がないにもかかわらず成立した調停や、それを前提に出された審判は、無効となります。

成年後見が必要となる場合

相続人のうちに認知症等によって判断能力に疑いのある者がいる場合、その有無を確定させない限り、遺産分割調停を進めることはできません。

具体的には、家庭裁判所が作成・用意している成年後見開始申立ての際に用いられる診断書の提出を求め、判断能力の有無・程度を検討することになります。診断書の提出は、当該当事者の家族に依頼するのが通常です。

診断書等の検討の結果、判断能力に問題がないと判断されれば、そのまま調停を進めることができます。一方、判断能力に疑いが認められ、後見開始の手続が必要と判断された場合は、当該当事者について後見開始の申立てが行われ、成年後見人が選任された上で手続が進行することになります。

成年後見人の法的根拠

成年後見制度の根拠条文は、以下のとおりです。

  • 後見開始の審判:精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者について、家庭裁判所が後見開始の審判をすることができます(民法7条)
  • 成年後見人の権限:成年後見人は、成年被後見人の財産に関する法律行為について包括的な代理権を有します(民法859条)

具体的な場面での適用

設例:相続人の1人が認知症と判明した場合

被相続人Aの相続人が配偶者Bと子C・Dの3名で、Bが認知症により判断能力に疑いがある場合を考えます。

この場合、C又はDが遺産分割調停を申し立てたとしても、Bの判断能力が確定しない限り調停を進めることはできません。家庭裁判所は、Bについて診断書等の客観的資料の提出を求め、判断能力の有無を確認します。判断能力が欠けていると認められた場合には、Bについて後見開始の申立てを行い、選任された成年後見人がBの法定代理人として調停に関与することになります。

後見開始の申立てがされない場合

後見開始の申立てを促しても申立てがなされず、成年後見人が選任されない場合には、調停委員会としては調停を進めることができません。遺産分割事件は、一般的には「手続が遅滞することにより損害を生じるおそれがあるとき」とは認め難いことから、特別代理人(家事事件手続法19条1項)の選任も困難です。この場合、最終的には調停を終了させざるを得ない(「なさず」)こともあり得ます。

そのため、遺産分割の前に認知症の相続人がいることが分かっている場合には、まず後見開始の申立てを行い、成年後見人の選任を終えてから、遺産分割の手続に入ることが望ましいといえます。

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