寄与分を認めてもらうにはどんな証拠が必要ですか?

回答

寄与分(被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人に認められる上乗せ分)の主張は、主張する側に立証責任があります。寄与の類型(療養看護型・家業従事型・金銭等出資型・扶養型・財産管理型)ごとに、被相続人の状況、寄与行為の内容・期間、無償性、財産への効果を裏付ける証拠資料を準備する必要があります。

目次

手続の概要

寄与分(民法904条の2)は、遺産分割調停・審判において当事者が主張して初めて検討される事項です。遺産分割調停・審判は家事事件であり職権主義が適用されていますが、当事者が寄与分を主張しない限り、調停委員会が職権で寄与分を取り上げて具体的相続分を算定することはありません。また、寄与分を定める処分の審判の申立てがされていないときに、裁判官が審判で職権により寄与分を判断することも認められません。

この意味で、寄与分についても、特別受益と同様に、当事者に「主張責任」があるといってよく、寄与分の主張の裏付けとなる証拠資料の提出をし尽くすことが必要です。

裁判所によっては、当事者に適確に寄与分について主張立証をしてもらうために、「寄与分の主張を検討する皆様へ」「寄与分主張のポイント」「寄与分主張整理表」といった書面を用意しています。

寄与の類型ごとに必要な証拠

寄与分の成立要件に関する事項を確認し、同要件を満たしている場合には、評価額を算定するための具体的資料等を確認することになります。以下、類型ごとに主な確認事項と証拠資料を整理します。

療養看護型の証拠

療養看護型(相続人が病気療養中の被相続人の療養看護に従事した場合)の寄与分を主張するためには、以下の事項を裏付ける証拠が必要です。

被相続人の当時の病状(療養看護の必要性) として、病状を直接的に証明する「診断書」「カルテの写し」「死亡診断書」など、間接的に証明する「入院費用明細書」「領収書」などが考えられます。被相続人が要介護認定を受けていれば、認定された要介護度と認定時期を確認します。認定を受けていなければ、当時の病状を明らかにし、要介護状況を推認するなどの方法によって必要とする看護内容を確認します。

寄与分が認められるためには、被相続人が「要介護度2」以上の状態にあることが一つの目安になると考えられています。

寄与行為の内容 については、療養看護の寄与行為は家庭内のいわば閉ざされた空間の中で行われることが多いため、介護記録、陳述書等の精査により判断を行うことになります。当時の写真、日記、手紙、家計簿等が有用な参考資料となる場合があります。

その他の確認事項 として、以下の点を裏付ける資料も重要です。

  • 被相続人との身分・扶養関係(特別の貢献)
  • 療養看護を行うに至った事情(特別の貢献)
  • 療養看護の時期及び期間(継続性)
  • 報酬の有無、報酬を受けていればその金額(無償性)
  • 療養看護による財産上の効果、介護保険制度の利用状況(財産の維持又は増加との因果関係)
  • 被相続人との同居・別居の有無
  • 同居の場合には、その期間と同居中の住居費や生活費等の負担状況
  • 具体的看護料(介護報酬基準額等に関する内容)

家業従事型の証拠

家業従事型(被相続人の事業に関し労務を提供した場合)の寄与分を主張するためには、以下の事項を明らかにする必要があります。

  • 被相続人との身分・扶養関係(特別の貢献)
  • 労務を提供するに至った事情(特別の貢献)
  • 労務提供の時期及び期間(継続性):おおむね3、4年程度を要するものと思われます
  • 労務の形態及び内容(専従性)
  • 報酬の有無、報酬を受けていればその金額(無償性)
  • 労務の提供による財産上の効果(財産の維持又は増加との因果関係)

具体的な証拠資料としては、確定申告書、事業の収支を示す財務諸表、賃金センサス等を参考にした同種同規模の事業に従事する同年齢層の給与額に関する資料、家計状況を示す資料などが挙げられます。事業の収益性についても、可能な限り明らかにしておく必要があります。

