遺産分割で不動産鑑定が必要になるのはどんなケースですか?費用の目安も教えてください
遺産分割で不動産鑑定(不動産鑑定士による正式な鑑定)が必要になるのは、主に相続人の誰かが不動産の現物取得(代償分割を含む)を希望している場合や、特別受益・寄与分の主張がある場合で、かつ当事者間で評価額の合意ができないときです。鑑定費用は原則として法定相続分に応じて当事者が負担します。
結論
遺産分割において不動産鑑定が必要になるのは、不動産の評価額を確定しなければ公平な分割ができないケースで、かつ当事者間で評価額の合意が得られない場合です。
裁判所(家庭裁判所)が鑑定を実施する根拠は、家事事件手続法64条1項および民事訴訟法212条に定められています。ただし、鑑定には費用と時間がかかるため、調停においては、まずは当事者間の合意による評価の確定が優先され、鑑定はあくまで最後の手段と位置づけられています。
根拠と条件
鑑定が必要になるケース
不動産の評価の確定が必要になるのは、次のような場面です。
第一に、相続人の誰かが遺産である不動産の現物取得を希望する場合です。現物取得には代償取得(代償分割)も含まれます。不動産の評価額次第で代償金の金額が変わるため、評価の確定が不可欠です。
第二に、特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)や寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)が主張されている場合です。この場合、法定相続分ではなく具体的相続分を算定する必要があるため、現物取得の希望があるかどうかにかかわらず、不動産の評価の確定が求められます。
鑑定が不要なケース
逆に、不動産について現物取得の希望がなく、特別受益等の主張もなければ、法定相続分による換価分割(売却して代金を分ける方法)または共有分割となるため、評価の確定自体が不要であり、鑑定を実施する必要はありません。
鑑定に至るまでの段階
調停の実務では、不動産の評価を確定するために、いきなり鑑定を行うわけではありません。まずは当事者間の合意を目指し、次のような方法が段階的に試みられます。
| 段階 | 評価方法 | 概要 |
|---|---|---|
| フェーズ1 | 当事者全員の合意 | 固定資産税評価額や路線価等の公的基準をもとに合意を目指す |
| フェーズ2 | 公的基準による調整 | 固定資産税評価額、相続税路線価、地価公示価格等を活用する |
| フェーズ3 | 不動産業者の査定書 | 2通以上の査定書を取得し、中間値を基準に合意を調整する |
| フェーズ4 | 不動産鑑定 | 上記のいずれでも合意できない場合に、最終手段として実施する |
鑑定費用の負担
鑑定を実施するには、費用全額の予納(あらかじめ裁判所に納付すること)が必要です。鑑定費用は、原則として法定相続分に応じて各当事者が負担します。
鑑定に反対する当事者や欠席当事者がいて予納に協力しない場合には、鑑定を申し立てた当事者等が一旦全額を予納し、調停成立時の調停条項や審判主文で精算することになります。
鑑定費用の目安
不動産鑑定の費用は、対象不動産の種類と評価額によって異なります。宅地または建物の鑑定評価の場合、おおよその目安は次のとおりです。
| 評価額 | 鑑定報酬の目安(税抜) |
|---|---|
| 1,000万円程度 | 約18万〜20万円 |
| 3,000万円程度 | 約23万〜25万円 |
| 5,000万円程度 | 約28万〜30万円 |
| 1億円程度 | 約39万〜42万円 |
上記は一般的な宅地・建物の鑑定費用の目安です。土地と建物を一体で評価する場合や、借地権・使用借権が絡む場合など、評価が複雑になるケースでは加算が生じるため、これより高額になることがあります。実際の費用は鑑定事務所に個別に見積りを取って確認する必要があります。
費用は決して安くはありませんが、遺産分割で問題となる代償金の額は数百万円から数千万円に及ぶことも珍しくないため、適正な評価に基づかない分割が経済的不利益をもたらすリスクと比較すると、合理的な費用といえます。
具体的な場面での適用
【設例1】代償分割を希望するケース
被相続人Aの遺産は自宅の土地建物と少額の預貯金で、相続人は子B・Cの2名(法定相続分各2分の1)とします。Bが自宅の取得を希望し、Cに代償金を支払う方針で合意したものの、不動産の評価額について、Bは固定資産税評価額(約2,000万円)を、Cは時価(約3,000万円)を主張し、折り合えない場合、不動産鑑定を実施して評価額を確定する必要があります。
【設例2】特別受益が主張されているケース
遺産である不動産の取得を希望する当事者がいない場合でも、特別受益の主張がされていれば、具体的相続分を算定するために不動産の評価の確定が必要です。当事者間全員の合意が得られなければ、鑑定を実施して評価を確定することになります。
なお、取得希望者のいない山林や原野等については、鑑定費用がその評価額を超えることが確実であるため、調停委員会としては固定資産税評価額または無価値(0円)で合意するよう当事者を説得し、鑑定を回避するのが実務上の扱いです。

