古い建物がある土地の相続で、解体費用は評価額から差し引けますか?

回答

遺産分割において、遺産である建物の解体費用を評価額から差し引くことは、原則として認められません。遺産である建物は、そのままの状態で評価するのが実務上の原則です。ただし、不動産鑑定で取壊しが最有効使用と判断された場合には解体費用が考慮される可能性があり、建物の経済的価値がゼロと判断できる場合には土地の評価で調整が行われることもあります。

目次

結論

遺産分割で遺産である建物の評価額を確定する際に、将来の解体費用を控除することは、原則として認められません。

遺産分割(共同相続人の間で遺産の分け方を決める手続)は、相続開始時に存在する遺産をそのままの状態で分けるものです。建物が古い、空き家であるなどの事情があっても、遺産の評価はその建物が現に存在する状態を前提に行われます。売買のように当事者が自由に価格を決められる場面とは異なり、遺産分割での評価は現状をもとに行うのが通常の取扱いです。

根拠と条件

原則:解体費用は控除しない

遺産分割における不動産の評価は、遺産の現状を基礎として行います。被相続人が亡くなり相続が開始すると、共同相続人は遺産である不動産をそのままの状態で承継します。遺産分割によって特定の相続人がその不動産を取得するとしても、取得後に建物を解体するかどうかは取得者が決めることです。

したがって、遺産分割の段階で将来の解体費用をあらかじめ控除して評価額を定めることは、通常は行いません。

当事者全員の合意がある場合

協議や調停(家庭裁判所での話し合い)で当事者全員が合意した場合には、解体費用を考慮して評価額を定めることも可能です。遺産分割協議は相続人全員の合意で成立するものですから、評価の方法についても全員が納得していれば柔軟な取扱いが認められます。

建物の価値がゼロと判断できる場合

老朽化等の理由から遺産である建物に経済的な価値がないと判断できる場合には、解体費用そのものを控除するわけではありませんが、以下のような取扱いがなされることがあります。

  • 当該建物の評価額をゼロ円とする
  • 建物の存在が土地の利用価値に影響を与えている場合、土地の評価の確定において考慮する

つまり、「解体費用を引く」のではなく、「建物の価値がない」という評価や「土地の評価に建物の影響を反映させる」という形で、実質的に調整が行われる場合があるということです。

矛盾した主張は認められにくい

たとえば、自宅として現在も居住し続けている建物の取得を希望しながら、解体費用を算出してその控除を求めるような主張は、取得して住み続ける建物の解体を前提に評価を下げようとするもので、主張自体に矛盾があるといわざるを得ません。このような場合、解体費用の控除は認められにくいでしょう。

不動産鑑定を依頼した場合の評価

当事者間で評価額が折り合わず、不動産鑑定を実施する場合には、不動産鑑定評価基準に基づく「最有効使用」(その不動産の経済的価値を最大限に発揮する利用方法)の観点から評価が行われます。

建物を取り壊して更地にすることが最有効使用と判断された場合、鑑定評価額は更地としての価格をベースに、建物の解体による発生材料の価格から取壊し・除去・運搬等に必要な経費を控除した額を加減して決定されます。つまり、鑑定の結果として解体費用が評価額に反映されることはあり得ます。

また、老朽化した建物が残っている土地について、建物には経済的価値がないと判断されるケースでは、建物の鑑定評価は行わず、土地だけを更地として評価する「独立鑑定評価」が行われることもあります。この場合、鑑定評価書には「対象地の上に建物が存するが、この建物がないものとして更地として評価する」旨が明示されます。

さらに、建物が現在の経済環境に適合しなくなっている場合には、用途変更やリフォーム等を行った後の状態での価額を求め、そこから用途変更等に要する費用を差し引いて評価額を決定するという手法が用いられることもあります。

このように、鑑定評価を実施する場合には最有効使用の観点から解体費用が考慮される余地がありますが、鑑定を取らない段階で一方の当事者が「解体費用を差し引いてほしい」と主張するだけでは、通常は認められないということです。

具体的な場面での適用

場面1:老朽化した空き家が建っている土地を相続する場合

被相続人Aの遺産として、古い木造住宅(築50年)が建っている土地があるとします。相続人Bがこの土地を取得する場合、Bは「建物を解体しなければ土地を有効活用できないから、解体費用を差し引いた金額で評価すべきだ」と主張するかもしれません。

当事者間の話し合いレベルでは、解体費用の控除は通常認められません。もっとも、建物に経済的価値がないと判断されれば、建物自体の評価額はゼロ円とされる可能性があります。また、不動産鑑定を実施した結果、取壊しが最有効使用と判断されれば、鑑定評価額において解体費用が考慮される可能性もあります。

場面2:居住中の建物について解体費用の控除を求める場合

相続人Cが被相続人の自宅に現在も居住しており、その建物の取得を希望しているとします。Cが「建物は老朽化しているから、将来の解体費用を差し引いて評価してほしい」と主張した場合、これは居住を続ける(=建物を使い続ける)意思と、解体を前提とした評価を求める主張が矛盾しています。このようなケースでは、解体費用の控除は認められにくいです。

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