仮想通貨(暗号資産)やデジタル遺産は相続の対象になりますか?

回答

仮想通貨(暗号資産)は、資金決済法上の財産的価値として相続の対象となり、遺産分割の対象財産として扱われます(資金決済法2条14項、民法896条)。その他のデジタル遺産も、財産的価値のあるものは原則として相続の対象ですが、アカウント上のサービス利用権や利用許諾(ライセンス)にすぎないものなど、一身専属的な性質をもつものは対象外です。

目次

暗号資産・デジタル遺産の意味と種類

暗号資産(かつては「仮想通貨」と呼ばれていたもの)とは、資金決済に関する法律(資金決済法)2条14項に定義される財産的価値をいいます。ビットコインやイーサリアムなどが代表的です。暗号資産は、電子的に記録され、不特定の者に対する代金の支払い等に使用でき、かつ法定通貨やそれに準ずるものではない財産的価値と定義されています。

「デジタル遺産(デジタル遺品)」は法律上の用語ではありませんが、一般に、被相続人(亡くなった方)がデジタル形式で保有していた財産や、インターネット上のサービスに関する権利・情報を広く指す言葉として使われています。デジタル遺産には、大きく分けて次のようなものがあります。

  • 財産的価値のあるもの: 暗号資産、電子マネーの残高、ネット証券口座の有価証券、ネットバンキングの預貯金、NFT(非代替性トークン)など
  • 収益を生む可能性のあるもの: アフィリエイト収益のあるウェブサイト、収益化された動画チャンネルなど
  • 利用権・ライセンスにすぎないもの: 電子書籍、ダウンロードした音楽・映像データ、SNSアカウントなど
  • 債務となりうるもの: サブスクリプション(定額制サービス)の契約など

相続との関係では、「財産的価値があり、かつ被相続人の一身に専属するもの(民法896条ただし書)でないもの」が相続の対象となります。このうち、相続の対象となるかどうかの判断が特に問題となるのが暗号資産・電子マネー・電子書籍などのデジタル特有の財産です。

種類ごとの相続可否

デジタル遺産が相続・遺産分割の対象となるかは、その法的性質によって異なります。種類ごとの基本的な考え方は以下のとおりです。

種類相続遺産分割根拠・理由
暗号資産(ビットコイン等)財産的価値あり。可分債権に該当せず、遺産分割の対象
ネット証券口座の株式・投資信託通常の株式・投資信託と同様
ネットバンキングの預貯金通常の預貯金と同様(最大決平成28年12月19日)
電子マネー残高(PayPay等)払戻請求権は可分債権として当然分割が原則。ただし実務上は事業者が協議書等を求めることが多い。払戻しの可否は利用規約を要確認
ポイント・ゲーム内通貨利用規約で譲渡禁止や死亡時の消滅が定められていることが多く、相続できないケースも多い
収益サイト・チャンネルサイト自体の財産的価値は相続対象となりうるが、プラットフォームのアカウントは利用規約による
電子書籍・音楽データ××データそのものの購入ではなく、利用許諾(ライセンス)にすぎない。規約上、購入者本人限りの権利(一身専属)とされることがほとんど
SNS・メールアカウント××一身専属的なサービス利用権。規約上、アカウントの譲渡・相続が禁止されることが多い
サブスクリプション契約○(債務)契約者が死亡しても自動解約されないのが原則。利用料の支払義務(債務)が相続人に承継される

以下、主なものについて補足します。

暗号資産

暗号資産は、資金決済法により財産的価値が法的に認められています。相続が開始すると、被相続人の暗号資産は相続財産として相続人に承継されます(民法896条)。

暗号資産が遺産分割の対象となるかどうかについては、当然に相続分に応じて分割される可分債権(かぶんさいけん)に該当するかが問題となります。暗号資産は預貯金債権のような金融機関に対する債権とは性質が異なり、可分債権には該当しないと解されています。したがって、暗号資産は、遺産分割の対象財産として扱うのが合理的です。

なお、暗号資産は相続税の課税対象にもなります。

電子マネー

電子マネー(ペイメントサービスに係る払戻請求権)は、法的には発行者に対する金銭債権であり、相続の対象となります。金銭債権は可分債権として相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割承継されるのが原則ですので、法律上は遺産分割を経ずに各相続人が単独で法定相続分相当額の払戻しを請求できることになります。

もっとも、実務上は事業者側が相続人全員の同意書や遺産分割協議書の提出を求めてくるケースが多く、単独での手続は困難な場合が多いのが現状です。また、そもそも払戻しに応じるかどうかは各サービスの利用規約の定めによります。

なお、預貯金債権については、かつては電子マネーと同じく可分債権として当然分割とされていましたが、最大決平成28年12月19日により遺産分割の対象に変更されています。電子マネーの払戻請求権について同様の判例変更はまだなく、法律上は当然分割の原則が維持されています。

電子書籍・音楽データ

電子書籍やダウンロードした音楽・映像データは、データそのものを「購入」しているように見えますが、法的には利用許諾(ライセンス)を受けているにすぎません。多くのサービスの利用規約では、このライセンスは購入者本人限りの権利(一身専属)とされており、相続の対象とはならないのが一般的です。

サブスクリプション

動画配信や音楽配信、有料アプリなどのサブスクリプション(定額制サービス)の契約は、特約がない限り、契約者の死亡によって自動的には解約されません。そのため、利用料の支払義務(債務)が相続人に承継されることになります。遺産分割との関係では、債務(マイナスの財産)は遺産分割の対象ではなく、法定相続分に応じて当然に分割承継されます。

ネット銀行・ネット証券

ネットバンキングの預貯金やネット証券口座の株式・投資信託は、管理がオンラインであるだけで法的性質は従来の預貯金や有価証券と変わらず、通常どおり相続・遺産分割の対象となります。

ただし、ネット専業の金融機関は通帳や郵便物が届かないことが多いため、相続人が口座の存在自体に気づかないことがある点には注意が必要です。

遺産分割における暗号資産の評価と分割方法

評価の方法

暗号資産は価格変動が大きいため、評価の基準時(いつの時点の価格で評価するか)が重要です。遺産分割における財産の評価は、原則として遺産分割時の時価によるとされており、暗号資産についても分割時の取引価格を基準とするのが基本的な考え方です。具体的には、暗号資産交換業者(取引所)における取引価格を参照して評価することになります。

分割の方法

暗号資産の分割方法としては、相続人の一人が暗号資産をそのまま取得し、他の相続人に代償金を支払う代償分割が実務上は利用しやすいと考えられます。暗号資産を換金(売却)して代金を分配する換価分割の方法もあります。なお、暗号資産は数量で分割可能な性質をもつため、各相続人が相続分に応じた数量を取得する現物分割も理論上は可能です。

暗号資産特有の実務上の課題

暗号資産の相続では、所在の特定とアクセスの確保が最大の課題です。

暗号資産交換業者(取引所)にアカウントがある場合は、相続人であることを証明して残高照会や相続手続を行うことが可能です。しかし、個人のウォレットで管理されている暗号資産については、秘密鍵やパスワードがわからなければアクセスすること自体ができません。とりわけ、ハードウェアウォレット(専用の端末で秘密鍵を管理する方法)を使用していた場合やシードフレーズ(復元キー)が不明な場合は、資産に永久にアクセスできなくなるおそれがあります。

また、暗号資産の売却や移転に伴う課税関係にも注意が必要です。暗号資産の売却益は所得税の課税対象となるため、分割方法の選択に当たっては税務上の影響も考慮する必要があります。

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