金銭等出資型の証拠

金銭等出資型(被相続人の事業に関して財産上の給付をする場合又は被相続人に対し財産上の利益を給付する場合)では、以下の事項を確認します。

  • 相続人が主張する財産給付の実態:財産給付の時期及び期間、提供した財産の内容、金銭等を提供するに至った事情、財産提供の事実を裏付ける資料の有無
  • 被相続人との身分・扶養関係(特別の貢献)
  • 反対給付として金銭や物品を得ていればその価額(無償性)
  • 財産給付による財産上の効果(財産の維持又は増加との因果関係)
  • 寄与分額算定のための経済指標(金銭贈与の場合には「貨幣価値変動率」、金銭融資の場合には「金利」など)

具体的な証拠資料としては、送金記録、預金通帳、振込金明細書、売買契約書、不動産登記簿謄本、領収書などが考えられます。

扶養型の証拠

扶養型(相続人が被相続人を扶養し、被相続人が出費を免れたため財産が維持された場合)では、以下の事項を確認します。

  • 被相続人の当時の生活状況・経済状況(扶養の必要性)
  • 被相続人が必要とした扶養の具体的内容(扶養の必要性)
  • 被相続人との身分・扶養関係(特別の貢献)
  • 扶養を行うに至った事情(特別の貢献)
  • 扶養の時期及び期間(継続性)
  • 扶養の内容(特別の貢献)
  • 報酬の有無、報酬を受けていればその金額(無償性)
  • 扶養による財産上の効果(財産の維持又は増加との因果関係)
  • 被相続人との同居・別居の有無
  • 同居の場合には、同居に至った事情、同居の期間、同居中の住居費や生活費等の負担状況
  • 相続人らの扶養義務及び扶養能力の内容
  • 扶養に要した費用に関する内容:各種領収証、金銭出納帳(家計簿等)、預金通帳、振込金明細書等の資料を通して、扶養に要した費用を確認します。これらの客観的資料が一切残っていないなどの事情により寄与相続人が負担した金額が明らかでない場合は、厚生労働大臣の定める「生活保護基準」や総務省統計局による「家計調査」等を利用して、扶養に要した費用を推認することになります。

財産管理型の証拠

財産管理型(被相続人の財産を管理することによって財産の維持形成に寄与した場合)では、以下の事項を確認します。

  • 被相続人の財産の状況(財産管理の必要性)
  • 必要と認められる具体的財産管理の内容(財産管理の必要性):第三者委託契約の有無や従前からの管理状況等を把握した上で、被相続人にとって必要であったと思われる財産管理内容を確認します
  • 被相続人との身分・扶養関係(特別の貢献)
  • 財産管理を行うに至った事情(特別の貢献)
  • 財産管理を行った時期及び期間(継続性)
  • 財産管理の内容(特別の貢献)
  • 報酬の有無、報酬を受けていればその金額(無償性)
  • 財産管理による財産上の効果(財産の維持又は増加との因果関係)
  • 被相続人の所有財産(特に不動産)の無償利用の有無
  • 無償利用が認められる場合には、その利用料として相当と思われる額
  • 財産管理に要した費用に関する内容:財産管理行為そのものが寄与行為である場合には、当該行為を第三者に委託した際の報酬額を確認する必要があります。他方、財産管理に要した金銭の出資が寄与行為である場合には、領収書等の客観的資料に基づき相続人が現実に負担した額の確認が求められます。

証拠準備の流れ

ステップ1:寄与の類型を特定する

まず、自身の貢献がどの寄与の類型(家業従事型・金銭等出資型・療養看護型・扶養型・財産管理型)に該当するかを特定します。類型によって必要な証拠資料が異なるため、この特定が出発点となります。

ステップ2:成立要件の充足を確認する

すべての類型に共通する要件として、①被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であること、②寄与行為の結果として被相続人の財産を維持又は増加させていること、の2点があります。これらの要件を満たすかどうかを、客観的な資料に基づいて確認します。

ステップ3:証拠資料を収集・整理する

類型ごとの確認事項に沿って、手元にある証拠資料を収集します。客観的な資料(領収書、通帳、診断書等)が最も重要ですが、これらが残っていない場合には、当時の写真、日記、手紙、関係者の陳述書なども参考資料となり得ます。

ステップ4:寄与分主張整理表を作成する

裁判所が用意している「寄与分主張整理表」の書式に沿って、主張内容と証拠資料を整理します。類型別に4種類用意されていますが、争点を拡散させないために、自身が主張する類型分の「主張整理表」のみを使用することが重要です。

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