親の建物に無償で居住していた場合、特別受益になりますか?
被相続人が所有する建物に相続人が無償で住んでいた場合、原則として特別受益(民法903条1項)には該当しません。建物の無償使用は恩恵的要素が強く、遺産の前渡しとしての性格が薄いため、賃料相当額を特別受益として持ち戻す必要はないと考えられています。
結論
被相続人の建物に相続人が無償で住んでいた場合、特別受益として持ち戻しの対象になることは、原則としてありません。
これは、相続人が被相続人と同居していた場合でも、同居していなかった場合でも同様です。建物の無償使用は、親が子に住まいを提供するという恩恵的な性格が強く、相続分の前渡しとして行われたものとは通常評価されないためです。
なお、この結論は「建物」の無償使用についてのものです。被相続人の「土地」の上に相続人が建物を建てて無償で使用していた場合は、使用借権相当額が特別受益となり得ます。土地と建物では結論が異なる点に注意が必要です。
根拠と条件
建物の無償使用が特別受益にならない理由
特別受益(被相続人から生前に受けた贈与や遺贈などの特別な利益)は、「生計の資本としての贈与」に該当する場合に持ち戻しの対象となります(民法903条1項)。しかし、建物の無償使用については、以下の理由から特別受益にはあたらないと考えられています。
第一に、建物の使用貸借(無償で借りて使うこと)は恩恵的要素が強く、遺産の前渡しという性格は定型的に薄いとされています。親が子に自宅の一部や所有建物を使わせることは、通常、将来の相続分を先に渡す趣旨ではなく、情宜に基づく行為と評価されます。
第二に、建物の使用借権には第三者に対する対抗力がなく、明渡しも比較的容易であることから、経済的価値はないに等しいとされています。この点は、使用借権であっても更地価格の1割程度の経済的価値が認められる土地の場合と大きく異なります。
第三に、仮に賃料相当額を特別受益として計算すると、居住期間が長い場合にはその合計額が相当な多額となり、遺産総額と比べて過大になってしまうという問題があります。
被相続人と同居していた場合
相続人が被相続人と同居していた場合、当該相続人は建物の占有補助者(被相続人の占有を補助する立場にある者)にすぎず、独立した占有権限を持たないと評価されます。使用借権があるとも認められないため、建物の無償使用には財産的価値がなく、特別受益にはなりません。
なお、他の相続人から「自分は実家を出て家賃を払って暮らしているのに、同居していた相続人は家賃の負担なく住み続けていたのだから不公平だ」と主張されることがありますが、同居の事実だけでは特別受益の問題は生じません。
被相続人と同居していなかった場合
相続人が被相続人と同居せず、被相続人所有の建物に独立して住んでいた場合には、当該相続人に独立の占有が認められ、賃料相当額が特別受益にあたるとの主張がされることがあります。
しかし、この場合でも、特別受益とは認められないのが通常の扱いです。前述のとおり、建物の無償使用は恩恵的要素が強く、経済的価値もないに等しいためです。
被相続人がアパート等の賃貸不動産を所有しており、その1室に相続人が無償で居住していた場合や、同じアパートの他の賃借人と比べて賃料額が安く抑えられていた場合にも、その差額を特別受益と主張されることがありますが、これらも恩恵的要素が強いとして、特別受益とは認められません。
例外的に問題となり得るケース
建物の無償使用が特別受益にならないという原則に対して、いわゆる収益物件を本来賃貸しているものを相続人に無償で居住させたというケースでは、場合によっては賃料相当額が特別受益になり得るという見解もあります。ただし、この場合でも持戻し免除の意思表示(民法903条3項)があったものと認めるのが相当であるとされています。
具体的な場面での適用
設例1:被相続人と同居していたケース
被相続人Aの相続人は、長男Bと二男Cの2名です。Bは高校卒業後に実家を出て独立し、家賃を支払ってアパートに住んでいました。Cは実家を出ることなく、Aの死亡時までA所有の自宅にAと同居していました。BはCの無償居住を不公平として、特別受益にあたると主張しました。
この場合、CはAの建物における占有補助者にすぎず、独立の占有権限や使用借権を有するわけではありません。したがって、Cの無償居住は特別受益にはあたりません。
設例2:被相続人と別居して建物を使用していたケース
被相続人Aの相続人は、長女Bと二女Cの2名です。Aは自宅のほかにマンションの一室を所有していましたが、BがそのマンションにAの許諾を得て無償で居住していました。CはBの無償居住が特別受益にあたると主張しました。
この場合でも、建物の無償使用は恩恵的要素が強く、遺産の前渡しという性格が定型的に薄いため、原則として特別受益にはあたりません。

